25.どちらの手を?
乙女ゲーム的な場面をかいてしまいました(笑)
……サブタイトルは少しふざけました。
「着いたわ!」
馬車が完全に止まる前に、思わずといった様子でクリスティーナは声を上げた。
そんなクリスティーナの明るい声に、眠っていたヴィクトルは目覚めた。
「ん……。!わぁ。長閑な所だね」
「そうでしょう」
クリスティーナは得意げに胸を反らす。
実はあれからまた馬車には静けさが戻っていた。リシュアンが恥ずかしがって顔を背け、会話を拒んだからなのだが……。
「久しぶりに来たが、変わってないな」
当の本人はすっかりいつもの調子になっていた。
「ええ。早く師匠に会いたいわ!」
顔を明るくするクリスティーナに、ヴィクトルとリシュアンは穏やかな笑みを浮かべた。
「それじゃあ、降りようか」
馬車が止まった頃、ヴィクトルがそう言った。
まず、リシュアンが、クリスティーナから見て左側の扉を開け、馬車を降りた。ヴィクトルはそれに続こうとして……。何を思ったのか、自分に近い、右側の扉を開けた。
クリスティーナはヴィクトルと同時に左側の扉から降りようとしたのだが――。
「お姫様。お手をどうぞ」
右側の扉から降りたヴィクトルがまだ馬車に居たクリスティーナに向けて手を差し出した。
「クリス。ヴィクトルに構うな」
クリスティーナが戸惑っていると、今度は左側の扉から降りたリシュアンが手を差し伸べた。
「えっと……」
(どちらを選べと!?)
突如振りまく、2人の輝かしい雰囲気に、クリスティーナはわかりやすく焦りを顔に出す。
「リシュアン?ちょっと黙ってよね。こういうのは兄妹でやることじゃないでしょ?――ねえ?」
(私に同意を求められても困る……)
「そっちこそ黙れ。お前と違って俺はクリスと過ごせる時間が無いんだから。――なあ?」
(お兄様まで私に同意を求めないで……)
「そ、その……気持ちは嬉しいけど、早く降りたいから……2人共、遠慮しておくわ」
2人の顔色を窺いながらクリスティーナはそう言った。
(これで大丈夫)
――とは、ならなかった。
「いや、だから早く僕の手を取ればいいじゃん」
「逆だろ」
クリスティーナを挟み、リシュアンとヴィクトルは火花を散らす。
(どうしよう……)
――膠着状態を唐突に終わらせたのは、朗らかな老人の声だった。
「はっはっはっ。リシュアンも変わらぬのう」
「!師匠」
クリスティーナは焦りを忘れ、顔一杯に喜びを表す。
「クリス、久しぶりじゃな」
現れた老人はそう、クリスティーナとリシュアンの師匠、ジョアシャンであった。
「すっかり大人になったと思っておったが、そんな事もないようだな」
「……」
ジョアシャンは、視線を反らすリシュアンを見ながら笑いかける。
「――ジョアシャン殿、はじめまして。聖境司のヴィクトルと申します」
「ほお。君が、かのヴィクトルか。魔術師としての腕は聞いておる」
「それは、光栄です」
ヴィクトルは微笑を浮かべる。
「――それより、クリスを馬車から出させてあげなさい」
「……わかりました」
「まあ、そういうことなら諦めるしかないか。――ということで、勝負はお預けだよ?」
「わかってる」
(本人の目の前でわざわざ話さないでよ……)
「ほっほっほ。面白い事をしとるのう」
「師匠まで……」
クリスティーナは普段から幼い青年と、偶に幼くなる兄、そして、茶目っ気のある師匠を見て溜め息をついた。
今週は2話しか更新できなかったので、来週はもう少し更新したい……です!




