23.修境記の本質
次回はいつも通り月曜日の午前0時と午後10時頃に更新します。
「ふぁ……」
クリスティーナはいつものようにベッドの上で目覚めた。窓越しにぼやけた世界を見ながら、もう一度寝ようとして止めると、ベッドから跳ね起きた。
(今日はやりたいことがあるのだわ……)
クリスティーナは手慣れた様子で支度を手早く済ませると、自室を飛び出した。
部屋を出て、突き当りにある階段まで進み、クリスティーナは階段を上り始めた。
「お兄様、入ってもいいかしら?」
2階にあるリシュアンの部屋の前に来たクリスティーナは、2冊の本を抱える腕に力を込め、扉越しに問いかけた。
「……ああ」
少し待った後に返された言葉と同時に音を立てて扉が開けられ、リシュアンが姿を現した。
「今日は聞きたいことがあったの。入ってもいい?」
「ああ」
そう言ってクリスティーナを部屋に招き入れた。
(懐かしいわ……そういえば、ここに来るのも久しぶりだわ)
クリスティーナはつい、質素な部屋を視線だけで見回す。そんなクリスティーナが抱えていた本を見て、リシュアンは話を切り出した。
「今日は修境記について訊きに来たのか」
「……うん。気になることがあったの」
いざリシュアンを前にすると、つい躊躇ってしまい、クリスティーナは一度口を閉ざした。
「……言いたいことがあるのなら言ってくれ」
「ありがとう。……その、修境記は2冊あるじゃない?その違いを詳しく知りたいの」
「何故俺に訊きに来たんだ」
「それは……何となく……お兄様なら知っているのかな、と思ったから……」
(言われてみれば……お兄様は魔術師だけれど光の力を使う聖境司である訳でもないのに)
「……そうか。それでは、俺が知っている限りで答えよう」
「ありがとう!」
それからリシュアンは語り出した。
大昔、結界の大部分が破壊された事があった。人々は結界の綻びから侵入した悪魔に苦しめられ、沢山の犠牲者を出す事になった。雨も降らぬなか陽も上らず、農作物は枯れ果てた。根本的的な原因を無くす――つまりは結界を修復するため聖女と聖境司は力を尽くしたが、アムールデースに平和が訪れるのは大分先の事になってしまった。何故なら、悪魔の退治や人々の保護など、結界以外にも気を使わねばならない事があったからだ。
――というのは建前であった。
大部分を損なった結界の修復は、普段行っている結界の補修などとは比べ物にならない程の力が必要だったのだ。魔術を使う事が減り始めたこの時代、それは不可能にも近い事だった。
そこで魔術師達は結界が作られた頃の文献を探し、国を覆う結界の作り方を調べたのだ。
それは、初代聖女がたった一人で大きな結界を張ることが出来たのは、何か方法があるからだと考えたからであった。
そこで見つけたのが、修境記だった。当時はまだ2冊とも残っており、相当な神聖力を持っていたと云う。
「……修境記の記述を見る限り、それのお陰で結界を修復する事が出来たのだろう」
修境記の表紙を撫でながらリシュアンは最後にそう言った。
「――それはつまり、修境記は補修方法が記されているだけではなく、補修方法そのものであるということ?」
「ああ。修境記を使えば結界を作る事が出来る、という事なのだろう」
リシュアンの言葉に、目の前の本がとても神々しく見え、クリスティーナは息を呑んだ。
「……では、こちらの神聖力を感じられない方は結界を作り出すことが出来ない、ということでいいの?」
「そうだろうな」
リシュアンの目は、少なくとも嘘は言ってなさそうだった。
「……お兄様、今日はありがとう。とても参考になったわ」
「それなら良かった」
兄との会話を終わらせ、修境記に恐る恐る手を伸ばし腕に抱えると、クリスティーナは部屋を出た。




