22.クリスティーナの記憶
「お兄様、入ってもいい?」
クリスティーナは兄リシュアンの部屋の扉を軽く叩いた。
2冊の修境記の違いについてと、それをヴィクトルに教えたのか、尋ねに来たのだ。
「……ああ」
返事とともに自ら扉を開けたリシュアンは、クリスティーナが持っている2冊の本に目を留め、顔を強張らせた。
「……とりあえず入れ」
久しぶりに入ったリシュアンの部屋は、不自然な程に物数が少なく、閑散としていた。
(前から変わってないけれど……)
何となく落ち着かない雰囲気を感じながらもいつも通り明るい表情を浮かべた。
「……その本に何か気になることがあるのか?」
「え?……まあ、そうだわ」
「……そうか」
何故か不安気な様子のリシュアンに、クリスティーナは違和感を覚えるが、敢えて指摘はしない。
「ふぅ。……この2冊はとても似ているけれど、本質が違うのよね」
「……ああ」
「――お兄様はどうしてその事を知っているの?」
「……ッ!それは……」
「ヴィクトルには言えても私には言えないのですか?」
「……何故その事を……」
「ふふっ。私が知らないとでも?」
クリスティーナは嗜虐的な笑みを浮かべ、取り調べるかのように尋ねた。
「……お前……まさか――……」
リシュアンはクリスティーナの態度が変わった理由に勘付き、絶句した。
「――オレの事を覚えているとは、嬉しいなあ」
クリスティーナは表情を失い、口元だけを歪めて笑った。
「クリスに何をした。早く失せろ」
「ハッ。全く、久しぶりの再会だったのに冷てえなあ」
クリスティーナと全く同じ声で、同じ姿でそう話しかけた相手に、リシュアンは既視感を覚えた。
「……黙れ」
リシュアンは切り捨てるとクリスの目の前に手をかざし、光の力を放とうとした。
「ほぉ、お前光の力が使えるんじゃないか」
「……お前には関係ないだろう」
「アハハハッ」
ぴたりと手を止めたリシュアンに、クリスティーナの姿をした者は狂ったように笑い声を上げた。
「何がおかしい」
「……いやぁ、かつてオレを追い詰めたお前が今ではすっかり立場が逆転するとはなあ」
実に面白い、と笑い続ける相手を前にしリシュアンは冷たい視線を突き刺すと、有無を言わさず光の力を放った。
◇
「――ヴィクトル。クリスに記憶が戻り始めたのかもしれない」
夕方、リシュアンは自室に音もなく入って来たヴィクトルに対し、そう告げた。
「……えっ!?マジで?」
「……ああ。久しぶりにアイツが出てきた」
「ええっ!?嘘でしょ……」
マジかよ、と頭を抱えるヴィクトルを横目に見ながらリシュアンは溜め息をついた。
「何か心当たりは無いか?」
「いや、ある理由……あったわ」
「は?そんなの報告聞いてないぞ!?」
「言ってないし?てか、僕が協力するのはクリスに自らの正体を悟られないようにすることだけだよ?」
「……薄情だな」
「あはは。……それ天使に言っちゃう?」
ヴィクトルはひとしきり笑った後、真剣な顔を作った。
「それもそうだが。……にしても、このままいくと昔の二の舞いになるぞ?」
「それは否定できないね……。ん、それならこれからはもっと協力するよ」
「ありがとな。――ところで、クリスが記憶を思い出すきっかけとは何なんだ?」
「……聞いちゃう?」
ヴィクトルは厄介な事に巻き込まれるけど、と仄暗い笑みを浮かべたが、リシュアンは迷わず即答した。
「無論だ」
時間が無かったので、1話しか更新する事が出来ませんでした(汗)
明日、午後10時頃に1話分更新するので、チェックしていただけると嬉しいです。




