21.クリスティーナの推測
「……」
クリスティーナは質問の答えを待ち、ヴィクトルは目を見張り言葉を失っていた。
そのため、部屋には居心地の悪い雰囲気が漂っいる。
だが、クリスティーナは自分の推測が当たっているのかを確かめるため、ヴィクトルが口を開くまで待った。
「……どうしてそう思ったの」
漸く口を開いたヴィクトルは、怖いくらいに何の表情も浮かんでいなかった。
一言話し、また口を閉ざしたヴィクトルを見て、自分が何かを言わなければいけないと思ったクリスティーナは致し方なく自らの推測を語った。
「……私は何故か昨日の記憶をほとんど覚えていないわ。けれど、それをあなたは知っているようだったわ。だから、あなたは私に何があったのかを知っていて、その上で何かを確かめるためにここに居るのではないかしら?」
――そう、ヴィクトルは先程からクリスティーナが記憶を失っている事を前提として話を進めていた。
「……そこまで気づいてたんだね。そう。僕は確かにクリスが記憶を失ったことを知っていたよ。……まあ、確かめるだなんて大層なことのためにここに居る訳ではないけどね」
薄っすらと笑みを浮かべた、独り言のように言った。
「……私に何があったのかは教えてくれないの?」
「……言わないと納得してくれないんでしょ?」
ヴィクトルはそう問い掛けると、クリスティーナの反応を待たずに昨日あった出来事を教えてくれた。
◇
(つまり、5階で本を見てから私は気を失い、目覚めた時には記憶を失っていたのね)
ヴィクトルが帰った後、クリスティーナは一人考えに耽っていた。
ヴィクトルはクリスティーナに何があったのかを細かく話してくれた。
だが――。
(私があんな風に指摘しなければきっと誤魔化していたのでしょうね……)
ヴィクトルは話の途中、言葉に詰まる場面が度々あった。それは何かを隠そうとしているようにしか感じられなかった。
(これまでにもこんな違和感を感じたことがあったわ……)
クリスティーナは、初対面なのにも拘わらずやたらと親しく接してきたヴィクトルを思い出した。
ヴィクトルと出会ったばかりの頃、知り合いなのか尋ねた時も、適当にはぐらかされてしまった。
時々見せる寂しげな目つきや、昔から一緒にいたかのような掛け合い。
それらは、本当は知り合いだったのではないか、と疑問を生んだ。
――もし、今のように昔にも記憶を失っていた事があったとしたら?
それならばヴィクトルが一方的に親しく振る舞う事にも理由がつく。
(……考えすぎかしら)
クリスティーナは、視線を避けるように立ち上がって部屋を出ていったヴィクトルの背を忘れることが出来なかった。
(そう言えば何を確かめようとしていたのか訊けなかったわ)
「今度こそ言ってもらうから覚悟しといてよね!……そういえばこれ」
クリスティーナの目に止まったのは、ヴィクトルが置いていった2冊の修境記だった。
兄にでも詳しい事を聞いて見ようかと何となく修境記を見つめ、クリスティーナはハッとする。
「……こうして見てみると、秘宝として見つけた方は神聖力が強いわね。詳しくは分からないけれど、きっとこれが秘宝との違いよね……。あれ?」
自分が見つけた物と、ヴィクトルが見つけた物を見比べ、クリスティーナは呟いた。
決定的な違いはあるが、それにヴィクトルはどうして気づけたのだろう。
聖境司は光の力を扱う事こそ出来るが、女神や聖女の神聖力といった力を扱うことや、敏感に感じ取る事は出来ない存在だ。
(誰かに言われた……?いや、でも誰が……)
「……もしかして」
クリスティーナは一人の青年を思い浮かべた。
――誰よりも神聖力と光の力に詳しい、元聖境司の兄、リシュアンの事を。




