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19.本棚の魔法陣

「この状況からどのようにして逃げると?というかその本、何処から取り出したのですか」


「時間が無いから質問は後よ。――まぁ、どうするかは見ていればわかるわ」


 そう言うと、いつの間にか手にしていた分厚い本を、修境記を抜き取った際に生まれた本棚の隙間に差し込んだ。


 ………。


「……?何も起こりませんよ」


「……そんな事ないはずなのに……何で、何で……」


 自信があった分、女神は不安と焦りに苛まれてしまう。


「もしかして……時間が経ちすぎて反応が悪いのかしらっ」


 慌てふためく女神に、ヴィクトルはそれなら感度を良くすれば良いわけですね、と言い本棚に手をかざした。


 ――パアアア。


 ヴィクトルの魔術によって光が辺りに溢れ、あまりの眩しさに2人は目を閉じた。

 光の終息を待ち目を開けると、本棚には薄っすらと魔法陣が浮かんでいるのが見て取れた。


「これは……?」


「……っ!成功よ。やっと出られるわ!」


 ――フワアア。


 魔法陣が一際強く輝いき、瞬時にヴィクトルと女神は転移を完了した。



「ここは……」


「図書館前ね」


 女神の言う通り、ヴィクトル達は図書館の前まで戻っていた。


「どういう事ですか?……って何ですかその手は」


 女神は何故か片手を挙げていた。


「えっ……?ああ、使い魔たちに手を振っていたのよ!気づいてくれたかしら」


 悠長に微笑む女神を見て、ヴィクトルはすっかり気が抜けてしまった。


「あれ程焦っていたのは何だったのですか」


「……それはいいでしょ」


 ふいっと、顔を逸らす女神を見て、頼りがいのある側面は偽りでこちらが本性なのだろうか、などと思っていたのは秘密である。


「そうでした、あの完璧な魔法陣はどうやって出現できたのですか?」


 ヴィクトルは本棚から透けたように見えた魔法陣を思い出し、質問した。

 2人が転移できる程の、それもあれ程完璧な魔法陣を作るには時間と労力が必要だ。


「実は、本棚に収められていた本には、()()()()魔法陣が刻みつけられているの」


「不完全……?」


「ええ。それが、ある本を埋め込むと、魔法陣が完成して、術が発動するの」


「その本があの分厚い本だったのですね」


 ヴィクトルは女神が手にしていた分厚い本を思い出す。


「そうよ。すぐ近くの本棚に隠してあるのを思い出してね」


 万が一のことがあった時のために施してあるのよ、そう言って女神は肩を竦めた。


「……ところで、何故初代聖女が関わる物に詳しいのですか?」


「それは……女神として見守っていたから?」


「何で疑問文なのですか」


「……特に自覚がないもの」


「そうですか。そういえば聖女って女神様の愛し子ですものね」


 ええ、と頷く女神を見て、ヴィクトルはやはり何かを隠しているのだな、と思う。


「どうかしたの?」


「いえ、僕のことは味方と判断して頂けたのではなかったのですか?」


「そんなことはないわ。それに――」


「……!」


 怖いくらいに真剣な光を宿した藍色の瞳にヴィクトルは息を呑んだ。


 怖くて目を逸らしたいのに、その仄暗さ魅入られてしまった自分もいて、ヴィクトルは動くことが出来なかった。


 ――ドサリ。


 肌で感じられる緊張は、女神――クリスティーナの体から力が抜け、膝をついて倒れた音によって解放された。


「女神様っ!?」


 慌てて体を支えるも、魂が抜けてしまったかのように微動だにしないしなかった。


「女神様……クリス?大丈夫?」


「……んっ……ヴィクトル……?」


 再び開かれた瞳に夜空の輝きはなく、心が晴れるような晴天だけがそこにあった。


「君は()()覚えていないんだろうね……」


 クリスティーナの美しい瞳を見つめ、ヴィクトルは悲しげにそう呟く。


「何て言ったの……?」


「ふふふ。何でもないよ。それじゃあ、帰ろうか」


 意識がまだはっきりとしていないのか、曖昧に頷いたクリスティーナを見て、ヴィクトルは優しい笑みを浮かべる。

 そして、壊れ物を扱うかのように抱き上げると、ゆっくりと歩き出した。

 

何とか図書館を後にすることができました!

今後の展開もお楽しみください!

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