16.クリスティーナと女神
午後10時頃にもう一度更新します!
1話分しか更新出来ず、申し訳ありません(汗)
クリスティーナは、ヴィクトルの手を引き、本棚によって作られた道を進んでいった。
道は複雑に枝分かれしており、たとえ秘宝のもとへたどり着いたとしても帰り道が分からなくなりそうであった。
だが、クリスティーナは時々迷っているような仕草を見せたものの、躊躇わず道を選んでいった。
(どうやって道を選んでいるんだか。それに……)
道を不規則に選びながら進むクリスティーナの背を、ヴィクトルは凝視し、疑問に思った。
クリスティーナにいつもの温かな雰囲気はなく、清々しくて何処か冷たい力――神聖力が滲み出ていた。
「着いたわ」
進み始めてから軽く2時間を越えた頃だった。
クリスティーナに言われ、視線を正面に戻すと、目の前には変わらず大きな本棚があった。
だが、左右に分かれた道も、真っ直ぐ伸びた道も無かった。
「行き止まり……?」
ヴィクトルは思わずそう零すが、クリスティーナは気にした様子もなく、繋いでいた手を離すと本棚に近づいた。
クリスティーナは本棚に収められた本一冊一冊を確かめるよう、目を通していく。
「あった」
小さく言葉を漏らし、クリスティーナは本棚の一番下の段から一冊の分厚い本を抜き取った。
クリスティーナが鋭い視線を注ぐその本は、とても厚く、触れることも憚られるような荘厳な雰囲気を纏っていた。
だが、何故か本棚から取るまで、その存在は目立っていなかった。
――いや、目立たないどころか意識から完全に抜けていた。
「これは……魔術……?」
ヴィクトルはクリスティーナの手の上にある本を撫で、難しい顔で呟いた。
「正解よ。これに気がつくだなんて流石ね。――この本にはある種結界とも呼べる術がかけられているの」
道理で意識しなかった訳だ、と頷くヴィクトルを、クリスティーナは怪訝そうな面持ちでみつめる。
「何か?」
「……何故あなた程の魔術師がクリスティーナから私の力を感じられなかったの?」
「……聖境司を神聖視し過ぎではないですか?聖境司とて聖女の力に敏感では無いのですから」
「あなたはリシュアンに推薦されたのでしょう?そしてクリスティーナから記憶を消す事が出来る程の力を持っているじゃない」
「……つまり、〝聖境司〟ではなく〝女神様の使い〟として見てくださって仰っているのですか?」
「ええ。――ねえ、本当は知っていたのでしょう?」
クリスティーナは、その整った顔に妖しげな笑みを浮かべた。
「……何を言っても無駄なのでしょうね」
ヴィクトルはそう言って苦々しく笑った。
「――光の力を使えないクリスティーナが聖女の祈りを捧げられるのは、貴方様の愛し子だからだと思ってたんですけどね……。今のクリスティーナは見ればわかりますよ。貴方様が宿っているのだとのだと」
「――そう。良いことを聞くことが出来たわ」
「……っ」
(我が主ながら食えないな……)
ヴィクトルは表情を全く動かさないクリスティーナを見て思った。
問い掛けてこそいたが、おそらくそれは言質を取るためのものだったのだろう。
最初から真実を知っているのに、確かな相手からそれを聞くまで信じない。ヴィクトルの主――女神はそういう人だった。
(だが……)
「何故こんな事を聞いたのですか?」
「……あなたが味方なのか確かめただけよ」
「僕は天使ですよ?」
「そうね。……でも、あの子の様に、堕天使という存在もいるのよ?」
その言葉に、ヴィクトルの脳内には一人の悪魔が思い浮かんだ。
「……いくら悪魔が近くに居ようと、僕は惑わされません。それに、アイツは封印したも同然ですし」
「そうかもしれないわね。――それはそうと……これをお忘れ?」
先程までの無表情が幻であったかのようにクリスティーナは茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべ、〝秘宝〟を明示するのだった。




