14.初代聖女の図書館
《修境記》
補修方法や、いつ綻びが見られたかなど、結界についての記録が書き留められている。なお、魔術師や聖女の中では有名だが、ルシア学園にある一冊しか残されていない。
「ここが……」
クリスティーナは目の前に広がる光景に、思わず息を呑む。
5階には圧倒される程の多くの本棚が並んでいた。他の階とは比べ物にならない、無数の本棚に、そこに詰まった書物の古さ。
「――もしかして、上の階に行くほど古い年代の本になってる?……あれ?でも修境記はかなり古いよね?」
自問自答し始めたヴィクトルにクリスティーナは答えを出す。
「おそらく合っていると思うわ。……でも、少し貸して」
そう言ってクリスティーナはヴィクトルに預かってもらっていた修境記を渡してもらう。
「……うん」
(……?躊躇った……?)
クリスティーナはヴィクトルにありがとう、と返しつつ、彼が修境記を渡す際一瞬見せた戸惑うような仕草に、疑念を抱く。
「……――ほら、見て」
クリスティーナは疑問を一度忘れ、修境記を捲り、目的の頁をヴィクトルに見せた。
「ん……?紙が新しい?」
「そう。修境記は古くから……それこそここにある書物と近い時代に記されたものだけれど、今でも重要なことは書き足されているの」
「つまり、最近のことも書いてあるから3階にあった、ってこと?」
「ええ」
クリスティーナは、仕切りに頷き、何故か息をついているヴィクトルに、先程抱いた疑念が過ぎる。
「――何か隠そうとしてる?」
「……。別に?何で?」
「今の間、何よ……。それに、何となく怪しいもの」
「何となくで人を疑うとか酷くない?それでも聖女!?」
「疑うことに聖女とか関係ないでしょ」
「むぅ。相変わらず冷たいな〜」
「……」
(ヴィクトルと居ると何故か調子が狂うのよね……)
クリスティーナは、基本的に人に分け隔てなく、聖女に相応しい態度で接している。
だが、ヴィクトルに関しては例外と言えた。
彼に対してだけは、どうしても軽くあしらってしまうのだ。クリスティーナとしては違和感でしかなく、他の者と同じように接したいと思うのに、今までずっとそんな掛け合いをしていたようにも感じられるのだ。
……出会ったばかりなのだが。
「――とにかく秘宝を探すわよ」
クリスティーナは意気込み、宣言した。その瞳は、子供の如く輝いている。
……それに対しヴィクトルは。
「そういえば……それが目的だったっけ」
クリスティーナの怒りを買うのだった。
◇
「……それにしても複雑な配置だね」
立ち並ぶ本棚を見上げながらヴィクトルが言った。
「……そうね」
クリスティーナは、ヴィクトルに目的を忘れられた事に対しまだ少し怒っていた。
そのため、クリスティーナの態度はやや素っ気ない。
「――ねえねえ、ここを初代聖女が作り上げたって本当なの?」
困ったヴィクトルは、クリスティーナが興味を持ちそうな話題を提供する事にした。
「そうみたいね。でも、5階だけみたいよ」
反応が良かった事に気を良くしたヴィクトルは質問を重ねる。
「5階だけ?それなら下の階は後で出来たってことだよね。どうやったの?」
「それが……詳しいことはわかっていないの。――でも、聖女自ら複雑な構造の図書館を建てたということは、当時の重要な何かが隠されている可能性はあるのではないかしら?」
「確かに……!……ん?本棚の配置って当時から変わっていないの……!?」
「……?本棚の配置も構造も千年前から変わっていないはずだけどれど……」
「……!」
クリスティーナは事も無げに言ってのけてはいるが、ヴィクトルは途方もない年月を感じ、絶句した。
「――時間がないわ。早く探しましょ!」
クリスティーナはすっかり興奮を取り戻し、固まってしまったヴィクトルを急かすのだった。




