13.4階で見たもの
「ふわぁ……!」
手に取った複数の書物に、クリスティーナは再び感嘆の息を漏らした。
(凄い!伝説上の書物がいくつもあるなん
て……!)
「……ッ!」
ふと、ヴィクトルが何をしているのか気になり、振り返ろうとしたクリスティーナは、一際古い一つの書物を視界の端で捉え、動きを止めた。
(これは……!)
どうしたの、と背後から心配するようなヴィクトルの声が聞こえたような気がするが、クリスティーナは相手にしない。
……正確にいえば、ヴィクトルの声はクリスティーナに届いていない。 故に、反応する事もできない。
まあ、それだけ、クリスティーナは手元の書物に心を奪われていることになるのだが。
(幻の書の原書……!)
クリスティーナの目を引いたその書物には、アムールデース出身の者には読めぬ文字で題名が記されていた。
クリスティーナはその書物を知っているが、目にした事があるのは、師匠の住む小屋で見た、幻の書と呼ばれている翻訳版だけだ。
原書の存在は知っていたが、国内にあると思ってもいなかったクリスティーナは感激する。
(師匠にも報告しないと……!)
クリスティーナは目にうっすら感動の涙を浮かべ、原書を抱き締めた。
――一方その頃、ヴィクトルは調べものには欠かせない、机が置かれている一角で椅子に座り、クリスティーナを見ていた。
「……どうかしたの?」
目を見開いて、とても年季の入った書物を凝視しているクリスティーナに、ヴィクトルは若干引いた様な目をしながら問い掛けた。
だが、クリスティーナから応えは返って来ない。
「……急に僕の方を振り返ろうとしかと思えば固まって……。全く、可愛すぎるって」
……ヴィクトルはクリスティーナの昂ぶりに気圧されるも、彼女のその姿に夢中になっていた。
勿論、クリスティーナは自身の事をヴィクトルが熱烈に見ている事など知らない。
「あっ!これも……!」
クリスティーナは、また他の古い書物を手に取ったようだ。
「――いつまで続くのやら……」
そう不満を口にしたヴィクトルは、言葉に反して優しい目つきになる。
――ふと、視線を下ろすと自らの膝の上に置かれている書物が視界に入る。クリスティーナから預かっていた物だ。
――修境記。
図書館にある、無数の書物の比ではない厚さを持つその本の表紙を、ヴィクトルはそっと撫でる。
「!……もしかして」
小さく呟きヴィクトルは修境記の表紙を捲った。ヴィクトルはパラパラと微かな音を立て新たな面を見せていく書に視線を注ぎながらも、クリスティーナの行動も確認する。
クリスティーナがまたも書物に夢中になっている時、ヴィクトルは目当ての頁を見つけた。
「……やはり」
――リシュアン・セランドラ。
その名を目にした時、ヴィクトルの目には鋭さが浮かんでいた。
◇
「本当にごめんなさい」
クリスティーナは優雅に椅子に腰掛けていたヴィクトルに頭を下げた。
「書物に夢中になり過ぎていたわ……」
「ふふふ。いいんだよ。ほら、頭を上げて。5階に行かないの?」
「行くっ!」
途端に目を輝かせるクリスティーナにヴィクトルは苦笑すると、口元を緩ませた。
「それじゃあ、秘宝を探しに行こうか」
2人は秘宝に思いを馳せ、5階へと階段を上った。




