10.クリスティーナの力
家に着いた頃には、もう夜闇が街を包み始めていた。
「ただいま戻りました!」
いつものようにクリスティーナは兄に挨拶するが、家は静まり返り、返事がなかった。
(どうしたのかしら……)
クリスティーナは家に灯りの一つも点いていない事を不審に思い、恐る恐る廊下を進んでいく。
その途中、不安なあまり灯りに火を灯していった。
「お兄様……?」
兄の部屋の前まで来て、クリスティーナは小さく呼びかける。が、返事はやはりなかった。
「開けますよ?……ッ!」
そっと扉を開けようとした時、中から聞こえてきた言葉にクリスティーナは足を止めた。
(お兄様……と、ヴィクトル……?)
「――結界近くに魔力を感じるのはクリスが結界の維持に関わっているからってこと?」
「はっきりとはわからない。だが、その可能性は高いと思う。クリスは魔力を有しているのだから」
「つまり、祈りを捧げる際に魔力も結界に移っちゃた、てことだよね」
「あぁ……」
……意味が、わからなかった。
否、会話の意味は何となくは理解できた。けれど、それが何故自分の話でもあるのかクリスティーナには理解できなかった。そして、兄が会話している相手がヴィクトルであったことが、さらなる疑問を膨らませた。
「どういうこと……」
口から零れた震えた声は、まだ灯りの点いていない廊下に消えていった。
(戻ろう……)
クリスティーナは今にも震えそうな足で何とか自室までを辿った。
◇
「本当にどういうことなの……」
夕食を終えたクリスティーナは、自室でポツリと呟いた。
2人きりの夕食の最中、クリスティーナは兄に結界や魔力についての報告をした。
結界に綻びは無かったものの、魔力が漂っていた事。そして、結界から神聖力が感じられ無かったこと。
クリスティーナの予想が間違っていなければ、兄はヴィクトルから既に報告されている。だが、クリスティーナの話を初めて聞いたかのような反応をしていた。それは、クリスティーナにとっては嘘をつかれているようで、耐えられなかった。
「……モヤモヤする」
……兄とヴィクトルは以前からの知り合いなのだろうか。
――それに。
「私が魔力を有している……?」
まさか、そんな話があるわけない。だが、胸の奥に立った小さな波が、やがて心を呑んでいく。
そんな感覚にクリスティーナは不安を覚えた。
「……悪魔の力を仮にも聖女である私が使えるはずがないわ」
クリスティーナは自分を落ち着かせる様にそう言うと、ベッドに潜り込んだ。
魔力は今やアムールデースの誰にも使う事ができないと言っても過言ではない。
人が魔力を使うには、魔物を使役する必要がある。
魔物とは悪魔など、人に害を与える存在だ。
だが、結界が張られているため、そもそも魔物は国内に侵入することができない。もっとも、それは結界が壊れていなければのはずだが、今日巡回で見てきた通り、結界に不自然な点はなかった。
「なら、どうして……」
――貴方は何も知らなくていいのよ。
何処かで聞いたことがあるその言葉がふと蘇る。
温かく、全てを包み込むようなその声が何であったかを思い出す前にクリスティーナは眠りについた。




