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わたしの名前を知っていますか?  作者: 一粒 野麦
2/8

第2話

 今日は土曜日。

 ワンさんが先頭で、ふとっちょさんを従えて、引っ張るようにしながら、のしのしと、こちらの方へやってきました。


「ウー、おはよう、雑草さん。朝からいい天気でよかったねぇ。」

「おはようございます、素敵な1日の始まりです。今日は、いつにも増して楽しそうに歩いてますね。」


「うん、今日は、近くの小学校で運動会があるんだ。その見物用にと、やせっぽさんが作ってくれているお弁当を、散歩が終わったら少し分けてもらえるのさ。」

「わー、美味しそうですね!

 そういえば、わたしのおうちの小学生2人(姉さんの果林(かりん)ちゃんと、弟さんの椰子人(やしと)ちゃん)も、昨日帰って来た時に『明日は運動会!』って、お母さんに向かって大声で嬉しそうに話してました。

 そうそう、運動会と言えば、ワンさんは、かけっこには出るのですか?」


「出ないことにしたよ。去年、『よーいドン』とピストルが鳴って、子供たちに交じって思いっきり走ったんだ。そうしたら、レースの後で、やせっぽさんは『よくがんばったわね!』と言ってくれたけど、ふとっちょさんが笑いながら『もう少し手加減してあげてね』と言ったんだ。だけど、ゆっくり走るのには慣れていないので、今日は、おとなしく見物しているよ。」

と言いながら、しっぽをふりふり去って行きました。


 しばらくすると、登校時間になりました。

 小学校に向かう子供たちも、いつものランドセル姿ではなくて、紅白帽をかぶった体操服姿で次々と通り過ぎていきます。

 おうちの2人も、お母さんに「今日は応援に絶対来てね!」と言いながら、指切りげんまんして、元気よく飛び出して行きました。


 その後も、色々な子が通ります。

 昨日の夜、運動会のことが気になって興奮して眠れなくなり、「羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、…」と、なんと99匹まで羊を数えたと得意そうに話す子もいれば、

 ねぼうをしてしまい、少しあわてて、歯ブラシを口にくわえたまま家を出てきて、せっかくなので歯みがきしながら、お友達に相づちを打つ子もいます。

 かけっこの練習のように、びゅんびゅんと忍者のように走っていく子たちもいれば、お遊戯の練習とばかりに、ダンサーのようにリズムに乗って踊っていく子たちもいます。


 いつもとは何か違う1日ですね。


 やがて、見物する人たちが通り過ぎていきます。

 ふとっちょさんとやせっぽさんのご家族が通りました。

 おじいさんが「わしも昔は、かけっこは、いつも一番じゃった」と、遠くの方をながめながら鼻高々になって言えば、

 おばあさんは「あたしは、玉入れの名人でしたよ」と、時々痛むことがある腰を気にしつつも、片手を少し上にあげて投げるポーズを取りながら返します。


 それを聞いていたやせっぽさんが「あらあら、二人ともすごいですね」とおどろくと、ふとっちょさんが「自慢ばかりしていないで、見やすい席に座れるように、早く校庭までいきましょう」と笑いながら言ったので、

 おじいさんとおばあさんは「そうじゃった」「そうでした」とつぶやきながらも、少し話し足りなそうに歩いていきました。


 ワンさんもその中に交じっていましたが、お弁当を分けてもらって食べたすぐあとらしく、ふとっちょさんも負けるほどお腹をふくらませながら、

「ウー、歩くのがつらいつらい。だけど、とても美味しかった」と、思いだしたのか、よだれを垂らしそうにしながら、のそのそと校門に向かって歩いていきました。

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