3 笑う犬は希望を見つける
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いつもの様にモグラ先輩達の背中を追いかけ泉の部屋へ帰ってきた。 水を飲んで回復したのを感じ居室に入って横になる。 自分の行動が型に嵌められ自由に動き回れないし、思考も自重してしまうのかモグラ先輩から逃亡すら頭に浮かんで来ないとは、暴力による洗脳は恐ろしいものだと近い天井を見つめながら思う。
「バゥ?」(待て待て待て、ここから逃げる?)
今まで考えたことがなかった。 殴られる痛みから逃れたい思いでいっぱいいっぱいだった。 モグラ先輩の指示に従う、それが俺の存在理由だと思っていた。 思い込んでいた、今までは。
それにいつもならもう眠ってしまってもいいはずなのに睡魔が襲ってこない。 急いでステータスを呼び出す。
名前 ▼ジョージ・B
レベル 1
種族 ▼異界の子犬
職業 ▼墓掘人
体力 ▼10/10
魔力 ▼10/10
攻撃力 ▼10/10
防御力 ▼10/10
経験値 35663
スキル ミスリルの爪lv 1/30 穴掘りlv5 崩壊の爪lv1 神に抗う者lv1
呪いマークがついた項目は相変わらず変化はないが、経験値が増えた他に新しいスキル『神に抗う者』が最後の項目にある。 睡魔に襲われず逃亡の考えが浮かんだのは新しく手に入れたこのスキルの効果だと感じた。 なんでスキルを覚えた? 神って誰だ? このダンジョンの創造者か? それとも世界全体を作った存在か? 思考が入り乱れて絡まった釣り糸状態になってしまった。 いや、それは後でいい・・・。
俺はここへ来るまで三流商社マンだったではないか、闇雲に動いたり短絡的に考えて幾つもプロジェクトを完結出来ず周囲に責任を押し付けて自分の能力の低さに仲間を妬んだりもした。 自己啓発の本を読み漁り悩み続けた時期があったではないか。 企画・情報収集・分析・提案。 成すべき事を見定め、順番に項目を充実させ、このサイクルでクライアントから契約を勝ち取る。 大卒じゃなくて正社員じゃなくて給料安くて彼女いなくて・・・、でも何件も契約とってきてたじゃないか! 憧れだった都会生活送って来れたじゃないか! 頼りない実績だったが変にやる気だけは湧いてきた。まずは基本にたち帰って、今の状況を営業マンの目線で考えてみる。 クライアントはもちろん自分。 企画書の表題は・・・。 俺が求めること? 普通は企業利益に繋がる提案だけど・・・。 モグラ奴隷から逃れる・・・、墓掘人辞めたい・・・、そんな直近の事じゃなく、クライアントが心揺さぶられる文句にしないとすぐにシュレッダー行きになっちまう・・・。 暗い天井を見つめながら考えに考え『奥田間様御中 企画 異世界帰りの俺は小説家になってガッポガッポの印税生活』 提案者 呪われた笑う犬 35663吉日。
表紙はこんなものか。 ちょっとふざけてるが今の自分にやる気が湧いてくるので納得する。 プロジェクトは何度も練り直すのだ表題何度か変わるのは当たり前だ。 提案初回の年月日がわからなかったので今の経験値を覚えておく。 視線をステータスから壁へ移すと空間に文字が浮かび上がる。
1/1
奥田間様御中
企画
異世界帰りの俺は小説家になってガッポガッポの印税生活
提案者 呪われた笑う犬
35663吉日
俺が脳内で作成した企画書が正書されて表示された。 マルチウィンドー機能付きのステータス表示だったらしい。 新しい発見でその他の機能もあるのか気になったが、まずは企画書のタタキダイを作ることにした。 2ページ目を新規作成して現状を細かく書いていく。 思考するだけで文章が生成されていくのはとても不思議で便利だった。 ワープロアプリみたいにコピーやカット・貼り付けまで可能で作業は捗った。 分析、提案と概略の企画書が完成しそれぞれのウィンドーを天井に移動させ仰向けになって見直す。 考え事の癖で胸の前で腕を組みたかったが前足が短すぎて無理だった。 作業員は俺しかいないので優先順位をつけて行動していかなければならない。 この世界のこと、犬になってしまったこと、呪いのこと、これらは情報が少なすぎるので後回しにしてっと。 分析ページに列記してある順を移動させると、企画・情報・提案の関連項目が順番を変えていく。 本来グループ会議を何度も行い手分けして行う作業が一人でできてしまっているのに気付き、書類作成速度が6大学卒並みになったみたいで嬉しくなる。
「ヒィー!」
口笛を吹いたら間抜けな音になった。 あっちこっちと項目を移動させる事しばし。 企画書をもっと充実させるための行動目標ができた。
『スキルの解明』
確かスキルは技能や能力の意味だったはずで俺の営業職だと交渉力・傾聴力・発見力とかだったな。 訓練や学習で習得しレベルアップしていけば種類によって実社会で給与が増えたり女性にモテたりいろんなスキルがあったはずだ。 ゲームだと常時発動スキル(パッシブ)と任意発動スキル(アクティブ)とかあって、スキルレベルで効果が変化したり使用回数に制限があったのを覚えている。 眼前に浮かぶステータスも俺の記憶にあるゲーム似ている、RPGゲームの最初は始まりの村ではスライムを倒してレベルアップするのが定石、呪いマークの項目は無視して増えたスキルはレベルも変化しているのだから、今俺がやるべきは新たなスキルを獲得しそれらのレベルを上げることだろう。 まずはスキルの獲得条件だが、最初は犬の爪lv 1/10だけだった気がする。 爪が剥がれる度に小さい方の数字が増えて10/10になった時に鉄の爪に変わった。 爪スキル成長はなんとなくわかった。 『獲得スキル 穴掘りlv 1』が目の前に表示されたのは、墓穴を初めて一人で掘り上げた時だったと思う。 これは経験が時間または回数をクリアした事で獲れたのでは無いかと思う。 『崩壊の爪lv 1』は硬い大理石が壊せるスキルだが、いつ獲得したか覚えていない、気がついたら追加されていた。 睡魔に襲われずじっくり思考続けられる事を可能にしてくれたと思う新しく増えた『神に抗う者lv 1』これはどうやって獲得できた? 今回の強制労働で特に変わった事があった覚えはない。 だけど何かを達成したので獲得できたはずだ。 目を瞑って冷静に考えてみよう。 俺はここへ来て強制的に穴を掘らされ続けた。 最初のスキル3個はその経過の中でレベルアップし新たに覚えた。 そして四番目のスキルは心の中で思い続けた抵抗心が生んだと仮定すると、俺の行動と強い望みがスキルを引き寄せた? とりあえず仮説を実証してみなくてはならなくなった。 他の可能性もあるかもしれないが、試してダメだったら他を探せばいいだけだ。
「バウ・・・」(まずは何をしようか・・・)
外からモグラ先輩達の足音が聞こえてきた。 俺たちの仕事である墓掘の時間が来たらしい。 俺は墓掘り以外の目的を見つけスキップしながらモグラ先輩達の背中を追いかけた。