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秋葉原にて電気魔方陣待機中  作者: 守木菜つくし
9/14

ちゃんと知ろうとしたらそこは迷宮だった 9話

 三軒目は自作パソコン関係の商品に力を入れている店だった。

 なんとなく品揃えの種類に見当がつき始めた明理は、店員に『ビデオカード』と『サウンドカード』について質問をしてみることにした。

 すると店員は「昔と違って今は強いて必要ないですよ」と言う。

「では、どういうときに必要になるのですか?」

「ビデオカードについては3Dゲームをプレイするときとか、データーの重い画像を編集するとかの理由ですね」

 これは今のCPU(中央演算処理装置)にグラフィックに関する機能が付いているため、その機能がなかった昔ほど必須ではなくなったからだという。

「でも、動画を見るときなどにCPUの演算処理を集中させないために付けるという人もいたりします」

 保険という役割ならば価格を多少抑えても大丈夫という事だった。

 もう一つの『サウンドカード』も文字通り音響に関する部品なので、音にこだわりのある人でない限り必須とは言いにくいらしい。

 そしてこだわりのある人は外付けでも内蔵型でも使用目的がハッキリしている。

「パソコンから音が出なくなったら付けるということですか?」

「それは別の問題も発生していると考えた方が良いと思いますよ」 

 使用ケーブルに問題があるのか。

 マザーボードに問題が発生したのか。

 使用者は考えられる事態を想定して検証をする。その後部品交換で済むのか、修理に出す必要があるのかを判断しないとならない。

 店員の説明に、彼女は自分が不測の事態に過敏になっていることに気がつく。

(マザーボードの不調だったら、さすがに起動するか怪しい話よね)

 自分の質問に彼女は恥ずかしくなってしまった。

「でも、そもそもビデオカードやサウンドカードを取り付けるというのは、筐体の中のエアフローについて考えないと熱暴走の原因になります」

 店員曰く、CPUやビデオカードなどは安定して動かすためにファン(送風によって部品を冷やす装置)を必要とする。

 そして筐体の中は熱の籠もらない環境にしないとならない。

 これをクリアしても今度は部品同士の相性問題というのがあって、これは発生してみないと分からない。

 ゆえに追加の部品は少ない方が良い場合もあった。

「場合によってはビデオカードだけ内蔵させて、音響は外付けのものを使用するという手段もありますよ」

 外付けのコーナーを指し示されたので「ありがとうございました」と言って、彼女はその場を離れる。

(パソコンケースが大きいのには、それなりに理由があったということか)

 やはり自分の家に置くにはノートパソコンが便利かもしれない。

 明理はそんな結論に達する。

 そして彼女は時間を見るためにバッグからスマートフォンを出す。

 このとき、背後から話しかけられた。

「ホリーさん、スイショウはお好きですか?」

「!」

 驚いた拍子にスマートフォンが手から離れそうになったが、なんとか持ちこたえて再びバッグに入れる。

 話しかけたのはセリリヤだった。

「驚かせたみたいでスミマセン」

 そう言いながらも相手は笑顔だった。まるで何か嬉しいことがあったかのように。

「大丈夫です」

 反対に明理は急に話しかけられた驚きで、少し心臓がドキドキしていた。

「では、先程の質問ですがスイショウ、持っていますか?」

「スイショウって鉱石の水晶のことですか?」

「そうです」

 明理は特に隠すことでも無いので、何年か前に友人が誕生日プレゼントだといってくれた小さな水晶は持ってると答える。

「……ライバルあり」

「?」

「では宇宙関係のRPGゲーム、好きですか?」

 このとき他の客の通行の邪魔になりそうだったので、セリリヤにうながされて明理も店の外へ出た。

 ちなみに八重子はマダラネコと一緒にマザーボードのコーナーに居た。

「シンゴ君は一人で大丈夫ですか?」

 保護者がいた方が良いのではないかと思い、彼女は尋ねてみる。

「シンゴはゲンさんと話をしながら自作パソコンの構成を考えています」

 彼の希望する構成が自分の好みに合わないので横でツッコミを入れていたら、シンゴから「大人しくしていて」と言われてしまったとのこと。

「まったく生意気です」

 そう言いながら、セリリヤは大げさにため息をついた。


「ところでさっきの話、どうですか」

「宇宙関係のRPGゲームですよね」

「そう、物語の始まりは太陽系から遠く離れた別の星雲」

 セリリヤは内容を思い出すかのように遠くを見ながらゲームの話を始めた。


 ゲームのOPオープニングは星雲の中で行われている星間戦争についてだった。

 長年、その星雲の星々を平和に統治していた『王星』の管理星が外宇宙からやって来たワ・ルーイヨ皇帝の攻撃に遭って、あっと言う間に住人たちが滅ぼされてしまう。


「すごいネーミングですね」

「まぁ、一番近い発音がそれだったということで話を進めるね」


 ワ・ルーイヨ皇帝がこの星雲にやって来たのは、管理星の一つである『水晶星人』たちの住む『スイ・ショウボシ』の全てを搾取するためだった。

 この星に住む水晶星人たちの外見は地球の水晶にそっくりなのだが、その能力が“どのような性質のエネルギーでも安定させる事が出来る”というものだった。

 つまり水晶星人たちをコキ使えば、制御の難しい武器だろうが何だろうが実用化可能。

 ゆえに王星では特別に管理して悪用されないようにしていたのである。

 ちなみに水晶星人たちは女王が統治している国家なのだが、滅多に動くことなく自然の中であるがままの暮らしをしていた。


「移動手段には現地の動物を使うから、女王から招集があるときは色々な動物たちが彼らを運ぶために王宮に向かうそうよ」

「なんだか和みますね」

「異形の鳥が水晶を運ぶこともあったかもね」

 そう言われて、明理はゲームをプレイすれば見ることができるのだろうかと考える。

「でも、ワ・ルーイヨ皇帝の出現と侵略行為により、王星側も水晶星人たちを使って撃退するべきだという者が出てきた」

 セリリヤは苦いものを口にしたという表情になる。

 今まで保護をしていたのだから協力して当然だという理屈のもとに。

 

 このままでは王星の民の方が水晶星人を利用し、他の星の人々の強制支配をし始めるかもしれない。

 既にその兆しは出始めている。

 それゆえ周辺の星々は決断した。

 ワ・ルーイヨ皇帝が水晶女王の王宮を襲おうと軍を動かしたとき、王宮ごと高速宇宙戦艦に乗せて王星の兵器すらも手の届かない宇宙へと逃したのである。

 

「そして高速宇宙戦艦が長い逃亡の末に太陽系にやって来たときに、皇帝の命を受けた将軍の宇宙戦艦に追いつかれてしまう」


 高速宇宙戦艦に搭乗し護衛していた十二体の人形ひとがたロボットのうち、既に十体は戦闘により破壊された。

 残りの二体も機能停止となる。


 このロボットには異星人のパイロットと戦うということを知らなかったのにパイロットを死なせないために参加した水晶星人が搭乗していた。

 そしてお互いに最後の戦いを繰り広げていくうちに、高速宇宙戦艦と二体のロボット、そして将軍の宇宙戦艦も地球に墜落したのである。

 原因は不明。

 そしてここでゲームのOPは終了する。


「壮大ですね」

 話し方が上手かったので、明理はそのゲームに興味が沸く。

 ついでに何人かの通行人もセリリヤの話に思わず立ち止まってしまったようで、慌ててその場を離れた者もいた。

「まぁ、このゲームの問題点はOPの後に高速宇宙戦艦のコックピットに案内されるのだけど、そこから次の部屋に移動できないのよ」

 その代わりにメールソフトと連動させればゲームプレイ中にメールの受信を教えてくれるし、放送局を音楽プレイヤと連動させれば曲も聞けると言う。

「OP付きのアクセサリーソフトみたいですね」

「そうなのよねぇ。今の段階だと」

 それでも彼女は一応ゲームの宣伝をする。

「ゲームの名前は“アルカナ・トルカナ”だから、覚えていてね」

 初めて聞く名前なので、明理はしおりの空欄にその名前を記入した。

 そこへマダラネコが店内にいたツアー客を連れて外へ出てくる。

「次のお店が最後です」

 そこは自作パソコン用の部品もあるがBTOパソコンもやっているという説明だった。

 



 その頃、秋葉原駅前では井湖田富江いこだ とみえが家のお手伝いさんから「大奥様、帰りましょう」と説得をされていた。

「和美さんは目敏いわねぇ。なんでバレたのかしら」

 老婦人は首を傾げたが、佐伯和美さえき かずみはどう誤魔化そうかと考える。

 本当のことを言えば、生前から井湖田寅蔵が妻の身を案じて象嵌のバッグチャーム型GPSをお守りとして持たせているのである。

 ということで、井湖田家では彼女の姿が見えなくなったとき急いで調べて追いかけてきたのだ。

 でも、これは寅蔵から妻には言わないように厳命されていた。言えば彼女は持ち歩かずに外出をしかねないから。

 それでもここまで迅速に出来たのは、たまたま和美が銀座に用事があったからなのだが。

「まだ帰りませんよ。ここにはあの人が招待したお客様がいるのだから、私が挨拶をするのが筋でしょ」

 そう言ってスタスタと歩き始めたので、和美は持っていたスマートフォンで富江を見つけたことと今の状態を素早く井湖田家へ連絡をする。

 その後、自分の息子に電話をかけた。

 彼女の息子は中学生なのだが、この秋葉原に遊びに来ているはずなのである。

 

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