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秋葉原にて電気魔方陣待機中  作者: 守木菜つくし
7/14

ちゃんと知ろうとしたらそこは迷宮だった 7話

 秋葉原という街は、常に人々の生活と共に変化し続ける街だとマダラネコは言う。

「なんというか、こだわりの強い人たちがこの地に来て目的のものを手に入れるというRPGの印象がありますね」

 この説明に明理は思わず笑ってしまう。

 確かに自分もまた納得のいくパソコンを探そうとしていたからだ。

 今、一行は昼食場所である定食屋に向かっており、その道中での雑談である。

「たとえば昔はオーディオ関係、その次がパソコン用品。そういう話を聞いたことがあります」

 ただしこれは彼女自身も生れる前の話なので、情報源が間違えている可能性もあると断りを入れた。

「つまり、秋葉原ここでは第六感を駆使してお宝を見つけるのが正解ということね」

 セリリヤの言い方に八重子は「なるほど!」と納得。

「つまり古の部品を組み込むと、パソコンが意外な性能を示すとか」

 この意見にマダラネコは首を横に振る。

「初心者には中古の部品はお薦めしません。どんな使われ方をしてどう保管されていたのか分かりませんから」

 メーカ製の新品購入という依頼をどこからか受けているというのではなく、単純にその方がサポートする側もアドバイスをしやすいという理由である。

「そもそも自作パソコンの場合、無事に組み立てて起動させることが出来た時点で他人任せにするよりも自分で動いた方が回復が早いという話です」

 パソコンが何もしなくて壊れたという話は、何かしたということを所有者が重要なことと考えておらず覚えていないか、分かっていてもサポートする側に言う気がない場合もあり得る。

 この話題に明理は自分のノートパソコンの不具合について思い当たるような気がしてきた。

(やっぱり最初の不具合のときに、ちゃんと直してもらえばよかったのかな……)

 暗い顔になっていたのか、「でも、やはり壊れるときはあるというのが悩ましい話ですね」と、隣にいたゲンさんが急に話しかけてきた。

「えっ?」

「昔、使っていたメーカー製のパソコンが不具合を起こすということで、BIOSバイオスの更新をやってくれとCDが郵送されたことがあります」

 しかも、その更新に失敗をすればメーカーに送って有料で修理という事態だったという。

 ちなみにBIOSとはマザーボードに組み込まれているプログラムで、電源を入れたときに一番最初に起動するプログラムである。

 これが作動して、次にOSオペレーティングシステムが起動するのだ。

「マザーボードの基本プログラムでしたから行わないわけにもいかず、あの時は緊張しました」

 どんなに大事にしても金属などの経年劣化は避けようが無いし、精密機械であるからこそ急に不調になることもある。

 ゲンさんの言葉に明理は「色々な不具合の原因ってあるのですね」と答える。

「そうですね。私がメーカー製から自作に変更したのは電源の不調が続いたからです」

 当時のゲンさんは特別サイズのタワー形を使っていたため、メーカーに注文をして代金を払って送ってもらってを二回ほどやった後、自作の方がいいかもと思い始めたという事だった。

 そんな事もあるのかと明理が思っていると、前方にいたマダラネコが立ち止まって「こちらです」と一軒のお店を紹介する。

「今回のお昼は、こちらのお店です。一応、ワッペンを外してください」

 そこは「魚自慢」と書かれた定食屋だった。



 店内に入ると「いらっしゃいませ」と女将らしき情勢が元気に出迎える。

 中はそう広くはないし、何人かの男性が昼食をとっていた。

「ツアーの者です。急な人数変更ですが、対応をしてくださってありがとうございます」

 マダラネコの挨拶に、女将はニッコリと笑う。

「そんなこと気にしないでください。それよりもランチメニューに限定されますが大丈夫ですか?」

 案内されたのは四人席と二人はカウンターというもの。

 すると八重子とセリリアが『陶磁N』の話をしたいと言ってカウンターの方へさっさと座ってしまった。

 その流れで明理たちは四人席の方になる。

 シンゴは一瞬迷ったが、ゲンさんの横で明理の前に座った。彼はリュックを膝の上に乗せる。

 全員が今日のランチメニューで好みのものを選ぶ。

 それは“焼き魚定食”か“季節の魚の煮つけ定食”の二種類なのだが、明理は自分で作るのが大変な煮つけ定食にした。

「ホリーさん、向こうの席がよかった?」

 シンゴに言われて明理は何の事かと思ったが、セリリヤが八重子とスマートフォンを見比べながら『陶磁N』話をしていることだと見当がついた。

「シンゴくんは気にしなくて大丈夫」

 明理の返事にシンゴが抱えていたリュックをぎゅっと抱き抱えた。

「それにしても『陶磁N』は随分人気になりましたね」

 グッズまで売られるようになるとは。

 彼女はそう言葉を続ける。

「私としては『つりもぐ』のキャラクターの方がグッズ化が早いと思っていました」

 マダラネコの話題提供にシンゴが反応をする。

「あれは釣りゲームだから、グッズといったら魚だらになると思うよ」

「確かに」

 すると女将が「あんた、お嬢さんたちに『つりもぐ』の話をして手を休めたら怒るからね」といって釘を刺す。

 客が二人ほどスマートフォンを見始める。

「ご主人、『つりもぐ』をやっているということは“太公望”ですね」

 セリリヤが話しかけても女将に怒られるのが分かっているのか、彼はニコニコするだけで調理に集中していた。


 実際に通称『つりもぐ』、正式名称『釣っているね、潜っているね』は普通の釣りゲームで、『釣りをする』のコマンドでプレイ開始。

 あとは謎のエサが付けられている釣り針に食いついた魚を、上下左右のボタンを押すことで釣り上げるというものである。

 実に単純で、釣り自体はそれ以上やることは無い。

 プレイヤーが太公望と言われるのは、ゲーム内のキャラクターたちがそう呼ぶから。

 そしてゲームにはプレイ開始時に四季を設定する項目があり、釣れる魚はたまに季節の影響を受けている。

 他に特徴といえば、たぶん問題点であり魅力となっている『釣り竿購入システム』だった。

 これはゲーム中に釣った魚を、たまに登場する魚好きのキャラに買い取ってもらうというもの。

 ただし、キャラによって好みの魚や食べたいという魚が変化する場合があった。

 とにかくそれで得たお金で次の良い釣り竿を入手するのだ。

 ちなみに釣った魚の記録は『つりもぐ図鑑』という項目に記録される。

 竿は『棒』から始まり『普通の竿』『良い竿』『すごく良い竿』と続き、サービス開始から五年ほど経った今では潜水艇を使って深海魚まで入手出来るとのこと。

 たまに奇妙な魚が泳いでおり、公式が「試作品を泳がせてみました」というので試作品探しもゲームの楽しみの一つになっていたりする。

 ただし試作品を入手しても得になることはなく、図鑑に記録されることも無い。

 でも、それだけを探して画像として記録に残すプレイヤーもいた。

 結果、『つりもぐ』は好きな人は大好き、合わない人はすぐに飽きるという評価だった。


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