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秋葉原にて電気魔方陣待機中  作者: 守木菜つくし
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ちゃんと知ろうとしたらそこは迷宮だった 5話

マザーボードの話は自分のイメージなので、気にしないでください。


「実は自作パソコンというのは、幾つかの部品を組み合わせて作るものなんです」

 この説明に思わず明理は不安を感じた。

 その様子を察して、マダラネコが言葉を付け加えた。

「ホリーさん、今回のツアーは自作パソコンについて知るために企画されたものです。実際に作るときは本屋で“自作パソコンを組み立ててみよう”とか書かれた本がありますから、それらを参考にしてください」

 関連書籍の方が詳しく図解などされています。

 今回は本当に組み立てまではやりません。

 そう言われて明理はほっとする。

「もともと、自作パソコンというのは使用者がパソコンで何をするかによって構成が随分と変わってしまうのです」

 ゆえにBTOをやっているメーカーも量販店の店員も、使用目的を聞いて最適であろう構成を客に提示する。

 何でもやりたいという曖昧な言い方なら、相手は高級パソコンを紹介するしかない。

 彼女がそのような説明をしていると、イベント会場の周囲では何人かがその様子を見ていた。

「ちなみにより詳しい話を聞きたいと思ったら、私よりも店員さんを捕まえて質問をした方がいいです」

 店員さんはその道のプロ、適切な構成を教えてくれます。

「ただ、一軒だけでは偏りを感じる事があるかもしれません。ということで幾つかのお店を回ります」

 その中で自分の第六感を働かせると、気になる“モノ”が出てくることもあります。

 その機能は必要なのか、それとも他で代用が利くのか。朧げでも良いので考えてみてください。

「今回このツアーでは、パソコンが“便利な魔法の箱”から皆さんの“よき相棒”になれば良いと思います」

 マダラネコの言葉にパチパチと拍手の音が聞こえる。

 ゲンさんが拍手をしていたのだ。


 そして一行はまず、自作用パソコンのケースを見に行く。

 ゾロゾロと動いているので、否が応にも他の客の目を引いている。

筐体ケースや製品を触って見てみたいときは、必ず店員さんに断ってください。皆さんが手に触れるものはほとんどが高額商品です」

 一応、ガイドとしてマダラネコは釘を刺すことを忘れずに伝える。

 それを聞きながら、明理はほぼ初めて見るパソコンケースの大きさに沈黙してしまう。

 ノートパソコンより大きい姿、ケースはただの箱なので中身以外にモニターやキーボード、マウスは別に購入しないとならない。

(これだけのものをノートパソコンは凝縮して動いていたんだ)

 やはりノートパソコンは便利だなぁと思っていると、シンゴが保護者相手にテンションをあげていた。

 ちなみに保護者の女性は“セリリヤ”と書いた後、「あっちの方が宣伝になったかしら?」と呟き、結局そのままにした。

 これには明理と八重子も好奇心が疼きそうになったが、そのまま聞かなかった事にする。

 他人の個人情報は知っていると面倒という判断である。

「セリリヤお姉ちゃん、このケース、カッコイイ!」

 シンゴはやたらと大きいパソコンケースを褒めていたが、さすがにセリリヤから「大きすぎ。家が狭くなる」と断られる。

「自分で管理できる範囲って言われたでしょ」

 そんな賑やかな二人からちょっと離れたところで、ゲンさんがツアー客の様子を眺めている。

 明理はというと、CPUと呼ばれる中央演算処理装置のナンバーと値段を一生懸命メモしていた。

「おっ、やる気が出た?」

 八重子もケースの中に置かれている小さな箱と値札を見る。

「やる気というよりも、参考資料」

 基本情報が無いと、自分の疑問が何なのかすら分からないから。

「今度は上手く付き合えるパソコンと暮らす」

 友人の言葉に八重子は笑顔になる。

「そして納得のいくスペックの子をメーカーのパソコンで探す」

 今のところ明理にとって自作というのはハードルがエベレストよりも高いように思えた。

「ところで私のことより、モモさん(やっちん)はずっと傍観者なの?

 すると八重子は大きなため息をついた。

「実は今回のツアー、おじいちゃんからある依頼をされたのよ」

 しかも面倒なものだという。

「どんな?」

「歴史上の人物、戦国武将あたりを一人選んで自作パソコンの部品で性能を表現すること」

 無茶ぶりの連鎖のような事態に八重子も電話口で文句を言ったのだが、相手は「八重子の直感で良いから」「楽しみにしている」と言って受話器を祖母に渡してしまったのである。

 人の良い祖母はというと「八重ちゃんに会いたい口実だから気にしなくて良いわよ」と言ってくれたのだが、それはそれで責任重大である。

 話を聞いた明理もあっけにとられる。

「部品で性能は判明しても、性格までは無理でしょ?」

「確かにそうなんだけど、人によっては部品に対してイメージはあるらしいの」

 そう言って八重子はネット上でマザーボードという部品について書き込みをしている人たちの文章を明理に見せる。

 そこには大雑把に四つの会社で販売されてマザーボードについての評価が書かれていた。


 ただ、ネット上ゆえに暗号みたいな言葉が使われている。

>ノームのところは優等生という話だけど、人によってはどうだろう

>ウンディーネの会社は昔から使っている

>シルフィーは面白い

>サラマンダーこそ至高(強火発言)


「どこのこと?」

 マザーボードの会社自体を知らないので、明理は首を傾げる。

「だから今回、見当だけも付けておこうかと思っている」

 しかし各会社の評価は反対意見も書かれているので、そもそも参考になるのかすら怪しい。

 このときマダラネコが全員に声をかける。

「皆さん、次のお店に移動しますよ~」

 女性四人と男の子一人のツアー客は、ガイドの後について店のエスカレーターの方へ移動し始めたのだった。


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