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秋葉原にて電気魔方陣待機中  作者: 守木菜つくし
13/14

ちゃんと知ろうとしたらそこは迷宮だった 13話


 しばらくして、店に一人の男性が入ってくる。

 そしてツアーメンバーたちの座っている席に近づいた。

「奥様!」

 話しかけられて、富江は相手の顔を見上げる。

 隣にいた和枝が席を立ち、何やら男性に謝っている。

 そんな中、富江が口にしたのは「フジオカさん、あの子がとんでもないご迷惑を……」だった。

 この様子にようやっと相手の言う『お迎え』が来たのだとツアーメンバーたちは理解する。

 涙声で何かのドラマが始まったようだが、部外者である明里と八重子は様子を見るしかない。

 マダラネコは困惑し、セリリヤは眉をひそめている。

「とにかく皆さんが家でお待ちです。和枝さんも車に乗ってください」

 このとき富江が全員の分を奢ると言ったのだが、それをセリリヤが断る。

「ほとんど見知らぬと言ってもいい方に奢られるいわれはありません」

 ご自分たちの分だけでどうぞ。

 そう言ってレジに向かい、店員に事情説明をして会計を済ませさせた。

 こういう対応に慣れていないのか、呆然としている富江は促されるままフジオカという男性と店の外へ出る。

 和枝も出る。

 慌ただしい一幕が終了したのを、シンゴは少し離れた席から見ていた。

(エドワードおじいちゃんの事、聞いてみたかったけど何だか無理そうだなぁ)

 そして同席している人物に話しかけた。

「一緒に帰らなくて良いの?」

 その問いに陽一は「母さんとは秋葉原で待ち合わせをしただけだから、もう少ししたら帰るよ」と答えた。

 二人は何をしているのかと言うと、シンゴが陽一から『四則混合の計算』の理屈を教わっていたのである。



「なんというか、嵐みたいな展開ですね」

 好奇心というよりも状況の認識のため、明里が口火を切る。

「嵐というか……、お祖父ちゃんが面倒な手間を掛けた理由がよく分かった」

 今回のツアー参加者の中に、亡くなった富豪の最後の言葉を知る者がいるという認識は迷惑このうえない。

 だからツアーの申し込みをした人間と参加者が違うという手法が取られたのである。

「セリリヤさんには大変な対応をさせてしまいました」

 マダラネコの謝罪にセリリヤは大丈夫と笑顔を見せる。

「マダラネコさんは『道教え』とか『道しるべ』の異名を持つ“斑猫ハンミョウ”役ですから、アレは景色の一つですよ」

 そうか?というツッコミを心の中でしながら、明里は注文をしたパンケーキを口にする。

「それよりも御三方、何か気になるモノはありましたか?」

 セリリヤの問いに三人は今日の出来事を思い浮かべる。

「今回、面倒なことに巻き込んでしまったお詫びに、『スイセイ通信システム』についてちょっと教えますよ」

 彼女の楽しそうな様子に、明里は聞いて良いのかと不安を覚えたのだった。



『スイセイ通信システム』

 実際はそんなシステムがあるのかどうかすら不明。

 魔法なのか科学なのか。

 ただ、“アルカナ・トルカナ”のプレイヤーたちは、わからないからこそ調べ尽くしたくて関わっていると言って良かった。

「プレイヤーに自作パソコン派が多いのは、すくに不調の原因を大まかにでも解明し対処出来るから」

「でも、重要視されているのは“自分が吟味した部品たちの集合体である”自作パソコン自体が筐体の中で魔方陣を構築しているという説があるからなのよ」

 同じ部品が二つあって、どちらかを選ぶ。このときに納得のいく方法を用いる。

 そうやって選ばれ構築されたものに何かが宿っても不思議ではない。

 プレイヤーたちは真面目にそう考えてプレイしているのである。

 だからこそ、今回の井湖田家のやらかしは迷惑このうえなく、寅蔵氏が関わっていた“勇者”は文字通りに消した方が良いと思う者たちが出てきやすいのである。

「ほら、そもそもこの秋葉原という街も縦横無尽に人々が歩き、動き回って都市の血液である電気や情報が駆けめぐっている」

 彼女の例えを三人は実感する。

 今日は大勢の人たちが、この街を歩き観光などをしていた。

 たぶん、街というのは人の動きが滞るとそこからダメになっていくのだろう。そういう意味では街は疑似生命体なのだろう。

「耳に入る情報、目に入る情報、それらが全て何かの力の流れに必要な陣形の構築に必要なもの。時代と共に移り変わっても、それは街が鼓動を動かし続けているから」

 その鼓動を可視化できなくても、感触として機械型魔方陣と言うもの理解できそうな気がした。

 上手く作用すればパワーアップ、構築に失敗すれば弱っていく。自作パソコンも都市も。

「まぁ、信じるも信じないも皆さんの判断に任せます」

 ただ、プレイヤーに対して否定はしないでほしい。まだ研究の途中だから。


 セリリヤの言葉に三人は小さく笑う。

 そういう研究者に会えるのかすら分からない話なのだから。

 ふと気になったことを明里はセリリヤに尋ねてみる。

「そういう事情だと、ゲンさんもそのプレイヤーなのですか?」

 するとセリリヤはちょっと考えた後、「当たり」と答える。

「あの人が何で自作パソコンを作るようになったかは聞いた?」

「はい。メーカー製のパソコンが連続で不調になったといっていました」

 一度目も二度目もパソコンが使えない時期というのが発生たのかもしれない。

 彼女がそんな事情を想像していると、セリリヤは困ったように笑った。

「あのひとは今でも自分のパソコンが不調を起こすのではないかと警戒しているのだけど、その疑惑と部品選びの集中力が“アルカナ・トルカナ”のプレイには必要だったことが判明したの」

 自分に必要なパソコンの性能はそんなに高くはない、しかし不具合は避けたい。

 自作をする目的が高性能さではなく、自分自身と相性のよいもので作るの一点に絞られているのだ。

 それが彼女の考える“高性能自作パソコン”だったのである。

「でも、さすがに年齢が高くなると次の自作は難しいかもと考えるようになったらしいけど、“アルカナ・トルカナ”から脱退して欲しくはないから今回のツアー企画になったんです」

 他の人と話をしながら、もう少しだけ参加し続けてほしい。

 それが他のメンバーの願いでもあった。

 しかし、答えだけを知りたがる井湖田家の人のような存在は邪魔でしかない。

「マダラネコさん、モモさん、ホリーさん。関わってくれてありがとうございます」

 セリリヤに頭を下げられて、三人はつられて頭を下げたのだった。



 そしてシンゴと陽一の会話は『四則混合の計算』から、何故か『産業の米』と『産業の塩』と書かれた冊子の話になっていた。

 陽一は今回、その展示会を見に行くという理由で秋葉原方面に来ていたのだった。

 初めて会った彼から水晶デバイスの話になったとき、シンゴのリュックの中の水晶たちがゴロゴロと動く。

 このことに彼は冷や汗をかく事になったのだが。


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