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秋葉原にて電気魔方陣待機中  作者: 守木菜つくし
12/14

ちゃんと知ろうとしたらそこは迷宮だった 12話


──パソコンをメーカー製にするべきか、それとも自作にするべきか。


 明里は店に飾られていたマザーボードたちを見比べていた。

 メーカー製ならばほとんど手間をかけずに使うことが出来るかもしれない

 しかし問題が発生した場合、メーカーに検査や修理を依頼する必要が出てくる。

 では自作の場合はどうかというと、組み立てるまで勉強をすることになる。

 使えるところまで頑張れば、だがあとは問題が発生しても実費で済むかもしれない。

 勉強不足が悪い方へ傾く事もあるが、それはメーカー製でも変わらない。


 とはいえ、自作パソコンはタワー型になるので場所を取る。

(モニターやらキーボードとかも用意するのよね)

 ノートパソコンの扱いやすさを考えると、そちらの方が自分の暮らしに合っている気がした。

「……」

 だが今、自分の目の前にある音響機能を強化したというマザーボードが気になっている。

(どれくらい綺麗に聞こえるのだろう?)

 そこへ八重子が様子を見に来た。手に荷物を持って。

「どう、気になるものはあった?」

 そう尋ねる友人の手には、この店の紙袋。

「やっ……モモさん、何か買ったの?」

「自作パソコン関係の雑誌」

 祖父にこのツアーの説明をするときの参考資料にするという。

「今すぐ購入する訳じゃないし」

 しかし本を購入するというのは、明里からすると自作パソコンを組み立てるのは彼女の方ではないかという気がしてくる。

 二人がそんな話をしていると、背後からマダラネコが来た。

「モモさん、ホリーさん。ゲンさんが急用が出来たということで帰られました」

 挨拶をしなくてスミマセンとの伝言だという。

 そこへセリリヤとシンゴもやってくる。

「モモさんとホリーさん。今から嵐がやって来てお騒がせすると思います」

 その言葉に明里は友人の方を見る。

 一応主催者となっている八重子は、この展開に苦笑い。

「お祖父ちゃんに連絡をしておこう」

 彼女はスマートフォンを取り出した。



 そして予言通りにツアーのラスト近くに現れた『嵐』は、一人の老婦人。

 少し離れたところに、この様子を心配そうに見ている女性がいた。

 老婦人はマダラネコの前に立つと、「アナタがツアーの主催者?」と聞く。

「いいえ、私は旅行会社の者です。何かご用ですか?」

 マダラネコ的には、(何だかゴタゴタの気配がするのだけど~)と緊張した表情になる。

 そこへセリリヤが割り込んできた。

「失礼しますが、もしかして井湖田富江さんですか?」

 自分の名を口にされて、富江はセリリヤの方を見る。

 しかし、見覚えは無い。

「そうですが、貴女とは何処かでお会いしたことありましたか?」

「直接会ったことはありません。お噂はかねがね……と言ったところです」

 その表情には何か含みがあるようで、傍観しているだけだというのに明里は緊張してしまった。

 セリリヤは八重子の方を向くと「宜しいですか?」と何かの許可を求めた。

「祖父から話は伺っています。井湖田の人が来たと伝えておきました」

 八重子は明里に小声で事情を説明する。

「井湖田さんてお祖父ちゃんの友達なんだけど、あの遺言騒ぎで秋葉原ツアーに誰か来るだろうって前に言われていたのよね」

 本当に来るとは思わなかったけど。

 そういわれると、確かに井湖田寅蔵の遺言は秋葉原にヒントがあるように思えないことも無い。

 明里は目の前で降って湧いた別の事情を観察することになった。

 とはいえ、女性たちの間に流れる緊張感に他の客や店員が様子を気にし始めてチラチラとこちらを見ている。

「では、このツアーのまとめとしてレストランでの席が用意されていますから、話はそこでお願いします」

 一人減って三人増えて、ツアーは奇妙な展開を迎える。

 ただ、レストランへ向かう途中、シンゴと老婦人の連れていた男の子が何やら盛り上がっているのが明里には救いだった。


 そしてレストランへ到着すると、男の子二人は勝手に別席にいるといってツアーから離れてしまう。

 仕方ないので予約席に女性たちが座ることになった。

「それでは本日はツアーへの参加をありがとうございました。さすがに此処での支払いは各個人でお願いします」

 普通のレストランなのでそれなりにメニューは豊富である。

 全員がそれなりにメニューを選んだ後、いよいよ飛び入りの老婦人へセリリヤが言葉をかけた。

「ここではインターネットで使っているハンドルネームで呼び合っていますから、そちらは何とお呼びしましょうか」

 いきなりそこからか!と同席している者たちは思ったが、確かに有名人の名前を連呼するのははばかられる

 富江はしばらく考えた後、「富ちゃんと、こちらは和ちゃんでお願いします」と答えた。


「では富ちゃん、貴女は自分の夫が『スイセイ通信システム』の調査をやっていたことはご存じですか?」

 セリリヤの言葉に全員が「聞いたことは無い」という顔をする。

「このシステムは特殊な水晶を媒体にして、これまた特殊なサーバーにアクセスするというものです」

 しかし、これ用の水晶というものが見ただけでは判別不明。

 自作パソコンの側に置いて問題のサーバーにアクセスすることが出来て初めて、それが特殊であるということが分かるというもの。

「つまり富ちゃんの夫は、その特殊な水晶で問題のサーバーにアクセスするための窓口である“アルカナ・トルカナ”に入ることが出来た数少ない人物でした」

 富江からすると初めて聞く話だし、何を言われているのか分からない様子だった。

 それを言うなら明里と八重子も理解しているとは言いがたいのだが、二人は聞き役に徹している。

「富ちゃん、今の話を理解できましたか」

 セリリヤは険のある表情になる。

「……」

 彼女は困った表情で隣にいる和枝に分かるかと尋ねる。

 しかし、和枝も分からないといった様子だった。

 そこへ注文をしていたメニューが少しづつ運ばれて来た。

 セリリヤは「どうしたものか」という顔になる。

「富ちゃん、ここを理解しておかないと、貴女の夫が勇者に託した伝言を受け取ることは出来ませんよ」

 この言葉に富江は息をのむ。

「あの人の言った『勇者』をご存じなのですか」

「知っていますよ。というか“アルカナ・トルカナ”に入れた者たちは大抵知っています」

 でも、知っているからといって井湖田家に教えたり近づく気はない。

 自分の大事な遊び場を荒されたくはないという理由だったり、そもそもネット上の事なのでハンドルネーム・北前が井湖田寅蔵であると分かっていなかったということもある。

 しかし今回の騒ぎでだいたいバレたと思って良い。でも、教える気がないから今まで分からなかった。

 だからこれからも誰かが教えるというのは無いと思った方が良いと、セリリヤは説明した。

「そもそも何年か前に、貴女の息子さんがプレイヤーの一人を父親の恋人ではないかと早合点して相手に迷惑をかけました。その話は聞いていますか?」

 セリリヤの投下した爆弾発言に、富江の表情が硬直する。

 和枝も初めて聞く話だった。

「そ、そんなことが……」

「富ちゃん、だから彼は自分の水晶を他の人に託したんです」

 自分の家族に適性は無いと判断して。

 そもそも『スイセイ通信システム』はそもそも原理がよくわからないところがあるのだが、確かに“アルカナ・トルカナ”にとっては意味のあるものだった。

 そして摩訶不思議だからこそ、秘密裏にその現象に魅入られた人たちは大事にプレイをしていた。

 しかし日本人プレイヤーの家族がマスコミにそれを公表してしまったのである。

 これ以上の騒ぎは避けたい。他のプレイヤーの迷惑になりかねない。

「だから今回のツアーが、ご友人であるモモさんのご家族が中心となってのものとなったのです」

 井湖田寅蔵の名がちょっとでも表に出ると、井湖田家がまた言いがかりを付けるかもしれないし、来てほしい人がキャンセルする可能性がある。

 その説明に明里はその人が『ゲンさん』だと察した。

 だから彼女は帰ったのだ。際どいタイミングだったが。

「あの……、ではそのアルなんとかから伝言を見るのは、どうしたらいいのですか」

 富江としては諦めきれない。

 しかし息子が迷惑をかけたのが本当ならば、自分たちが警戒されているのも分からないほどお気楽な思考はしていない。

「どうしたらいいといわれても、まずは特殊な水晶を見つけ出して、その水晶と相性のよいパソコンを手に入れれば良いだけです」

 逆に、それ以外に手段は無い。

「本来は絶えず管理できる自作パソコンの方が良いですが、水晶が良しとしればメーカー製でも大丈夫という話を聞いています」

 全ては協力してくれる水晶次第。

 ただ、また世間に発表して協力者を得ようとはしないことだと、セリリヤは注意をした。

 勇者には表示されるフィールドマップをウロウロすれば、時間はかかるが会えないことも無い。

 しかしその間に井湖田家がまた騒ぎを起こせば、勇者は危険にさらされるという。

「プレイヤーたちに『勇者』を倒してこの騒ぎを収めようという展開になっても、私にはどうすることも出来ませんから」

 この言葉に、明里はあることに思いあたる。

(もしかしてセリリヤさん、“アルカナ・トルカナ”の管理者?)

 それにしては『スイセイ通信システム』について自分には何も言わずに“アルカナ・トルカナ”の話をしていた。

 むしろ水晶は好きかと尋ねられている。

(まさかね……)

 一瞬過った考えを明里は無視することにした。

 セリリヤが自分と特殊な水晶を関わらせる理由が見つからないからである。



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