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秋葉原にて電気魔方陣待機中  作者: 守木菜つくし
10/14

ちゃんと知ろうとしたらそこは迷宮だった 10話

かなり時間がかかりました


「なんだろう?」

 次の店へ向かう道中、明理はバッグからスマートフォンを出してみる。

 昼食後あたりからそれは何度か小刻みに震えているようなのだが、確認をしても電話もメールも来てはいない。

 よもやスマートフォンまで不調という展開なのかと、彼女は気持ちが暗くなってしまう。

「ホリーさん、何か気になる事でもあった?」

 八重子に話しかけられて、明理はスマートフォンをバッグに仕舞う。

「もしかして面白くないとか」

 連れて来た側としては、友人の時間を無駄にしているのではないかと気になる。

 それに対して明理は「ツアーは面白いよ」と明るく答えた。

「それよりモモさん、パソコンの構成は決まったの?」

「漠然としたテーマで選択肢が多いから全然決まらない」

「確かに範囲が広すぎるよね」

「何か“コレ”というものがあって、それの為に構成を考えた方が決まるかもね」

 そんな話をしていたら、ツアーはいよいよ最後の店に到着したのだった。



一日で何軒も自作パソコンの部品を扱っている店を巡っていると、それなりに明理も商品内容の見当がつき始める。

ただ、それが自分にとって必要であるかどうかの判断が付かない。


「ゲンさん、光学ドライブは必要だと思いますか?」

ガイド役のマダラネコは八重子とセリリヤ、そしてシンゴに何かを説明している。

そして明理とゲンさんは彼女たちから少し離れた所にある外付け用の光学ドライブとHDDのコーナーにいた。

光学ドライブとは、CDやDVD、ブルーレイなどの光学ディスクを読み書きする機械のことなのだが、店にある筐体の中には光学ドライブを設置するドライブベイの無いものもあった。

店員曰く、「今の時代はOSを無事にインストール出来れば、ドライバ関係は後からでも何とかなります」とのこと。

本当に何とかなるのか、彼女としてはイメージが沸かないのである。

するとゲンさんもちょっと困ったような表情をした。

「今のパソコンには内蔵型の光学ドライブを付けていますが、次のときは外付けも視野に入れる時代なんですね」

 彼女の方も困惑しているようだった。

「ホリーさん、実は私……、どうもパソコン運が微妙に変なんですよ」

 何の話が始まるのかと明理が「変というと、どんな風にですか?」と尋ねる。

「一番強烈だったのは、パソコンが歌を歌ったことでしょうか」

 それは変という領域なのか。さすがに明理の想像を超えている。


「後から考えればたぶん、パソコン全体がラジオの受信装置みたいになっていたのだと思います。でも、その時は驚きました」

 今でも歯科医が治療した銀歯がラジオの役割をして、幻聴のようなものが聞こえてきたという話もある。

 ただし、これには複数の条件が重ならないと発生しないらしい。

「歌を歌ったのは後にも先にもその一度で、今から二十年近く前の話ですからレアな体験ですね」

 しかも有名メーカー製のタワー型パソコンだったと説明をする。

「そのパソコンも色々と問題があって、次に別のメーカーのパソコンを購入しました」

 そのパソコンが後に電源の交換を二回ほどやる事となったモノ。

 もちろん、電源がダメではパソコンを使うことは出来ない。

「そんなことを繰り返していたら自分で部品を吟味した方が異常が起こっても諦めが付くんじゃないかと思うようになって、自作をすることにしたんです」

 話を聞くと、明理でもここまで不具合と関わっていたら自作パソコンを使っていた方が何かに対して諦めがつくような気がした。

 ゲンさんは話を続ける。

「だからといって自作だったら壊れないというわけじゃないですよ。ただ、交換する部品が判明したら自分で対応すれば納得できるに変わっただけですから」

 自作パソコンに関しては何故かマザーボードにあるLANポートが不具合を出した事があり、それからは外付けのLANアダプターを使っているという。

「でも、自作パソコンでCドライブ用とデータ用のHDDを二つ用意してデータ用を守れば他は取り替えになっても何とかなるので、私のような者には有り難い話です」

 そしてCドライブ用の記録装置をHDDではなくSSDソリッドステートドライブにすると、HDDよりも起動が早くなるという。

「本当に早かったですよ」

 しかし価格はまだ高めだし、壊れないわけではないので明理がPCの購入のときにはよく考えて判断をして欲しいとの助言。

 SSDについて過去形のため、ゲンさんのパソコンに何が起こったのか明理には想像がついた。

 二人がそんな事を話していると、少し離れたところで他のツアーメンバーが何かを見つけて盛り上がっていた。



「さすがは秋葉原……」

 セリリヤがわざとらしく苦渋に満ちた表情をしている。

「ゲーム機?」

 八重子は興味津々だった。

「初めて見た」

 シンゴはリュックを抱えながらそれを見つめる。

「これは知りませんでした、勉強不足です」

 マダラネコは説明をしてもらおうと店員を探す。

 そこへ明理たちが近づく。

「何かありましたか?」

「あぁ、二人ともこの商品、知っている?」

 セリリヤに言われて見た商品に、明理は首を傾げる。

「だ~くいんざろ~ど……?」

 箱には平仮名で商品名が書かれているので、『dark in the』までは見当がつくのだが『ろ~ど』のスペルが分からない。

 そして手書きの商品説明によると、3.5インチ・ベイ型ゲーム機で中身は『地球創世シュミレーション』と書かれている。

 そこへ店員がチラシを持ってやって来た。


「これは自作パソコンに組み込みタイプのゲーム機なんですよ」

 海外のメーカーが二年ほど前に発売したのだが、一般向けとは言えないので知名度はイマイチらしい。

 そして今のところプレイ出来るゲームそれだけ。

「でも、プレイしてみると最初に小さなミジンコ見たいなものを捕まえたら、あとはほったらかしでも何とかなるゲームでした」

 運が良かったのか、店員自身がプレイヤーだった。

「ミジンコみたいなものを表示されたコマンドのクリックで世話していくとステータスが変化して進化が始まるのですが、目的の恐竜や哺乳類などにならないと思った方が良いです」

 基本的に画像は昔のTVゲーム系のドット絵で、今のところ3Dにするという情報は無い。

 ゲーム自体は適当に遊んだり捕食の手伝いをすると、ステータスがランダムに変化して陸上の生物になったり海の生き物になったりするという。

 そしてこのゲームは隕石落下での恐竜の滅亡時が第一部の終了となる。

「第二部は哺乳類系を育てている人のみが進めることが出来るらしいですよ」

 とにかくヘルプなどのシステムが親切とは言いにくいし、恐竜などの生物の数もまだ多くはないのでバージョンアップ待ちという評価なのである。

「ゲーム自体も人を選ぶタイプなので、うちの店でもぶっちゃけイロモノ扱いとして入荷してみました」

「でも、他のプレイヤーとチャットが出来る機能があるので、そういう話をしたい場合には便利なゲームかもしれません」

 店員が今育てているのは『三葉虫』なのだが、ゲーム自体はベクビチアで止めているとのこと。

 進化の過程でベクビチアの次がカブトガニ系になるのか、それともクモやサソリの方に進化するのか分からないから。

 しかもデータが新生代までなければ第一部のときにエンディングになり、第二部まで継続できないのである。

 そして第一部でエンディングは哀しすぎるので、意図的に古生代のカンブリア紀で止めていると説明をした、

「すごい、やってみたい!」

 シンゴは目を輝かせるが、セリリアは厳しい表情でゲーム機のパッケージを見ている。

 そして一言、「シンゴ、それは許さないわよ」と言った。

 声には何やら怒りが含まれている。

 この様子にマダラネコが店員に挨拶をしてその場から離れてもらった。

「セリリヤ……お姉ちゃん?」

 シンゴは彼女の様子に驚く。

「何をそんなに怒っているんだよ」

 すると彼女はパッケージに描かれている企業マークを指さす。


「このマークはワ・ルーイヨ皇帝の親衛隊の使っているもの。この企業は、あのとき一緒に墜落した“向こう”の陣営に所属している」

 急に出てきた名前に、明理は“アルカナ・トルカナ”のスピンオフゲームなのかと箱のパッケージをまじまじと見る。

「守らなくてはならない水晶星人が側にいる時にこのゲーム機を起動させれば、向こうに船と人形(ひとがた)ロボットを乗っ取られる」

 するとシンゴは抱えていたリュックを強く抱きしめて「ゴメン」と呟く。

 

 二人の会話に明理は「これってSFドラマ付きのツアー?」と友人に尋ねた。

 マダラネコも驚いている。

 八重子はというと「お祖父ちゃんの性格だと、違うとは言いきれない」と答えた。


 そしてゲンさんは古いタイプの携帯電話を取り出すと、何か文字を打ち始めたようだった。




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