第7話 話題の人影
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「………あ゛ー」
ご飯どうしよう。
思わず頭を抱えた。
汚兎はもう一生食べたくないとどんな奴でも素直に言える酷さだった。
だからと言って毒耐性も無しに毒蛙を食べる訳にはいかない。普通に死ぬ。
もし毒蛙が美味かったら、慣れない毒抜き(多分微量は毒が残るだろうがやらないよりマシ)をしてでも食っただろうが……………前倒した毒蛙を試しに齧ってみたが、普通に不味かった。いや、肉自体は鶏肉みたいだったから適切な処理ができれば美味しんだろうけどさ。
ソウスケはどうしてるだろうか。迎えは不気味な少女だったが、勇者とか言われてたし、テンプレ的に言えばお城に居るんだろうか。だとしたら、歓待の宴を受けて美味しい料理を食べているのだろうか。
生活の保証ができるくらいの金を貰って、仲間と共に勇者として旅立ったのだろうか。
多分、別の食料が見つかるまでは汚兎を無理矢理にでも食って凌がなければならないワタシとは大違いである。
無慈悲すぎて涙が出るわ。乞食の方がマシな生活してるんじゃないか?
少なくとも生死の境を彷徨う迷宮の中で満足な食料も頼れる肉盾、もとい仲間も居ないのは不味すぎる。
今の所頼りになるのは鑑定鏡先生だけである。
なんで先生呼びなんだって?
この極限的な状況下で正確な情報をくれる鑑定鏡先生は誰になんと言われても神である。
鑑定鏡先生の解説という名の忠告を無視して汚兎を食べた結果、こうなっているのだから反省の意味も込めて先生と呼ぶことにした。
とりあえず腹減って仕方ないが、汚兎は死ぬ間際でもなければ胃が受け付けないと思うので食料になりそうな魔物を見つけては、鑑定鏡先生を翳す。
そして
【ホロウゴースト:F+ランク】
【物理的な干渉ができない代わりに魔法能力の高いゴースト。生まれたばかりの個体は魔法使いの良い練習台として的になる】
食べれる部位が無いとひと目で分かるヤツを見つけたり、
【ダストピッグ:F-ランク】
【スカイピッグが汚物を食べて生活した結果誕生した進化系。基本的に単体で生活するが天敵がいない位には不味い】
汚兎と同等かそれ以上の匂いがする汚物と出会ったり、
【スケイルフロッグ:Eランク】
【リトルトードが水の中に適正を持った状態で進______
【ブラストアリゲイツ:C-ランク】
【高い攻撃力と俊敏な速度を併せ持つワニ型の魔物。群れで活動し獲物を掠め取る知性を持つ】
ようやく見つけた良い感じの獲物は近くの水場から飛び出してきたクソワニに横から掠め取られ。
「めし……しぬ……くそ……」
そんな感じで現在空腹で倒れている。
このまま餓死とか認めたくないが、マジで食べ物がない。
意識が無くなるレベルまで追い詰められたら汚兎を食べるかも知れないが、現在身体が上手く動かないだけなので体力を無駄に使わない様に横になって過ごしている。
あ゛ー………石が冷たい。
◇◆◇◆
「はぁ!?『ファヴニールの迷宮』の中で子供の人影を見た!??」
冒険者ギルドの中にその声はよく響いた。
単純に大声という事もあるが、内容が信じられなかったのだ。
「……あ、ああ。二日前くらいに探索したAランクの冒険者が言っていた。すぐに姿を消したようだが、確かに子供だったそうだ………」
「ちっ、ウィッチの奴らの犠牲者かしら……?だとしたら、早く助けてあげないといけないけど……」
男の肯定に周りがざわつきだす。
先程大声をあげた少女が忌々しく呟いた。
ここリドエムの町は、人類が魔族領の鼻先に建てた町であり、辺境に位置しているが比較的発展している町で、冒険者も多い。
というのも、近くに『生贄』を求めて子供を攫うウィッチの集落があるせいで定住者が着きにくく、仕方なく近くのファヴニールの迷宮を利用して冒険者をメインターゲットにした商売が盛んになっている。
これは、設立当初にウィッチが獲物が湧いて出たとばかりに住人の子供を攫いまくった影響でそうせざるを得なかったとも言える。
そんな事情もあって、ここの住人はウィッチの事を目の敵にしており、ウィッチの文化である『生贄』に選ばれた子供が攫われたと聞けば、死の危険があろうが、取り返しに行き、ついでに3、4人はウィッチを殺し、殺されてくるレベルで犬猿の関係である。
「わからない。魔物が擬態している可能性もあって探索していた奴らは引き上げさせた。ファヴニールに目をつけられても困るからな」
「妥当な判断ね。でも心配だわ……今も生きてるといいけど……」
「やめておけ、きっと『生贄』だろうが……二日も迷宮に居ていてファヴニールに食われてないなんてあり得ん」
「…………くそっ」
少女が血が出る程に強く拳を握り、悪態を吐く。それを見て男は毎度の事とはいえ、助けられなかった子供を思えば悲しい気持ちになるのだった。
『ファヴニールの迷宮』はこの町の資金源であると同時に、世界でも有名な『魔王候補』の住む迷宮だ。
魔族領と人類の領域の境に建てられたこの町に小競り合いが起きないのも、『ファヴニールの迷宮』があるからである。
魔王候補の縄張りにちょっかいをかけるバカなど人類にも魔族にもいないから当然ではあるが。
「私、助けに行くわ」
「………恐らく、もう生きていないぞ」
「でも、証拠を見るまで諦めきれないわ。 ………そうでしょ、みんな」
「「「……………」」」
少女が言う事に、これは聞かないな、と思っていても忠告をする男。当然のように少女は男の言葉を受け流した。
それどころか、周りの冒険者も、悲痛な顔で少女に続こうとしている。
先程、魔王候補のいる場所に小競り合いは起きないと言ったが、対立が無い訳ではない。
実は、リドエムの町が長年悩む問題として、ウィッチはその迷宮に生贄とした子供を投棄するのだ。
ファヴニールの迷宮の主である魔王候補『《傲慢》のファヴニール』は"一日以上迷宮に居座る人類を問答無用で喰らう"という謎のルーチンがあり、毎回生贄が攫われては、冒険者達が迷宮の空洞までウィッチを追いかけ、死闘を演じるのがお決まりになっていた。
生贄にされた子供を確実にファヴニールの糧とする為に戦うウィッチと、生贄にされた子供を何としてもファヴニールに殺させない為に戦う冒険者達の構図である。
幸いと言っていいのか、生贄が攫われるのは、半年に一回のペースなので、普段は冒険者とウィッチは顔を合わせもしない。
そんな事情もあって、リドエムの町は魔族領と隣接しておきながら小競り合いの起きない町と中央では認識されており、地元では何よりも魔族が憎い冒険者がいるとして有名である。
大体の冒険者は魔族であるウィッチに身内を生贄にされているのだから当然だが。
「今回の事をどう見る。俺は魔物の……もしかしたらウィッチの奸計ではないか、とすら思っている」
「それでも、もし助けられなかった彼らが生きている可能性があるなら、行かないわけには行かないわ」
少女の言葉に男は思わず唸ってしまうが、しかし同時に青い、とも思うのだ。魔物の擬態では、という言い訳を使って人影を見た冒険者を引き揚げさせたのもそれ相応の理由があって、あり得ないとは言えないからなのだ。
勿論生贄に選ばれた子供の中では助けられなかった子供もいるし、だからこそ攫われないように警備は厳重で、攫われたとしても直ぐに報告が来る。
しかし、今回、特に攫われた子供はいないし、いたとしても報告されていない。時期だって外れている。
過去にファヴニールが気紛れに逃した子供がいまだ生きている可能性もあるにはあるが、可能性としてはかなり低い。
だからこそ、男は唯一ファヴニールが食わない可能性として、今回の子供の人影が魔物の擬態であるという可能性を既に考えていた。ファヴニールは人類は食べても、魔物は食べないのだ。
だがもし、子供の人影が魔物の擬態ではなく、今も逃げ続ける哀れな子供だとしたら……。
そんな思考の天秤の中で、男はそんな奇跡をあり得ないと思い、少女はそんな奇跡が起きて欲しいと願った。
今回の話はたったそれだけの話である。
「一応、援軍を頼んでみるか……」
しかし、男だって奇跡は信じたいのが本音である。
冒険者を引き連れて迷宮に向かう少女を見送って、何かあった時の為に、そして奇跡が本当にあった時の為に、どちらにも対応できるように男は伝書鳩の準備をした。
尚、話題になっているその人影であるが
「GURUrururu…………」
(ワタシは死体ワタシは死体ワタシは死体ワタシは死体………!)
空腹に倒れている所に突然現れたヒト型の黒龍にビビりまくって死んだふりをしていた。
ちょっと前まで死体だったせいか、その死んだふりは見事なものだった。ピクリとも動かない。
「Gur………」
(早くどっかいけーーーー!!!)
やたら人間くさい動作でツンツンしてくる黒龍に、ハクは内心で絶叫していた。
▼話題の人影
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Lv:2
名前:ハク
種族:混沌の落とし児
階級:第1階梯
HP:21/56
MP:0/0
ランク:E-
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▼少女
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Lv:34
名前:サザラ・リドエム
種族:人間
階級:第3階梯
HP:163/163
MP:302/302
評価:C-
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