第5話 種族:混沌の落とし児
進化です。
とりあえず、近場の水場で周りに敵がいないのを確認した後、戦闘中についた蛙の体液や毒液を洗い流した。
その後、進化する方法を探す。
「ふんぬっ!…………………だめか」
力が漲るイメージを浮かべて全身を力ませるが、効果はなし。進化って強化形態的なイメージもあったからできるかと思ったが、結果はご覧の通りだった。
「……………………ちっ」
その後、精神的な問題かと思い瞑想とかもしてみるが、十分位経っても効果はなし。これ以上待てないので切り上げる。精神的に落ち着くのは意味がないと見える。
「………永く生きれる身体に………永く生きれる……永く…………なんか不老不死が夢みたいに言ってる気がしてきた」
なりたい自分をイメージするといいのかと思い、ひたすら願望を口にしてみたが、どっかの怪しいカルト論者になったみたいで嫌気が差してきた。
………効果なし。
「いっそ選択肢でも提示してくれればいいのに……」
そこらへんアフターケアとか無いの……?とか思って溜息吐いて座り込もうと___
《要請を確認。個体名:ハクの進化ルートの選択肢を表示します》
《1:成長する。これを選んだ場合、進化先は【ウィッチの死体:Gランク】になります》
《2:開き直る。これを選んだ場合、進化先は【ゾンビ:F+ランク】になります》
《3:より上位の存在に至る。これを選んだ場合、進化先は【リトルウィッチゾンビ:F-ランク】になります》
《4:彼方よりの餞別を受け取る。これを選んだ場合、進化先は【混沌の落し児:E-ランク】になります》
___してずっこけた。バシャーンと音を立てて近くの水場に落ちて強制的に冷や水を浴びる。
「………先に言えよ」
いや、選択肢あるんかい!? 喉元までそんな言葉が出そうになったが、大声を出すと命に関わるので、この程度で収める。水場から這い上がってはみたが、脱力感がやばい。
今までの行為が無駄になるどころか黒歴史になった瞬間である。実に悲しい。というか、恥ずい。
一人で力んだり瞑想したりカルトっぽい事をブツブツ言ってたさっきまでの姿は永遠に闇に葬る事にした。
「で、なんだっけ?選択肢もう一回言ってくれるか?」
《1:成長する。これを選んだ場合、進化先は【ウィッチの死体:Gランク】になります》
《2:開き直る。これを選んだ場合、進化先は【ゾンビ:F+ランク】になります》
《3:より上位の存在に至る。これを選んだ場合、進化先は【リトルウィッチゾンビ:F-ランク】になります》
《4:彼方よりの餞別を受け取る。これを選んだ場合、進化先は【混沌の落し児:E-ランク】になります》
…………なるほど。
まず言えるのは、1と2は論外だな。
1は、死体のまま成長しても意味はない。というか、死体のまま成長できるとは思えないのだが、鑑定が正しければリトルウィッチがウィッチの子供なのは当然なので、ウィッチの死体とはその名の通り大人のウィッチの死体なのだろう。成長するとしても生きてなきゃ意味がないので、これは当たり前のようにボツ。
2はゾンビというが、明確なモンスターになるのはちょっとソウスケにあった時に困るのでボツ。
というか、開き直るってなんだよ!? 確かに鑑定鏡でも何で死体のまま動いてるの?とは言われたけど、だからって開き直って動く死体になるのは嫌だよ!
そういう意味なら3のより上位の存在に至るもボツだな。だれもかれもゾンビ扱いしやがって……というか、これリトルウィッチのゾンビって意味だろ?普通に開き直ってゾンビになるのと何が違うの?
「となると、必然的に4なんだが……」
思わず唸ってしまう。
怪しい……。彼方よりの餞別って何よ…? 彼方とかいうのにどんなヤツがいるのかわからないし、ついでに言うならあった事もないヤツが自分に贈り物をくれる……それも“進化先の追加”という破格の贈り物を、とか絶対何かあるだろ。
進化先も混沌の落とし児とかいうおどろおどろしい名前だし。
鑑定が使えればいいのだが、鑑定鏡は鑑定対象を鏡面に映す必要があるので、天の声さんからの申告でしかない進化先の詳細を知る術はない。
混沌の落とし児がもしかしたらどうしようもない異形で、ゾンビになったほうがマシに思う事もありえる。
……だが
「どうせ、希望的観測に縋るしか道は無かったんだし、今更か。……………4で」
《進化先を選択しました。個体名:ハクが進化します》
……そして、視界から光が消える。これ、進化毎に来るのだろうか?
毎回視界が暗転するのだとしたらちょっと鬱陶しいかもしれない、とか思いながら、オレはまどろみに意識を落とした。
落ちる。
落ちる。
落ちる。
堕ちていく。
途方も無い暗闇の中で、不思議と凪いだ意識。
過ぎていく星々を見送り
やがて完全な闇の中に『ワタシ』はいた。
進化ってこういうものなのか?
それともこれが特殊なだけか?
疑問を抱く。
暗闇に呑まれていく中で、不思議なことに
声が聞こえた。
それは___多くの笑い声。
男性の笑い声。
女性の笑い声。
老人の笑い声。
子供の笑い声。
動物の笑い声。
異形の嗤い声。
深淵の嘲笑う声。
?……??……???………????
あっ。
______だれか、見てる……?
「…………………は?」
意識が覚醒すると共に腑抜けた声が漏れた。
何があったのか、何を見たのかは覚えてない。視界が暗転してからの記憶は無い。
進化は終わったのだろうか?
どこか、心臓の鼓動が落ち着かない中で、慎重に鑑定鏡に自分を映した。
鏡には、茶髪に黒目の平凡な配色だった少女が、血のような赤髪に綺麗な蜂蜜色の瞳をした鮮やかな配色の美少女が映っていた。
【混沌の落とし児:E-ランク】
【彼方より、死して尚友を思うアナタに向けた贈り物。その身は混沌とした可能性の化身であり、アナタが願うならば、何者にもなれるであろう。それが、ヒトであれ、アクマであれ。しかし、ゆめ忘れるな。アナタはもう《大いなる闇》に目をつけられてしまったコトを】
「不気味な事ね……」
鑑定鏡に映る解説を見て、ワタシはそう零す。
落ち着かない鼓動の音を必死で宥めながら、その場を離れる事にした。
「あれ? ワタシってこんな口調だったかしら?」
……ま、どうでもいいコトね。
一応、アンデッドでも死体でもなくなってます。
ただ、軽めの精神汚染を喰らいました。
・進化前
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Lv:5(MAX)
名前:ハク
種族:リトルウィッチの死体
階級:第0階梯
HP:5/5
MP:0/0
ランク:G
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・進化後
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Lv:1
名前:ハク
種族:混沌の落とし児
階級:第1階梯
HP:5/43
MP:0/0
ランク:E-
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