混濁した目覚め。
幕間的なイメージで目覚めの瞬間。めっちゃ短いです。
次から本編の迷宮編が始まります。
あれはいつの事だったか。脳裏に浮かぶ映像に思考を回す。
還暦をとうに過ぎて久しい、しかし活力に満ちた翁に言われた事。
___お前は戦闘には勝てるだろうが、決闘には勝てないだろう。
要約するとこんな話だったと思う。確か言われたのはソウスケに剣道でボロ負けして珍しく落ち込んでいた時で、そんな落ち込んでいるオレに呆れたようにその翁は言ったのだ。
___魔力の無い落ちこぼれ。ウィッチ族の恥晒し。
いつも言われていた言葉にも慣れてきたわたし。でも、今回は違った。
___ファヴニール様への生贄を用意せねばならぬ。
長老が言った言葉は、同時にわたしへの死刑宣告でもあったのだ。
___お前はすごいよ、ある意味俺よりずっと。
いつもオレの親友はそう言う。自分に自信の持てないオレを励ましていただけなのか……もしくは本心なのか。
信じてもいいのか?……そう、いつも自分に問いかけてきた。
___あなたなんか、家族でもなんでもない!
___お前という存在が唯一、我が一族の最大の汚点である。それを忘れるな。
家族に最後に言われたのは、愛の否定。長老に最後に言われたのは、存在の否定。
わたしはなんの為に生まれてきたのか。……そう、常に問いかけてきた。
「奇麗な星……」
……奇しくも、戦場の空で最期に見た流れる星の光景だけが、二人の共通点だった。
……手は、届かなかったけど。……胸に刻んでいる。
「ん……」
目を覚ます。記憶の混濁がある気もするが、体調はさっきまで死体だったとは思えないほど良かった。
身体を起こすと、視界がぼやける。目を擦って何度か瞬きをすると、視界が戻ってきた。
「ここは……」
___そこは、記憶にない、大迷宮だった。
地獄は、始まったばかり。