俺と三人娘
今日もクマと戦っている。
マジで強い。いやほんとに。
クマとは思えないフットワークの軽さに、見た目通りの重い腰の入った拳。
ていうかそもそもジャブレベルのパンチでも重い。
防御力はステータス上の見せかけを消しているだけで、実質カンストしたままなのにそれなりのダメージを出してくる。
エリーが「危機感のない戦闘じゃ修行にならないと思う」ということで、このクマはACが999あるのだ。
初戦闘で引っ掻きを避けたら地形が変わってしまった。防御カンストしてるっていってもアレを見たら冷や汗出ますわ。
地形を変えてしまうのはよくないと判断したエリーにより、今は壊れない地面をエリーが創り出したその上で修行をしている。チート乙。
こちらの攻撃はクマに効いてる感じがさっぱりしない。
エリー曰くBDはそこまで高くない設定らしいのだが…(ていうかそもそも魔法知らんからD要らんだろと)
そもそも相手の方がリーチが長いのに同じような格闘戦を仕掛けるのは間違っている気がするんだがなぁ…
というわけで勝てるわけもなく今日も敗北の味を噛み締めていたのだが…
「チカラの有効活用?」
「そそ、今のレイは自分なら消せるじゃない?その範囲を少しづつで良いから広げていきたいの」
ふむ…今はステータスの隠蔽くらいでしか使っていないが、範囲が広がれば広がるほど便利なのは間違いないな。
「とゆーわけで、頑張ってチカラも鍛えましょう〜。まずは意識して使おうとしてみること!」
とりあえず修行後で汗まみれなのでそれを消そうとしてみる…おっサッパリするわ。
「慣れるの早いね〜。あ、でも嫌悪感を感じるものと身近なものは消しやすいって前に聞いたなぁ」
幼なじみ(?)らしく過去の俺の言ったことを覚えているらしい。俺は覚えがないわけだが。
「まぁそろそろ色々イイ感じだし、街に向かうとーーー」
エリーの言葉が止まる。
「何かあったか?」
「んー、近くで魔物と闘ってる人たちがいるね。劣勢だし加勢しに行った方がいいかな」
ーーーーー
戦闘してるらしい方向へ進む(俺は探知できない)。
とはいえある程度進むと声が聞こえてきた。
全力で声の方へ向かう。
「くっそー、たかだかゴブリンのくせに〜!」
「ちょっとこんなに大量にいるとは思ってなかったわ…」
「S切れ…しんどい…」
大量のゴブリンとやらに囲まれている3人の女。
ゴブリン側はもう勝ちを確信しているのか攻撃は散発的で、いやらしい笑みを浮かべながら女達を見ている。
格闘家と魔法使い2人のようで、格闘家は大丈夫そうだが他2人がまともに戦闘できていない。かなり厳しそうだ。
「くっ、あたし1人じゃちょっと手が足りない!たいして強くないからって舐めすぎだった!」
「手伝うぞ」
さすがに危なっかしいので助太刀に入る。
「っ!誰だか知らないが助かる!あたしの反対側をたのむよ!」
「了解だ」
会話から判断するとこのゴブリンとやらはそこまで強いわけではないらしい。
このぐらいなら俺の攻撃力でもなんとかなりそうだと判断して殴る。
一応エリーから剣とかも渡されているが、現状ではクマ相手には肉弾戦しかしてないのでぶっつけで使うのは恐いし。
だが多い。とにかく数が多い。
「くっそー、ありがたいけどそれでもまだ人が足りない!範囲魔法を使える人がいればーーー」
「呼んだ?」
エリーの創った水がゴブリン達を押し流し、蹂躙する。
ーーー俺必要なかったんじゃない?
ーーーーー
「いやー!ありがとう助かったよ!倒しても倒しても数が減らなくって大変だったんだ!」
「本当にありがとうございました…。もうダメかと思いました」
「…ありがとう…」
「いやーたまたま見つけたけど、間に合って良かったよ〜」
「あたしらはゴブリン倒しに来てたんだけど、あんたらはどーしたんだい?こっちには何もないだろう?」
「いやーちょっと色々あってね〜。とりあえず近くの街で冒険者になろうかなーって」
「こんなところで男女2人きりなんて…。もしかして駆け落ちでしょうか?」
「…そこはヒミツ〜。あ、そーだ。S切れちゃったんでしょ?回復飴あげるよ」
そう言ってエリーは箱から飴を取り出した。見た目以上に色々と収納できる箱らしい。
エリーはなんでも創れるため収納とかハッキリ言って要らないが、他人の目がある場合に怪しまれないようにするためらしい。この中にクマも収納されている。
女4人で話しているので俺は蚊帳の外。正直話すの苦手だし別に構わないが…。
フードをかぶった魔法使いさんからはちょっと似た空気を感じる。仲良くなれそうだ。
「そういえば名乗ってすらいなかったね!私はリル!格闘家だよ!」
「ノノと言います。回復魔法使いです」
「…ウタ。水魔法使い」
「私はエリイっていいまーす!魔法使いです!」
「…レイだ。格闘家…だと思う、多分」
現状素手でしか闘ってないし。
「エリイにレイ!ほんとにありがとうな!この礼は必ずするぜ!」
「んー、それじゃあ街まで一緒に行ってくれればそれでいいよ〜」
「それはむしろこちらからお願いしたいことですので…」
「じゃあ貸し1つってことで!それでいい?」
「じゃあそれでたのむぜ!…あ、えっちなのはダメだかんな!」
こっちみんな。
「それはわたしが許さないから大丈夫だよ」
「目が据わってるから。そんなこと頼まないから気にすんな」
こわい。あとこわい。
街まで案内があるのもありがたいが、それ以上に行動を共にすることでクマと修行しなくて済みそうなのがすごく大きい。アレを人目につかせるわけには行かないだろうからな…
「何考えてるか分かるけど、夜にみんなが寝たらやるよ。大丈夫周りから見えないように結界創ってあげるから」
どうやらクマとの修行は避けられないらしい。
クマからは逃れられない