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もふもふ

尻に敷かれています。

作者: 山目 広介

 ある冬の日の朝方。

 いつも寒くて布団に(くる)まっていたが、その朝は気付くとぬくぬくとしていた。

 目覚めると身体を横向きにして寝ている状態。

 頬が温かい。枕が温かいわけではない。上側だ。

 動こうと身動ぎするも、動けない。

 なんとなく予想は出来たが何故だかよく分からない。


 二度寝したい。

 右腕は体の下。左腕はきっちりとした布団で押さえられている。動かすとバランスが崩れそうだった。

 右腕の方がまだ良いと判断し、ごそごそとゆっくり体の下から抜け出させる。

 布団から腕を出し、顔の上の物に触れた。もふっ。

 毛並みの向き。やはり飼い猫の尻に敷かれている、物理的に。

 いつもは寝ている時にやってきた猫を起きて布団の中に入れてあげているのだが、眠かったから起きなかったのだろう。

 そして何故かそんな体勢で暖を取っていたようだ。

 不用意に動かすと後ろ脚の爪が首にあるので、猫が踏ん張った拍子に自分が怪我をする可能性もあるから困る。



 もふもふと揺り動かし、猫に自発的に起きて移動を促す。

 しかし、しがみついて動かない。

 起きれない。

 タップしても離れてくれない。放してくれない。

 そうこうしているうちに、また、睡魔が襲ってくる。

 ダメだ。このままでは遅刻してしまう。

 ぬくぬくしていると気持ち良くなって意識を保てない……。




 遅刻はしなかった。

 数時間も経ってしまったが電話で会社に体調不良と告げた。今まで欠勤しなかったことでうまく騙されてくれた。無遅刻は守られた。有休も溜まっていたので良いだろう。つまりずる休みだ。

 電話が手の届く範囲にあってよかった。

 誰も猫の尻に敷かれているために休んだとは思うまい。ふっふっふ。

 さて時間が出来たが移動できない。もう少し暖かくなれば猫は動いてくれるだろうか。

 お腹が空けば、移動してくれるだろうか。

 だがさすがに目が冴えたので退()いてもらわないと邪魔だ。

 猫の脇腹をもふもふする。嫌になれば退くだろう。

 あ、ゴロゴロ言い始めた。撫でているのではない。まったく。

 もう少し強く揺さぶることにする。

 お、動いた。痙攣したみたいに震えている。前足を出して伸びをしているようだ。

 ケツが浮いた。首に置いた後ろ足が圧力が増えて苦しいが、伸び動作の二段階目に突入だ。


 だが向きが変わっただけで、まだ頬の上に座る猫。手に頬擦りしてくる。

 それでも猫が起きたなら、気にせずに移動願おう。

 手で前足を持ち、顔の前へと誘導する。

 やっと移動した~。


 何故だ!

 猫がまたしても顔に乗って座る……。降ろしたら反転して乗っかったのだ。

 しつこい。

 早く移動すべきだった。

 もう一度だ。今度は腰を押す。

 しかしまたしても反転して手に頬擦り。

 再度両前足を掴んで顔の前に誘導。そのまま起き上がる。

 やっと起きれた。長かった。


 スリッパを履き、移動し猫に餌を与える。食べている間に顔を洗う。

 戻ると猫は足にすり寄ってから玄関へ行く。そして振り返ってこちらを睨む。

 近づくと、玄関のドアに後ろ足で立ち上がり、その状態で振り向く。

 しばらく見つめていると、な~と訴えるように鳴く猫。

 仕方がないので玄関を開ける自分。

 猫は隙間から顔を出し、周りを警戒してから出ていく。











 もはやその姿は手遅れの様相を呈す、誰が見ても猫の尻に敷かれている。

 物理的ではなく慣用句的に。

 知らぬは本人のみである。

 誰にもその姿を見られていないことが掬いだろうか。


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