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男子やめました  作者: 是々非々
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新学期に入り

投稿遅れてすみませんでした。プライベートの事情が厳しくなってきましたので更新頻度が下がるのが確定しましたが、のんびり更新しておこうと思っております。

 宿題という悪しき文化を片付け終わった時、私は窓越しに朝日を見た。私の今の心中を表しているような爽やかな朝焼けは、寝落ちという形で私の瞼に焼き付けられた。

 そして次に目覚めた時、慎ましい光をたたえていた太陽はその熱を増し、私が寝坊をしたのだと伝えていた。

 私は思わず悲鳴を上げたけど、時間は戻ってくれなかった。


 時計を何度見ても遅刻だった。今頃みんな始業式のために廊下を歩いてる頃だろうか。何となく得した気分でもある。私はもはや間に合うことを諦めて、清々しくそしてよく味わってパンをかじった。


「ソラ、初日遅刻とはやるわねえ」


 母さんはのんびり紅茶を啜りながら言った。「起きられないのは自分の落ち度だから遅刻して反省せよ」と、寝起きに厳しい教育方針を持つ母さんは遅刻していても起こしてくれない。


「やむをえないの」


「あんたいくつになってもそうね」


 なにせ宿題が終わっていなかったのだから。母さんは偉大にもそれを察していた。

 私はそれでも急いでパンを食べきると、いつもの制服に身を包んで家を出た。

 今日早速提出がある宿題くらいしか入っていないカバンをプラプラさせながら歩いていると、私はスマホに何やら通知が入っているのに気が付いた。はて、こんな朝から誰からだとさっさと開けば、青山が「遅いが何かあったのか?」と言ってきていた。


「何もないけど~、もうちょい早くに電話とかしてくれませんかね~」


 私はモーニングコールでもあれば遅刻せずに済んだのに、と適当なことを考えながら通学路を進んだ。遠くに学校のチャイムが鳴るのを聞き、私はいよいよ二限にすら遅れそうなのだと分かって、さっきまでののほほんとした気分をかなぐり捨てて学校に向けて全力で駆けだした。


 今日は二限まで授業があるらしい。始業式くらいさっさと帰らせてくれたらいいのにと思うけど、ホームルームくらいらしいので、まあいいかと夏休み前の私は思っていた。


「――それにも遅刻しかけてるんだけどねええええええ!!!!」


 私は誰にも聞かれない悲鳴を上げながら、私は昇降口に駆けこむべく息せき切って裏門へ回った。

 守衛さんに色々察された笑顔を向けられつつ敷地に入ると、窓越しに教室に入る生徒が見えた。そういえばあと数分で本鈴が鳴る時間だ。私は思わず「もーーーー!!」と誰に言ったでもない叫び声を上げてまた走った。


 髪が乱れていると分かりながらもそれにも構わず廊下を抜けて教室のドアを開けると、みんな席に着いていて、しかも葛城先生まで教壇に立っていた。


「……セーフ!」


「アウトですよ。さっさと席に着いて下さい」


「……はい」


 私はついつい高ぶって勢いで誤魔化そうとしたけど、全然そうもいかずに葛城先生は「席替え終わってますからね」と、私に新学期のお楽しみが終わったことを告げた。


「寝坊?」


 席替えの結果列の一番前に来たらしい由佳がからかってきた。私はそれに苦笑いを返した。


「へへ、寝坊しちゃった」


 宿題を終わらせるために。私がそう言うと、由佳は「へえ」と眉を上げた。


「めっずらしー。また後で話そ」


「ん」


 私はまだ黒板に残る座席表を横目に見つつも、唯一の空席に向かった。


「――お」


「……よう」


 以前は横に勝山がいて、一緒にグダグダ話していたが、今度はそうもいかないらしい。

 私の横には青山がいた。運よく私は一番後ろの席を確保したらしいが、それは青山もそうらしい。


「よろしくね、青山」


「……ん」


 青山はいつものように気取った風に言った。

 後でみんなに「めっちゃにやけてんよ」と言われたが、どうやら私はにやけるくらい喜んでるようだ。

 結構すました顔で返したと思っていたのに、表情筋は素直だった。


 一先ず私は乱れた息を整えて、下敷きで顔やうなじの熱気を払った。二限ではなにやら二学期の行事やら実力テストの日程やらが流されていたけど、私は適当に聞き流した。

 私は葛城先生のホームルームを無視して、帰れば何をしようかと画策した。そういえば、谷口の家に遊びに行ってからというもの宿題に追われてみんなに誘われても全部断ってきた。話したいことや聞きたいことが積もりに積もったうえで、それらを全部曖昧にするほど沢山溜まっていた宿題を片付けて、私は半分放心していたのだ。

 なにがあったかなーと思っていても考えがまとまらないので、私は集中しようと隣の青山の真似をしてみることにした。正座をして黙想なんて授業中に私はできる気がしないので、目を瞑るだけにした。


 周りの音がだんだん遠くなって、じーんと余計な考え事が消えていく。昨日間食でアイスを三つ平らげたとか、夏生からブラシを借りパクしていたとか、先日勉強前の大掃除で掘り出した往年の桃色雑誌だとかは全部忘れた。桃色雑誌は大切に保管している。


 これは集中できる気がする――そう思っていると、思考がだんだんと深くなっている気がする。これが深い集中かと自分をほめたたえているうちに、私は誰かに肩を揺すられていた。


「おい、志龍。起きろ、礼だ、礼」


「――んへ?」


 顔を上げると青山がいた。横から覗き込むようにする彼越しにみんなを見ると、結構な人数が笑っているようだ。


「志龍さん、寝不足なのは良いけど、遅刻して寝るなんて欠席扱いにしますよ~」


 葛城先生もニヤけ面で私の方を見ていた。私は集中のつもりですっかり寝コケていたようだ。


「すみません……」


 私、今日はなんだか調子が悪い気がする。

 結局、徹夜の後中途半端に寝ちゃだめだなーという教訓を得て終礼も終わった。なんだか学校に来た意味が分からなくなる一日だった。


「そーらっ!」


「っおわ!?」


 冴えない日だなあと私が荷物をまとめていると、由佳が後ろから飛び掛かってきた。私よりやや大きい彼女に飛びつかれ、私は猫背になって彼女を支えた。


「な、なに?」


 私がそう聞くと、由佳は「なにじゃないよー」と言った。


「お盆明けくらいからすっかりつれなくなってたでしょ?色々聞くって言ってたこと全然聞けてないし、今日の帰りに聞き出そうかと思ってさ」


「げー、色々っていうと……」


 私は青山の方をちらっと見た。青山は『月間盆栽』という雑誌を眺めていた。


「当たり前でしょ、むしろ空に関してはそれがメインよ」


 由佳はちょっと弾み気味の声で言った。腕に力が込められて、私は逃げられないんだなあとぼんやり考えた。


「……私に関しては?」


 そう聞くと、由佳は「あー。そこに食いついちゃいますか、ええ」と言った。値下げを宣言する直前の通販番組みたいな口調でそう言った由佳は、体をひねって私を違う方向に向けさせた。

 視線の先にはピースをする楓と、明後日の方向を向く皐月がいた。


「皐月にも色々聞かなきゃなんだよね~。確かな情報筋から、皐月がどういうわけか乙女をしてるらしいよ」


「なんと、皐月が?」


 私はびっくりして皐月を見たけど、皐月は明後日の方向に顔を向けて黒縁メガネを輝かすばかりだった。

 彼女は一体何があって乙女をするに至ったのか。何やら西出の気配を感じた私は、少しばかり下世話な勘繰りが猫のようにひょこりと顔を出したのを感じた。

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