青山仁の清算 後半
青山、予想の倍くらい情けなくなっちまって……。
一時間前に前半投稿してます。
俺――青山仁――は、元男である志龍空に、あろうことか恋をしてしまったらしい情けない男だ。
礼儀や優しさを重んじるあまり、一人の女性の気持ちを生半可な覚悟で受け入れ、そして一方通行であれど好きな相手に諫められてしまった男だ。ここに今からの話を記す。
俺は志龍に金言を賜った後の放課後、俺は自分の本心を打ち明けるために喫茶店に彼女と立ち寄った。
「話があります」
俺がそう伝えると、柊さんは「――……あ~、うん」と言った。思いのほか口調が固かったかもしれない。柊さんもどことなくぎこちなくなっていた。
「……今まで、俺は柊さんの告白を断ってきた理由を言ってなかったですね」
そう切り出すと、柊さんは不満そうに頷いた。なんでそんな話をするのか。そう言いたげだ。
「正直に言います。俺は、柊さんが苦手です。初めて会った時から、今も」
「なっ……!!」
柊さんは驚きからか目を丸くし、その形の良い眉を悲痛な形にゆがめた。だが、そんな顔をしたのは一瞬で、すぐさま表情の抜け落ちた顔になると、俺の目を静かに見返した。
「……そう。薄々怪しいとは思ってたけどね。色々言いたいことはあるけど、まず聞くわ。仁くん、ならどうしてあなたは私の告白を受けたのかしら?」
「……あの人数の前で振る勇気が、俺にはありませんでした」
「他にはないの?」
「……もし振ったら、可哀そうだと……思いました」
改めて口にすれば、これは何とひどい話だろうか。よくもまあこんなことができたと思える。
柊さんは「なるほどね」と、静かに呟いた。
「ふぅん。私、そんな気持ちで告白オーケーされてたんだ?結構惚れてもらおうと頑張ってたのにな?」
「すみません。俺の勝手な考えで」
俺は柊さんに頭を下げた。面目が立たない、とはこういうことを言うのだろう。正面切って柊さんと応対するのが恥ずかしい。
「まだ話はあるんだから、顔見せてよ。……で、じゃあなんで今まで言ってくれなかったの?私、嫌われてはないって思ってたんだけど。話だって聞いてくれたしね」
俺は刺すような彼女の言葉に従い、顔を向けた。先ほどと変わらない表情ながらも、刺すような視線をこちらに寄こす柊さんは、俺に再び質問した。
「……直接苦手と言う勇気がありませんでした。傷つくだろうなと」
俺がそう言うと、柊さんは鼻で笑った。
「へぇ、苦手な女にもいい顔しようってこと?」
「そんなことは……!」
「そうだね、これは私も言い過ぎたよ。断られてるのに言い寄ったのは私だもんね」
ごめんね、とあっさり謝る彼女に、俺は何も言えなかった。謝るのは俺の方だ。
「そういうつもりだったなら仕方ないかもだけど、なんで今日はこんなこと話す気になったの?やましいこと打ち明けて改めて告白、ってわけでもないんでしょ?」
柊さんは頬杖を突きながら言った。呆れるような顔は、もうすでに昨日までのような甘えは無い。
「……友達に、お前は本気になれるのか、と言われました。俺、柊さんの気持ちに本気で向き合えません。俺の身勝手で振り回してごめんなさい、わか――」
そこまで言って、俺は柊さんの人差し指に言葉を防がれた。「しーっ」というジェスチャーをした柊さんはニヤッと俺を見て笑った。
「残念、私が振られるなんてもう金輪際あり得ないから。こっちからお断りよ、意気地無し男。しばらく乙女心ってもんを考えながら引きこもってたらどうかしら?」
そう言って、柊さんは店を出た。「最後くらい、私に貢いで帰んなさい」なんて挑発的なことを言いつつ渡された伝票に、文句を言うことはできなかった。
「――乙女心、ね」
俺の好きな人はそんなもの持ち合わせているのだろうか?
最近ますます女子っぽくなっている志龍の顔を思い出し、現実を見ろと頭を振った。
まさか、こんな醜態晒しといてそんな気にはなれなかった。
それにきっとあいつからすれば、男とくっつくのは忌避感があるに違いない。かつて男だったころ、万場の「桃色生活啓蒙活動」とやらに所属していた彼女は、きっと異性を好む体質だろうからだ。
ともあれ、彼女の言葉のおかげで窮地は乗り切った。二度とこのようなことにはならないよう、肝に銘じることを誓った日となった。
次からは主人公パートです。
ところでTSものの王道は幼馴染との恋でしたね……忘れてました。




