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男子やめました  作者: 是々非々
31/101

好きの種類

総合評価が見間違いでなければ1000ptを超えてまして、手が震えてました。

誤字脱字してるかもしれないので教えてください。

「んで、話って何さ?」


「……おう」


 体育祭予行はつつがなく終了した。本番の流れに沿って動き、問題が無いか確認するだけなので、むしろ何かある方がいけないのである。

 思っていた通り手早く終了し、昼の二時頃にはオレたちは帰路に着いた。

 今日は由佳と二人で帰っている。


「あ、もしかして結構シリアスな感じ?」


「うーん、オレ的には大問題だな」


「なんと。じゃあどっかお店入ろうよ。……あの店とこの店のどっちのがいいと思う?」


「近い方で」


 優柔不断な由佳のために、オレはさっさと店を選んだ。彼女と出かければ、少なくとも合計で一時間は悩む時間に費やされる。


 お互い注文を済ませて席に着く。頼んだアイスココアが舌に優しい。

 昼下がりだけあって人も少なく、オレは気兼ねなく由佳に話ができそうだった。


「……楓とかにも相談したりはしたんだけどさ。オレ、男を好きになるってどういうことなのか聞いてみたんだよ」


 そう言えば、由佳は目をぱちくりさせた。


「男の子を?」


「うん。ちょっと前から悩んでてさ」


 オレは包み隠さず勝山に言われたことや、楓と久遠さんに聞いた「好き」という感情を説明した。

 由佳は腕を組んで唸り声を上げた。


 「むしろ、男の子が女の子を好きになるってどういうものなの?」


 「男が?……うーん、なんだろうな」


 男の時はたいそう卑屈な恋愛観を持っていたオレは、どういう恋をしていたろうか。

 オレは泣く泣く由佳への淡い想いを思い返していた。


 「……可愛いなとか、一緒にいたいとか、独占欲とかかな……」


 オレは割と由佳に熱を上げていたのではないだろうか。今となってはそんな目で見れないが、確かにそう思っていた節はあるはずだ。


 「なんか女子と大して変わんないね……私も好きな相手にはそんな感じのことを思ってたよ」


 「……そうかもな」


 それと受け入れるとはまた別問題だが。

 しかし、畢竟恋とは何なのだろうか。一緒にいたいという欲なのだろうか。

 オレは青山にそういう想いを抱いているのだろうか。

 否、否。オレにも矜恃というものがある。やはりそういう想いを抱くのは吝かである。


 「ねえ、私の好きな人って誰だったと思う?」


 ふと、由佳はそう言った。


 「え、いや、分からんけど……なんで?」


 「んー、ほら、空が好きだの何だのって言うの珍しいじゃん。こういう時に白状しとこうかなって」


 そう言って彼女は、自分のホイップクリームまみれのカフェオレを口にした。


 「うぅん、今は好きでも無いんだろ?誰だろ、最近由佳と仲違いしたやつ……え、万場?」


 そう言うと、由佳はびっくりしてむせた。気道に入ったカフェオレに咳き込みつつ、身振り手振りで否定した。


 「んなわけ!あいつは入学して一週間で振ったってば!」


 「い、一週間か、そうか……」


 やつも恋多き男なことだ。


 「……んー、ヒントはね、最近いなくなっちゃった人だよ」


 「いなくなった?」


 と言うと、近所にいた彼が引っ越したのだろうか?残念ながら、惰弱な情報網しか持たないオレは、他のクラスの転校した生徒のことまで知らなかった。況や、我がクラスに欠員は無い。

 ――男が、いなくなった?


 「……え、オレ?」


 「そうだね。空だね」


 「ええぇぇぇえ!?!?」


 声を抑えてはいるが、オレは衝撃のあまり中腰になった。

 これを驚愕と言わずして何と言おうか、かつて淡い想いを抱いていた相手と、まさか相思の仲であったのだ。


 「びっくりした?私もびっくりしたんだけどね」


 「いや……驚くわ。でもまあ、今はそうでもないんだろ?」


 なにせ彼女には振られたからな。

 今現在オレたちは、お互いに友情を感じている間柄であり、この由佳のぶっちゃけ話も冷静に受け止められた。

 思い出話みないなものだ。


 「うん。空は志龍くんだけど、なんか急に冷めちゃったわ」


 「なんか傷付くなあ。あれか、オレの見てくれが良かったのか」


 そう問えば、彼女はかぶりを振って否定した。


 「ううん。人柄とか、仕草とかで気になったんだけどさ。空が女の子になってから、その辺は変わんないのに、なんかそういう気持ちになれなくてね。話しかけた時は、そういう気持ちもあったんだけど、それよりも仲良くなりたくなっちゃってね」


 「そうなんだ……」


 やはり、多くの人は性別の垣根を越えるのは難しい。それは由佳であっても、オレであっても当てはまる。


 「いやあごめんね、空のことで相談に来たのに、私の話までしちゃってさ」


 「いや、いいよ。これで男のオレも浮かばれる」


 「あは、まだ生きてるでしょ」


 クスクス笑い合い、お互い飲み物に口をつける。

 それにしたって、本当に良かった。男の時の恋は叶わなかったが、こうして好きだった人と一緒にいられるのは良い事だと思う。

 彼女にはもう友達としての気持ちしか抱けていないが、それでもオレは満足だった。


 「で、話戻すけど、男の子を好きになるのが気になるのって、もしかしなくても青山君のことよね?」


 「ぐ……まあ、うん。勝山にああ言われたら、どうなのかなって思って」


 いつも相談しているのは青山だが、今回ばかりは聞くわけにはいかない。

 「オレ、お前と話してる時お前のこと好きそう?」とか、どんな女だ。好きだったらどうするつもりだというのか。


 「まあクラスでも話題だしね。空がメスの顔してるって」


 「女子って案外あけすけに言うよな。男子より抵抗薄そうだわ、もう」


 純情かつ恋愛ハードルをむやみに上げすぎた男なら、好きな人のこういう物言いで百年の恋も冷ますだろう。


 「いやさぁ、だってギャップもあるしね。女の子になってから表情豊かになったかと思えば、スゴい楽しそうな顔するんだもん、青山君に。今は『真実の愛のために身体が変わった』とか、『キマシタワー』とか言われてんね」


 「え、なに、みんなそういうのに理解的なわけ?」


 オレ以外、みんな恋に寛容すぎではないだろうか。もしかすれば、皐月が色々と広めているのかもしれない。何人かの女子に文庫本を渡しているのが目撃されている。遠目から見てもピンクと肌色が目立つ本であった。


 「もう女の子の空に慣れちゃってさ〜、なんか、恋とかしてても普通より萌えるかもってみんな言い始めてんよ」


 オレの取り巻く環境はいったいどういう魔窟なのか。

 生まれてこの方長いものに巻かれる性分のオレは、その空気感に毒されているのではないだろうか。


 「私はさ、空が女の子に変わって、恋愛対象じゃなくなったけど、空は女の子に変わって私に恋してるの?」


 してないんでしょ?とでも言いたげに由佳は言った。その顔は不満げではなく、むしろいたずらに笑っている。


 「……してないよ。友達にしか見てないよ」


 「でっしょ〜?じゃーさ、恋愛対象が変わっててもおかしくないよねえ?」


 「……考えとく」


 「お好きに。でも、悩んでばっかだとずっとこのまんまだよ。ちゃちゃっと行動したほーが楽かもね〜」


 優柔不断の由佳が何を言うか。「注文に10分もかける優柔不断のくせに」と言えば、由佳は「これはいいの!」と断じた。

 いいものかと思いながら、オレたちは明日の体育祭の話題で盛り上がった。


 ーーー


 帰宅後、オレは自室で少し大きめの足音が近寄ってくるのを感じていた。

 この質量は父さんほど重くなく、また母さんよりは重い。


 「やっほーお姉ちゃん!悩んでるー?」


 「ないから大丈夫」


 オレの部屋の戸を開け放ちながら夏生は言った。タンクトップに短パンという色気の欠けらも無い格好にお姉ちゃんは心配になる。


 「またまたあ、最近元気無いじゃん。まーた変なことで悩んでんでしょ」


 夏生はベッドに腰掛けるオレに寄りながら、指先で頬をつついてきた。


 「やめい。悩んでるというか分からんだけだ。いくら考えても分からない」


 もはや青山をどう思っているかという疑問はその鋭利さを増し、好きという感情が恋愛と友情に分岐する理由は何なのか、精神的性別は存在するのかという哲学的問に発展している。

 高一が答えをだせるものじゃない。今は悩んでるフリをしてボーッとしているところだ。


 「らしくなっ!女の子になってからお姉ちゃん女々しすぎない!?何回言わせるのさ、よく分からないことで突っ走る方が似合うって」


 「うるさいな!思春期故だ、放っとけ!」


 「へっへっへ、思春期の悩みとか大好物だけど聞いたげよっか?」


 夏生は手の甲で口元を拭うフリをした。


 「いーや、もう充分だ。さっさと寝ないと、明日も朝練だろ?」


 彼女の中学のバレー部は強豪校らしく、夏生はそこでレギュラーを勝ち取らんと練習に励んでいる。すくすく背を伸ばしており、恐らく高校生になる頃には男の時のオレすら抜いているだろう。


 「んー残念。じゃーねーお姉ちゃん、おやすみ〜」


 「ん。おやすみ」


 夏生は意外にも大人しく去って行った。今日はテンションの大人しい日であるらしい。

 しかし、「突っ走る方が似合う」と言われては、それに応えないわけにはいかない。

 夏生の兄はひたむきな女である。目立たないことを良しとする割に、思い切りの良さを尊ぶ肝っ玉女子とは、オレのことだ。男の時のポリシーを、オレはいい加減貫くことに決めた。

男か女か分からないようにしてたのに、女の子っぽいと言われて戸惑う主人公ですが、踏ん切りをつけるのはいつだって妹の為なのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 》もはや青山をどう思っているかという疑問はその鋭利さを増し、好きという感情が恋愛と友情に分岐する理由は何なのか、精神的性別は存在するのかという哲学的問に発展している。 ん~上手く言えないん…
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