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男子やめました  作者: 是々非々
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詮索とお呼ばれ

月間78位ありがとうございます。

現実感無くて静かなテンションです。

 青山との関係は友達だ。いや、もしかするとそれにも及ばないかもしれない。

 元はと言えばただのクラスメイト。女子になってからは相談役としてオレが利用していたにすぎない。

 この負い目さえなければ友達と喧伝することに躊躇いは無かっただろうが、どうにも都合よく甘えていただけに過ぎないような気持ちの燻ぶりがある。

 なので、楓や由佳からの「青山君と付き合いだしたの!?早くない!?」という追及には「NO」を返そう。友達にすらなれていないのだ。少なくともオレの主観では。


「――てか、オレ元男だし、男子のこと好きになるとかないだろ。オレにBL趣味は無い」


 これで一刀両断である。そう言えば、二人ともつまらなさそうな顔をした。


「ちぇー、つまんないの。でもそういう割には変なとこ触らせてたじゃん?男の子同士でニオイとか嗅がれるのは嫌なのに、あんなとこ触られるのはいいんだ?」


 由佳はまるで楓のようないたずらな笑みを浮かべ、楓は「青山君も男と思って空のことさわってたのかな?」などと煽った。


「……そ、それはぁ、まあ、友達?みたいなもんだし」


「なんで自信ないのよ、そこ」


 楓が呆れたように言う。


「し、仕方ないだろ……だって――」


「――あの、ちょっといい?」


「え?」


 青山が友達かどうか自信がない。そう言おうとした矢先に、オレは聞きなれない声に呼び止められた。

 声の方を向けば、いつだったかオレのことをタイの寺で修業を積んだニューハーフ説を掴まされてきた久遠麗子さんが立っていた。ちなみに今は休憩時間である。


「志龍さんだったわよね、元男の」


「はい、まあ」


 久遠さんは人気者である。現学園のアイドル柊先輩が卒業した暁には、大玉狙いの不埒者を独占するのは彼女だと言われている。万場から聞いた。

 そんな彼女が休憩時間に、他クラスの生徒に話しかけているものだから、野次馬根性の座った連中などは窓やら周りからやら聞き耳を立てており、一時期噂になった元男の「ハズレ」女子たるオレを物珍しそうに眺める。普段はそうでもないが、やはり思い出したように好奇の目に晒されることはよくある。病気で変化したことなどはすでに出回っているので、あからさまな嫌悪などは向かないが。

 しかし、なんでまた久遠さんは話しかけてきたのだろうか。オレには何かしたような身に覚えがなく首を傾げた。


「……前に、また話そうって言ったわよね」


「あぁ、そういえば」


 ニューハーフ取違い事件の別れ際にそんなこともあった気がする。あれから色々あったため、すっかり忘れていた。


「そういえばって……まあいいわ、放課後空いてる?」


 少し機嫌の悪そうな表情になった久遠さんに予定を尋ねられた。時間を持て余すあまり、最近母さんに薦められた手芸の幅が広がったオレとしては、空いていない放課後など無い。要するに暇人である。


「空いてますよ。話でもあるんですか?」


「え、えぇそうよ。あなたのことを見込んで話があるわ」


「はぁ、オレを」


 一向に要領を得ないが、あまりの真剣な雰囲気に飲まれ、オレは放課後に学校近くのファミレスによることを約束したのだった。

 由佳と楓は「変なことされそうならさっさと逃げるのよ」と言っていたが、オレを見込んでとはどういうことなのだろうか。楓と勝山がデートついでについて来てくれるらしく、オレは気楽に考えた。


 ーーー


「志龍さん~これから暇?」


 放課後になり、後藤さんが控えめに話しかけてきた。最近では珍しい話ではない。彼女は所属する美術部の活動がない日やサボる日などはオレと一緒に帰って、男子に慣れようと画策する。


「あ~、今日は無理。なんか久遠さんに呼ばれちゃってさ」


 そういうと、後藤さんは目を丸くした。


「久遠さんって、三組の?そういえばニューハーフって思われたりしてたね」


「そうそう、その久遠さん。なんかオレを見込んでの話だって」


 そう言うと、後藤さんは何かに思い至ったようで、「あぁ」と声を上げた。


「心当たりでも?」


「心当たりっていうか、勘なんだけどね。元男の志龍さんに、男子のこと聞きたいんじゃないかな。私が男の人のこと聞いてるみたいに」


 そう言われれば、あの真剣な眼差しにも納得できる気がした。

 しかし、学年の人気者久遠麗子が気になる相手とは、いったい何者なのだろうか。柊先輩に見初められた青山のことが頭に浮かんだが、あいつは独身好きだからなとすぐさま取り消した。


 ーーー


 学校近くを通る国道に面したファミレスにて、オレと久遠さんは落ち合った。

 久遠さんはたいそう急いできたらしく、呑気に歩いてきたオレを肩で息をしながら出迎えた。一緒にファミレスに入り、簡単につまめるポテトとドリンクバーを注文した。取ってきたジュースでのどを潤し、久遠さんの息が整ってポテトが運び込まれれば、ようやく彼女は第一声を発した。


「――し、志龍さんは、菊池君のこと知ってるっ!?」


「菊池?というと、うちのクラスの?」


 そう言えば、久遠さんはこくこくと頷いた。紅潮した顔で。

 どうやら、久遠さんが知りたいのは青山ではなく、我がクラスの爽やかサッカー部菊池蘭丸のようだった。それを聞いて初めて、久遠さんに協力してもいい気が起こったのだが、その原因は気にはならなかった。

 オレの質問に、久遠さんはまたも頷く。頭を振りすぎて壊れた赤べこのようになっているが、かの美女がそうなればひどく愛らしかった。


「そ、そうっ!で、どうなの、知り合い?」


「そりゃまあ、人並みには話しますけど」


 あの爽やか君は割と話す男子の一人だ。たいてい万場を伴ってだが、うまく手綱を引いてくれているので気にならない。フレンドリーなやつなので、男の時から関係は持っていた。

 そう言えば、久遠さんは安心したように顔をほころばせた。


「……よかった。ねえ、今日ここで話すこと、秘密にできるって約束できる?」


「えぇ、いいですよ。これとかも奢ってくれますし」


 事前に「今日の支払いは私がする」と言われていたので、ポテトと引き換えに守秘義務を負うことを承諾した。久遠さんはそれを聞くと確かめるように頷き、改まった顔をした。


「――気づいてるかもだけど、私、菊池君が好きなの。でも、友達とかに相談しても、クラスが違うし、男の子に相談するのは無理でしょう?それに、男の子の意見も聞きたいし……話だけでも聞いてくれない?」


 俯き気味で上目遣いになりながら久遠さんは言った。

 既に油と芋とジュースで絡めとられたオレは、特に気負うことなく頷いた。


「私、結構モテるの。今でも三日に一回くらいはどこで手に入れたか分からないけど、スマホにメールでラブレターが来たり、靴箱に入ってたり、急に廊下とかで告白されたりするの」


「そういう話は聞きますね」


 割と有名な話である。道端の石ころ共が苔むす巌にならんと、玉のような久遠さんに挑むその様子は一種の劇と化しており、そのフィナーレは久遠さんの「ごめんなさい」で決まる。

 まあ分かってはいることだが、久遠さんはそれがひどく嫌らしい。げんなりした顔をしながら語っていた。


「まぁ、それは無視してたら慣れちゃったからいいんだけど、それよりも問題があるの」


「ほほう、それはなんでしょう?」


 やはり男心が分からないとかだろうか。男の時に万場の「桃色生活啓蒙活動」に菊池らと共に入信し、勝山らリア充にご高説を賜ってきたオレならば、彼の好みなどすぐに明かすことが出来よう。

 ちなみに参加は強制だ。というより、ボーっとしてたら席の近くでそれが執り行われ、あれよあれよと巻き込まれたに過ぎない。あれのおかげで話せる人が増えたのはありがたいが。

 しかし、久遠さんの持つ悩みとはオレの感覚には推し量れないものがあった。


「――菊池君が、告白してこないの」


「はぁ?」


 久遠麗子十六歳、幼いころから男子らの羨望を一身に受けてきた彼女は、自ら相手を求めることなどしない亀のような恋愛観をお持ちのようだった。


「もう30人は告白してきてるし、ラブレターは数えきれないし、なのに、菊池君からはなんの反応もないの。あった時は笑いかけたり、部活中の菊池君を見たりしてるのに」


「え、えぇと……それはなんというか……」


 元男のオレでなくても良さそうな気すらしてくる。

 普段は自由奔放にふるまう彼女が時折見せる笑顔は非常に珍しいと、桃色生活啓蒙活動においても重く扱われ、最近サッカー部では久遠さんが誰かを狙っている!と、部員のやる気が向上しているらしい。そう語ったのは他でもない菊池だったが、彼は「久遠さんみたいな人が惚れるって誰なんだろうな」と、気にする素振りは無かった。


「……私どうしていいか分かんないの。男の子って、私にどうされたら告白してくれるの?」


 読者諸賢、鼻で笑い飛ばすことなかれ。久遠麗子とはこういう生き物である。

 彼女が右と言って右にならないことなど無ければ、例え左であっても、彼女の周りでは右になる。超甘やかされ体質のご令嬢なのだ。これは金を掴ませているとか、コネ狙いの下衆な関係とかそういうものではない。これは有名な話らしいのだが、久遠さんという女の子は愛され体質なのだ。少し抜けた側面や、まるで西洋人形のような整った顔立ち、きっぱりとした性格が、周りの人間にいい影響を与えるのだと、久遠さんと同じクラスの男子が万場と話していた。


 そしてオレは、そんな彼女の思い悩む姿に絆された間抜けが一人である。

 真剣に悩んでいる様子の彼女だが、この様子なら菊池という大魚の周りにいる雑魚しか釣れないに違いない。大魚を釣り上げんとするならば、大魚からすれば少しくらい露骨な様子でなければ食いつこうとは思わないのだ。


「良いですか、久遠さん」


「……何かあるの、名案?」


 最初から名案を強請る彼女は言うまでもなくわがままだ。しかし、彼女は名案も駄案も関係ない位置で地団太を踏んでいる。


「――そのやり方、はっきり言って久遠さんの想いは欠片も菊池に伝わってません」


「…………ええぇぇぇえええええええ!!!?」


 ファミレス中を、久遠さんの悲鳴が鳴り渡った。

菊池君のこと覚えてますかね?


追記:後藤さんの発言を後の展開に合わせて変更しました。

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