感謝と悩みと
前回でようやく僕の中で踏ん切りがついたので、次回からドがつくほど恋愛に傾こうと思います。
後藤さんと連れだって教室に帰ったのは、結局二時間目前の休み時間になってからだった。
出ていった時の一触即発の雰囲気から一転、仲睦まじく二人並んで帰ってきたものだから、クラスはしばらく混乱した。そして、オレの男子では無い発言によって「志龍は女かオカマか」論争が勃発し、見事オレは民意のもとで女となった。案外それらしい仕草があるらしい。この姿でしているからだろうなと、オレは手入れが少し甘くなり、まとまりの薄くなった毛先をいじくりながらぼやっと考えていた。
ぼうっとしているうちに、オレの思考は「分からない」ことにした決意を後押ししてくれた、青山とのお悩み相談に行き着いた。オレが曲がりなりにも前に進めたのは青山が話を聞いてくれたからであり、そのことに恩を感じているのである。
オレは感謝を伝えねばといきり立った。心の中で。今か今かと四時間目終了のチャイムが鳴るのを待ち構え、長ったらしい板書をかいつまみながら写していく。ノートは読めればよい。
昼休みに入ると同時に、オレはお弁当を片手に青山の前の席に移動した。この席の男子は食堂で人気のある食券を確保せんと駆け出していない。ありがたく間借りするとする。
オレが前に陣取り青山を見れば、青山は「飯か?」と呟く。これはいつもの流れだ。オレは愚痴を零すために、しばしば彼の席を訪れては昼食を共にする。その際彼の机の前半分を占領するのもいつものことで、青山は自らの大きな弁当箱を手前に寄せた。
オレは「ありがと」と礼を言い、青山のものと比べてささやかなお弁当箱を開けた。
「で、今日はなんだ?」
青山は決してオレの相談の中身を探るような真似はしない。いや、単に興味が無いだけであるというのが有力だが、おかげでこちらとしても気兼ねなく話すことができる。彼との相談は会話のキャッチボールというより、オレがリフティングしているのを見守るコーチといった様相を呈す。
「今日は青山にお礼を言いに来たんだ。中途半端って思われるかもしれないけど、こうして踏ん切りがついたのは青山のおかげだからさ。ありがと、色々聞いてもらって」
本当に感謝しているからか、意識せずとも笑みがこぼれた。青山はまるで古岩に生す苔のように表情を変えない。ただ「大したことはしてない」と言うあたり、謙虚な謝意の受け取りはしてもらえたようだ。
会話はそれほどにし、オレたちは昼食を摂る。
普段は大人しい青山は、飯を食う時はそれはもう大口を開けてがつがつと貪るので、そのような食い方はもはや出来ないくらいの小さな口になったオレは、その様子を眺める。大抵はそのせいでオレの方が食べ終わるのが遅いのだが、青山は食い終わっても特に移動するでもなくこちらをボーッと眺める。
妙な相互関係だと思うが、これに慣れたのだからしようがない。
「あのさ、実は、後藤さん問題が解決して新しい悩みができたんだよ」
「そうか。どんな悩みだ?」
これは悩みというにはあまりに小さなものだが、相談することに慣れたオレは、特に悩むでもなく切り出した。
「――人に恋をしたら、男か女かハッキリすると思う?」
「――……俺はまともに恋人がいたことがないから、分からんな」
恋されること多き男青山は、未だ恋知らぬ男であった。
今後ともよろしくお願いします!
TSした流れですぐさま恋愛に行くのは納得しがたく、このような形になりましたが、お付き合いありがとうございます。




