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男子やめました  作者: 是々非々
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お前……違うな 

空の噂話ですが、「元男の女子」に定着させただけですので状況は変わってません。

 オレが女子になって初めて迎える金曜日。これだけ過ごしてくれば、何となく今のオレの扱いも固定されてくる。

 男子からは「元男の曰く付き女子」「女になっちゃったけど元は志龍」の二通り。

 女子からは「元男だけど無害な女の子(仮)」「中身男子の警戒人物」の二通りがある。

 そんな中、唯一態度の変わらない猛者がいるのだ。

 彼の名前は青山(あおやま)(ひとし)。男子のオレとはまた別の方向で物静かな男だった。


 青山は剣道部だ。その腕前は県下でも指折りとのことだが、それ以上に人目を寄せ付ける特徴がある。彼自身は線が細めながらも目つきの悪いダウナー系男子であるのだが、何より彼を有名にしているのはその抜きんでて個性的な行動だった。

 剣道部といえば集中のために正座を行っているが、彼はどれだけ集中したいかは分からないがどこに座るにしても正座をし、気づけば目を伏せているのだ。全校朝礼でそれをしだした時はクラス全員で止めた。なぜかは知らないが盆栽を愛し、苔に愛されることを望んでいるという。

 そして彼はそのミステリアスさと冷酷な印象を与える見た目から人気を集めている。噂では、中学時代は女子たちのバレンタインチョコを独占し、中学バレンタイン市場が需要過多になったという。

 そんな彼は同じクラスながら、ほぼ話してこなかった。しかし、オレが男子からいじられる中で、彼は全く動じていないようだったのだ。

 オレが声をかけると、以前は「……あぁ、志龍か。なんだ?」と返してきた。そして今は「……あぁ、志龍か。なんだ?」と返してくるのである。表情が分かるとか、女になってどうかなどという質問が一切飛んでこない。

 オレは手持ち無沙汰になるたび青山と話していた。


「――へええ、青山はさすがだねえ」


「だよなあ、全く動じてないんだよな」


 由佳さんも感心した様子だ。紬さんも同じくである。


「ま、あいつ変人だしね。噂じゃ二年のマドンナ先輩も振ったらしいし、空ちゃんも気を付けなよ」


「いや、俺それしたらホモじゃねえかよ。てか、マドンナって柊先輩?すげえなあいつ」


 二年の柊先輩といえば、まさに絵に描いた美女と評されるお方だ。彼女を見た男子は誰しもが自分は不釣り合いだと身をかがめ、我こそはという不埒物には「お断り」という冷や水が浴びせられるという。されど従順な男子には施しを与え、彼女手ずから購入したラムネが配給される。

 そんな彼女に魅入られるとは、男冥利に尽きるだろうに……。確かに青山仁は変人であった。


「まあ、それはそれとしてさあ。どうすんの?放課後どこいくのさ」


「あー、んー。空ちゃんはどうする?」


「いや、俺は合わせるよ。どこがいいとか分からないし」


 さて、変人青山の話は置いておこう。彼はいい話し相手であればいい。

 今オレは、由佳さんと紬さんと三人で放課後に買い物に行く話になっていた。月曜日に皐月さんと楓さんが買い物についてきたのが不公平だとおっしゃった二人は、揃って部活が休みだという金曜日にオレを交えてどこかに行きたいと言ったのだ。


「ま、どうせなら色々見たいし駅前のモールでいい?」


「色々あるしそれでいっか。空ちゃんもいい?」


「あぁうん、俺も近いうちに消しゴム買いたかったから」


「じゃあ決まりで」


 話し終えた後になって、学校帰りに三人で買い物とか女子高生っぽいことをしているなと思い、オレはこれでいいのかと自問する羽目になった。楽しみなことには違いないのだが。


 今日も今日とて一日をやり過ごし、オレは由佳さんと紬さんらと駅方面に向かった。その駅はこのあたりの地域のターミナル駅で、以前行ったところほどではないがショッピングモールが併設されている。学生も数多く寄り道するたまり場のようなところだ。


「さぁて、とりあえずどうしますかね」


 紬さんは張り切ったように肩をまわした。そんな姿も小さく可愛げがあるので、オレと由佳さんは生温かく見守った。


「……な、なんだよ。空ちゃんは文房具見たいんじゃないの?」


「そうだな。じゃ、とりあえず見に行ってもいい?」


「いーよー。私もシャー芯補充しとこ」


「あ、じゃあ私も」


 というわけで、オレたちは文房具店に向かった。このモールにある文房具店はどちらかといえば画材屋とでも呼ぶべき品ぞろえをしており、女子受けを狙っているのか小物まで置いてある。学校で使う道具は大抵ここで揃い、また種類も豊富で学生が時間をつぶすのにはもってこいの店とのことだ。

 以上のことは由佳さんの受け売りである。オレの文房具は全て百均で賄われている。なので、この品ぞろえには素直に感銘を受けた。

 シャーペンコーナーだけで棚一つあるのである。


「あー、これかわいいな。シャーペンも新調しよっかなあ」


「由佳、それ前も言ってたじゃん。結局買わないんだから悩んでも無駄」


「いいじゃん。悩むならタダだよ」


「悩むだけなのがタチ悪いんじゃん……」


 紬さんと由佳さんが話している。

 ふむ。オレは女子の価値観が分からないので話に混ざれないが、どうやらあのシャーペンは可愛いらしい。あと、由佳さんは優柔不断で紬さんはサバサバしているようだ。

 しかしかわいいか……その感覚は永遠の謎になりそうだった。あのシャーペンを見ても、どうにも可愛いとは思えない。


「あ、空ちゃんそれ買うの?それもいいよね、かわいい」


「へ?あぁ、グリップが柔らかくていいなぁって」


 由佳さんはオレがせっかくなので買おうかと悩んだペンを見て言った。グリップも固い味気ないペンばかりだったのだが、最近指が痛い気がして欲しくなったのだ。


「……これ、かわいいか?」


 なんだかかわいくなくて買わないか迷っているみたいに聞こえるが、真面目に可愛いとは何なのだろうか。由佳さんは「かわいいってことだね」と言って謎を深めたが、紬さんは訳知り顔だ。


「あぁ、別に女子はかわいいから物を買うってわけじゃないよ。良いものだと思うからかわいいって言うんだよ」


「……感動詞なのか」


「まあ、人によるけど。古文の「をかし」くらいの感覚かな、私は。いいじゃーんって感じ?」

「あっ、私も私も」


 どうやら雰囲気で使っているだけらしい。そう何度もかわいいと連呼する経験は男子では無いので、オレは難しい顔をした。


「一つ賢くなったよ……使わないだろうけど」


「ふふ、まあそうだろうね。あ、私ノートもみたいんだけど、二人は?」


 由佳さんがそう言った。


「あ、私も切れそうだったんだよな。空ちゃんは?」


「あー、俺はいいかな。別のとこ見てくるから、レジで会おう」


「おけー了解。じゃ、また後でね」


 そう言って二人と別れると、オレは店内をふらふら物色した。

 マジックぺン一つとっても色々あるものだと感銘を受けていると、女性向けの小物売り場に迷い込んだ。


「あ……まあ、暇だし行ってみるか」


 今オレは女子高生だし、変な目で見られることもないだろう。

 棚の間を所在なく彷徨っていると、動物系のシリーズの場所に出くわした。

 オレは性別などは関係なく動物は好きだ。家猫に憧れて野良猫を拉致し、顔に三本線を引かれたのはいい思い出である。いやしかし、こういうなかなか男では人目を気にして入れないようなところに居座れるのは女子の強みかもしれない。


「――……あれ?」


「……あぁ、奇遇だな、志龍」


 しかしながら非常に女々しいこの場所において、青山と出くわすのはどういうことなのか。彼女へのプレゼントか?しかし彼女がいるなら噂されていてもいいはずだ。

 オレはしばらく考え込み、青山を見つめるばかりだった。

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