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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第4章 夏期休暇編
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12話 深き眠り1

 夜九時前、そんな夜中に一組の男女が人っ子一人いない道を黙々と歩いていた。


 暗い夜道を不満そうな顔で歩くメルラン。

 こんな暗い夜に一人で帰るのは危険だとマルクトに言われ、その結果カトウと一緒に帰るはめになったのだ。


 夜道には一定距離に街灯があり、まだ九時前のこの時間帯でも街道は結構明るい。しかし、二人はその明るい街道を避け、この人通りの少ないうえ、灯りもまったく無い道を選んだ。

 何故そうしたかというと、周りから奇異の目で見られるのが嫌だったからだ。


 二人ともこの王都では結構名が知れ渡っている。

 魔導学園の高等部で教職につける者は、最低でも薄紫の実力を持っていなければならなかった。

 他にも、生徒より魔法ランクが上であること、軍務に所属していないこと、そして犯罪を犯したことのないものと様々な制約がある。

 それらの条件を全てクリアした者だけが高等部の教職に就くことが可能なのだ。

 そして、そんな素晴らしい人材は世間にも広く知れ渡っている。

 昨年断トツの成績で卒業したメルラン、四大竜王の一角、灼熱竜を討伐した四人パーティーの一人カトウ。とこのような実績を、学園では公表している。


 そのため、「二人で夜道を仲良く歩いていた」なんて国民が喜びそうなネタを堂々と与えないために、こうして人通りの少ない道を選んでいたのだ。

 ましてや、カトウは所帯持ちだ。不倫だの浮気だの言われてはたまらない。例え、一緒に帰っていただけなんて言っても信じてくれる者の方が少ないだろう。

 

         ◆ ◆ ◆


 暗い夜道をそういう考えをもって歩いている彼女は一つの違和感を覚えた。

 先程からカトウがまったく話さないのだ。


 先程からメルランが声をかけても「ああ」としか返してこない。

 最初の方は、わりと話しかけてきていた筈なのに、今では黙ったままだ。おそらく三十分くらい前からまったく喋らなくなっていた気がする。

 メルランもあんまり気にしていなかったが、聞いた話によると一度死にかけたらしいし、もしかすると体調が悪いのだろうかと思い始めたのだ。


 そして、メルランがカトウの身を案じる言葉をかけようとしたときだった。


「……すまない……ミチル」


 そう呟いたカトウがうつ伏せに倒れてしまった。


         ◆ ◆ ◆


 いつの間にか距離が離れていたカトウの元に急いで駆け寄るメルラン。

 急いで呼吸の確認をとると一応息はあった。しかし、額には汗がびっしりと浮かんでおり、呼び掛けても反応を示さない。

 苦悶の表情を見せるカトウにメルランはどうすればいいのかわからなくなる。

 周りに助けを求めようと大声で叫ぶが、自分たち以外に誰も見当たらず、メルランの叫びに反応を示す者はいなかった。


(どうすればいい? 誰もいない道を選んだせいでこんなことになるなんて……今は悔やんでいる場合じゃないわ。カトウ先生を助けられるのは私しかいないの。……確かこの近くに国営の病院があったはず。距離はここからなら十キロ程度。走っていける)


 メルランはカトウのポケットから鋼糸を取り出すとそれで自分とカトウを離さないように縛り付けた。

 メルランは救助訓練で習った気を失った人を救助するための結び方をこの場で実践する。

「普段から風属性の魔法なんて使ったことありませんが、逸早く病院に行かなければカトウ先生が。……でも魔法が失敗すれば、暴発して今の私が着ている服では気絶は免れない」


 だが迷っている場合ではない。彼女が迷うことで背負っているカトウは刻一刻と命の危機に晒されている。


 メルランは背中にいるカトウを見る。

 自分にこの道を示してくれたたった一人の恩師、残虐だなんだと言われた性格を持つ私にそのままでいいと言ってくれたたった一人の人物。普段は、照れくさくてつい悪態をついてしまうが、彼には本当に感謝している。


 メルランは目を瞑って一つ深呼吸をした。そして開いた目にはもう迷いはなかった。


「私はあなたを死なせはしない!!」


 彼女の魔力が迸り、魔法発動の兆候が見受けられた。

 彼女は、暗記している魔法を発動するため、詠唱を開始する。無詠唱では、慣れない魔法だと失敗するリスクが飛躍的に上がる。

 確実に成功する必要があるこのタイミングで、無詠唱を選択する道理がない。


「世界の理を崩す風の力よ。我が意志に応え、我に力を与えたまえ!! 疾風迅雷発動!!」


 詠唱と共に現れる風は彼女に素早き力を与え、彼女の纏う雷が更に威力を与える。

 光属性と風属性の複合魔法、疾風迅雷である。

 メルランは地面をめり込む程強く踏み込み、一瞬でその場から消えてしまった。

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