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弟子は魔王  作者: 鉄火市
番外編 ベルの冒険
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SS:ベルとメグミの出会い6

「お前なに泣いてんだよ!!」

 涙を拭っていたベルの腹部を、先日の3人組の中にいた茶髪の男がおもいっきり蹴った。

 ベルは、お腹をおさえてうずくまる。

 茶髪の男は咳き込むベルを見下しながら、

「魔族ごときが人間様の真似なんかしてんじゃねぇよ」

 そう言ってきた。


 ベルは男を睨むが、それは火に油を注ぐようなものだった。

 男はベルの頭部を蹴ろうとする。ベルもさすがに腕でその蹴りを防ごうとするが、か細い腕では男の強烈な蹴りを防ぎきることは出来ず、横に倒れてしまう。


         ◆ ◆ ◆


 まるで、ベルをいたぶるかのように蹴っている男。そのうしろにいる冒険者たちは、

「俺たちいらなかったな~」

「こんな場所まででばってきたのに無駄足かよ」

 と口々に言っていた。


 しかし、その言葉を言っていた冒険者達は後方に感じる殺気によって口を閉じることになる。

 ベルを蹴っていた男も、さすがにその殺気には振り返らざるを得なかった。


 黒髪の少女が走りさった方から現れたのは、一組の男女、殺気を放っているのは、銀髪の美しい女性だった。


「そこの人間共、我が主をこちらに渡してもらおうか?」

 メレクを横に立たせているカトレアは冒険者たちにそう要求した。

 憎たらしげにベルを踏んでいた男が、カトレアの姿を見て(いいことを考えた)とでも言いたげな表情でにやついた。


「じゃあお前が着ている衣服を全部脱いだらいいぜ」

 その言葉に周りのメンバーは驚くが、カトレアの薄い衣服から見える肢体と容姿を見て男連中は賛同する。


 男はしゃがみこんでベルの髪を掴んでベルの顔をカトレアに見せる。彼女のかわいい顔に出来た痣が、カトレアを苛立たせる。


「こいつがどうなってもいいっていうなら別にやらなくてもいいんだぜ」

 とカトレアに向かって言ってくる茶髪の男。

 髪を引っ張られているベルは苦痛で顔を歪ませている。

 その姿を見て「本当だな?」とカトレアは確認する。


「ああ、男に二言はない」

 カトレアは、その男が認めたのを確認すると、何の躊躇いも見せず、真顔で着ている衣服を全て脱ぎ捨て、周りに裸体を晒す。

 その裸体を見て興奮する男たちと、その姿を見て蔑みの視線を送る女性陣。


 衣服を全て脱いだカトレアは男に

「さっさとベルフェゴール様をこちらに渡してもらおうか?」

 と再度要求する。

 しかし、男はその言葉を聞いた瞬間、

「嘘に決まってんだろ。バ~カ」

 と言ってきた。


 その言葉にカトレアの眉がピクリと動く。

「こいつは、俺をこけにしてくれたんだ。相応の礼をするまでやめる気はねぇ。だいたい魔人に人権があるとでも思ってんのか? お前らは魔獣と同じで殺したって問題にはなりゃしない」

 それは先程から横で黙って立っているメレクには耐え難い言葉だ。しかし、カトレアがここまで我慢しているのに、自分が台無しにしてはいけないという気持ちでなんとか踏みとどまっている。


「おいおい、これで終わりな訳ないよな?」

「そうだよ。こんないい体見せられたら興奮がおさまらねぇよ!!」

 周りの冒険者たちが口々に言ってくる。

 その言葉に同意するように男はカトレアに次の要求を突きつける。

「おい、こいつを生きて返して欲しければ、ここにいる全員と遊んでいってくれよ」

 先程自分のやった行動を覚えていないのか、まるでその要求が通ると確信しているようで、男はカトレアにいやらしい視線を向けている。


 その言葉に少し考える素振りを見せるカトレア。

 彼女は数秒間思考を巡らせた後、メレクの方を見ずに、

「……遊んで欲しいそうですよメレク様」

 とそう告げた。


         ◆ ◆ ◆


 メレクは待ってましたと言わんばかりに、地を蹴り高々と跳躍して、一人の男性冒険者の頭に着地し、そいつの血飛沫を周囲に撒き散らす。


 大量に血を浴びた女性冒険者は腰を抜かして必死に後退りしようとしている。

 隣にいた男性が急に死んだこと、そして目の前で人を殺したにもかかわらず堂々と佇む山羊のような角の生えた屈強な魔人。この2つが彼女に恐怖をもたらしているのだ。

 怯える彼女に手を伸ばそうとするメレクを、「待ってほしい」とカトレアが止める。


「今のを見てわかったでしょう。やろうと思えば無理矢理ベル様を奪還することは我々にとって容易いことなのですよ。ただベル様に多少被害が出る為、出来るだけ穏便に済ませたいだけ。なので一つあなた達にチャンスを与えます。あなたたちがすぐにベルフェゴール様を返してくれれば、今回は特別に見逃してあげますよ」

 そう言っているカトレアの姿は既に裸体ではない。

 彼女の周りに魔方陣が浮かんだかと思えば、その直後には白い衣服に包まれた妖艶な魅力を持つ女性がそこには立っていた。

 銀色の髪が腰のあたりまで伸びただけなのに、身に纏う妖気がまったく感じなかったさっきまでとは異なり、明らかに魔人だとわかるメレクと呼ばれていた魔人よりも多かった。


 そこで冒険者たちにはわかった。

 彼女たちと関わってはいけなかったのだと。

 冒険者たちは一斉に今回召集をかけた男を見る。その目は、彼女の要求通りにしろと訴えかけていた。


 男もさすがにここで逆らう気力はもうなかった。

「……わかった。言うとおりにする。だから命だけは!」

 怯える男は、いつの間にか横に立っていたメレクにベルを渡す。

 メレクは、カトレアの元に一瞬で戻るとベルを手渡した。


 カトレアは、ベルを心配するようにおでこのあたりを撫でている。どうやら気を失っているが息はあるようだ。

 それが嬉しくて心の底から安堵するカトレア。

 カトレアは顔を上げてメレクを見ると、

「ああ、もう大丈夫ですよ。彼女は無事です。メレク様は男たちを始末しておいてください」


 その言葉に冒険者達は顔を青ざめる。

「おい、約束が違うぞ!! 見逃してくれるって言うからこっちは渡したんだぞ!!」

 茶髪の男が言った言葉に、周りの冒険者たちもそうだそうだと賛同する。


 そんな冒険者たちを軽蔑の眼差しで見るカトレア。彼女の形のいい唇がそっと開き、

「そんなの嘘に決まってるじゃないですか」

 そう短く告げた。

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