表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟子は魔王  作者: 鉄火市
番外編 ベルの冒険
84/364

SS:ベルとシズカの出会い


 ~数ヶ月前、魔王城前の森~


 魔獣の声がひしめく夜の森。そんな森の中心部あたりで焚き火をしている3名の男女がいた。

 一人は金髪の若い男性で、この中で一番高そうな装備を着けており、柄に宝石が入った剣を磨いている。そしてその隣で子どもかと思うぐらいの低身長の緑髪の男が焼いた肉をつけた串を両手に持ち、肉にかじりついている。そして最後の一人が黒髪の退屈そうに頬杖をついている女性だった。

 そんな彼らのもとに、もう一人の仲間がやって来た。


「勇者ケイン殿、魔人の少女を捕らえました」

 聖職者の衣服を着こんだ僧侶だと思われる体格のいい男が、ベルの両手首を片手で掴みながら、勇者と呼んだ金髪の男の元にベルを連れてきた。



 そもそも何故彼女が捕まったのかというと、たまたま丘の上で昼寝をしていたベルの元にこの男がやって来たのだ。

 彼はベルの護衛をしていた魔族を一掃すると、ベルを押さえつけて両手両足を拘束したのであった。



 勇者の男は捕まえた魔人を物珍しそうに見ている。

 おそらく今まで、魔人というものを見たことがないのだろう。ベルは他の魔人と比べると結構人間の少女と変わらない見た目をしている自覚はあった。それでも黒い翼という人にはないものを持っている。

 人間に近い見た目とはいえ魔人は魔人、捕まれば死は免れないであろうことはベルにも分かっていた。


「ふむ、これは」

 勇者の男がなにかを言おうとした時だった。

 先程から黙っていた黒髪の女性がスッと立ち上がるとベルの元に近付いてきた。彼女はベルの顔を間近でじっと見つめ、一息ついてから

「キャワワワワワワワワ!!」

 顔を真っ赤にしながら頬を手でおさえた彼女は興奮した様子でそう叫んだ。


「どうしたシズカ殿!?」

 その急変した態度にビクッとなるベル、そして他のメンバーも彼女の様子に驚いているようだった。

 驚いた際にベルの両手首を離してしまった僧侶の男が代表して聞いた。ベルは、離されたせいで地面にお尻を打ったらしく、イタタ……と嘆いている。

 その姿を見てシズカは更にハイテンションになる。


「何この子めっちゃ可愛いんだけど!! めっちゃ可愛いんだけどーーー!!」

「大丈夫なのか!? あんなに興奮して大声を出していては近くにいる魔物を誘き寄せてしまうぞ!!」

「うるさいぞランドルフ! お前のでかい声の方が誘き寄せるだろうが!! とりあえずシズカ、一回落ち着け!!」

「ねぇねぇねぇねぇ! 名前なんていうの?」

 まったく聞く耳を持たない黒髪の女性。

 ベルもさすがにその態度には若干引きぎみだった。

「…………ベルフェゴール」

「ベルフェゴール? じゃあベルちゃんね」

「違っ!? 私はベルフェゴールだってば」

 ベルの発言を意に介さない彼女は「ベ~ルちゃん、ベルちゃーん」と笑顔を浮かべながら、さっきから気に入った名前を何度も呼んでいる。


 目の前で目を爛々と輝かせているこの女性。

 魔人として生きてきた彼女にとっても予想外の行動を見せてくる。なんで自分の前で笑顔が見せられるのだろうか。

 人間には変わりないはずないのに、魔人である自分にベルは彼女を物珍しそうに見つめる。

 ボーイッシュな感じの髪型で、黒い髪と黒い瞳。可愛いというより綺麗な感じの女性だった。


 見つめてくるベルに何を思ったのかシズカはベルに抱きつく。

 離せ~、と嫌がるベルに対して、シズカは「まぁまぁそう言わずに」と言ってやめる気がない様子だった。


「おい、とりあえずその子はさっさと殺そう。成長されては厄介だ」

 そんな様子のシズカを含めた3人に勇者の男がそう言った。

 他の二人はうなずいて同意を示す。だが、

「………ああ? 今なんて言った?」

「いやだから、その子をこ!?」

 ベルに抱きついているシズカの顔を見た勇者の男は、その顔を恐怖の色に染め上げる。


「……お前、もしもベルちゃんに手出したら分かってんだろうな? ベルちゃんを殺そうとするなら、私がここでお前らをコロス」

 その言葉に他の二人も顔を青くする。


 他の二人にはわかっている。

 彼女は冗談を言うような人間じゃない。やると決めたら躊躇わないのが彼女だ。それこそまだ結成されて半年も経たないこのパーティーに対して既に飽き飽きしている彼女が躊躇うとは思えない。


「仲間との絆より、その魔人をとるというのか!?」

 鈍感勇者に、(彼女との間にいったいいつ絆なんて生まれたんだよ)と心の中でツッコミを入れる二人。


「当たり前でしょ? むさい男どもより、癒しを与えてくれるこの子守るに決まってんじゃない!!」

(実際にそう言われると辛いが、確かにあの子が魔人じゃなきゃ自分もそうするだろうな)

 と思うランドルフ。


「僕までこの二人と一緒にしないで欲しいな~」

 緑髪のまだあどけなさの残る少年がそう言った時、場の雰囲気が更に険悪になる。

「おい、そりゃ俺とこのハゲを同列にしてるのか?」

「そうだけど? むしろ加齢臭があるぶんランドルフより上なんじゃない?」

「加齢臭なんかしてねぇ!! このハゲは男の癖に香水臭いじゃねぇか!!」

「いやケイン殿、むしろ酒の匂いもひどいのに、香水すらつけないのはさすがにどうかと思いますぞ」

 ランドルフの言葉にプツンとケインの何かが切れる音がした。


「お前ら~。ちょっとこっち来い!! 決着つけてやる!!」

 そう言ったケインは森の奥に行く。それに他の二人もついていく。


「ごめんね~。騒がしくて。……あっ!! そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はシズカ。よろしくねベルちゃん。まったくあのハゲ頭め~こんな可愛い子をきつく縛りすぎなのよ~」

 そう言いながら縄をほどいていくシズカ。そして、縄をほどききったシズカはよしっと言って立ち上がると、

「じゃあ、あいつらが戻って来る前にさっさとおうちに帰りなさい。親が心配するからね」

「………なんで逃がすの? 私は魔人なんだよ。次あったらお姉さんを襲う側になるんだよ?」

「なんでってそりゃあ、……なんでだろ?」

 彼女は本当に何故か分かっていない様子で首をかしげている。

「あははっ、そんな複雑そうな顔しないでよ。理由なんてそれらしいものはないのよ。魔物だってここに来るまでたくさん倒してきたわけだし」

 その言葉に興味津々に聞き入るベルの頭をシズカは撫でた。

 そして、同じ目線になるようしゃがんで、

「強いて言うならベルちゃんが可愛いからかな」

 そう笑いかけてきた。

 ベルは彼女に手を振ってその場から立ち去った。

「今度は掴まるんじゃないよー!!」

 ベルに手を振り返しながら、シズカは大声でそう言った。


 それから数分後、戦闘の音がベルの耳元に届いてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ