11話 終幕8
皆が温泉に入り始めて一時間が過ぎ、集合場所に設定していた旅館の前に全員が集合した。
最後にやって来たのは、興奮してはしゃぎ回っていた少女五人。彼女達が出てきた時、真っ先に目に入ったのが膝を抱えて落ち込んでいる様子のティガウロだった。
そのティガウロに付き添っているマルクトとユリウス、それにカトウの三人。カトウに関しては五人が来た瞬間思い出したかのように口元を手で隠しながら笑っていた。
「お兄ちゃんはどうしちゃったんですか?」
エリナは近くにいたメルランに話を聞こうとしたが、彼女もどうやらわからない様子で彼女の質問に首を横に振る。
今度はマルクトに聞こうとしていたエリナに笑い過ぎて涙目になっているカトウが声をかけてきた。
「君たちさ。もうちょい声のボリューム落とした方がいいよ。男湯の方まで丸聞こえ」
その言葉に自分が原因だと気付くアリス。彼女はティガウロの元まで近寄ると、彼の背中に謝った。
「ティガウロさんごめんなさい。別にあなたを傷つけるために言ったんじゃないんです」
しかし、ティガウロはその言葉に反応を示さなかった。
「何が面白いって、最初はティガウロのことをべた褒めしてただろ? あの時はティガウロも滅茶苦茶嬉しそうな顔してたのに、急に恋愛感情を感じないとかユリウスより弱いとかボロクソに言われ始めたもんだから、絶望的な顔になって、ついには死のうとか言い始めたんだよ。あの時は焦ったのなんのって……ククク。まぁ確かに好きな子にあんなこと言われたらきついよな~」
「いい加減にしろカトウ。お前は笑い過ぎだ。そもそもティガウロはアリスにそんな感情は抱いていないぞ。な?」
ユリウスはカトウの止まらない口を拳骨で止め、ティガウロにそう聞いた。
「えぇ、スラム街出身の僕じゃ彼女とは釣り合いませんからね。無謀な恋なんてしませんよ。まぁ、それでも結構傷ついたんですけどね」
「本当にごめんなさい」
アリスは、頭を深々と下げてティガウロに謝っている。
「姫様もういいですから顔を上げてください」
そんなアリスに向かってティガウロはそう言った。
「いえ、そんな訳にはいきません。私に出来ることなら何でもします。だから何でも言ってみてください」
さっきからアリスはそう言って譲らない。
確かに内心かなり傷ついたのは確かだ。年頃の少女たちから弱いだの。恋愛対象に見れないと言われれば泣きたくもなる。
しかし、ここまでされると、ティガウロもさすがに許すしかない。ユリウスの前でここまで謝っているアリスを許さないなんて、ユリウスの反感を買ってしまうからだ。
「では今度考えておきますので、その時あなたに一つお願いをしてもいいですか?」
「わかりました。でもこれだけは信じてください。私は親切にしてくれたあなたのことを嫌ってなんかいませんし、むしろ兄のように慕っています」
その言葉に少しだけ頬を赤らめるティガウロ。指で赤くなった頬をポリポリとかく。その表情は本当に嬉しそうだった。
「……そうですか。兄のような存在ですか。それは光栄ですね。姫様、失礼かとは存じておりますが、僕にとっても姫様はもう一人の妹のようなものなんですよ」
そう言ったティガウロは過去の出来事を思い出すように遠い目になりながら更に続けた。
「孤児だった僕にとって三人の妹がいることだけでよっぽど幸せなんです。だから近い将来、三人が真に望む相手を探して欲しいと思っています。ただ、アリス様を側室や妾なんかにしようとする輩がいたら暗殺しに行くんでその時は安心して言ってください」
そう言ったティガウロは、爽やかな笑顔をアリスに向ける。しかし、アリスの方は苦笑いになっていた。
「その時はよろしく頼んだぞ。なんならアリスを王妃にしたいといってくるクズの抹殺も頼めるか?」
「お任せください」
ユリウスとティガウロはそんなことを言いながら、熱い握手を交わした。
「そういえばティガウロが孤児ってどういうことだ? お前は二人の兄じゃないのか?」
マルクトはカトウの首に技をかけながら、ティガウロに先程言った言葉の意味を聞いてみた。
「そのままの意味ですよ。僕は十五年前、スラムにいた頃にユリウス王と父さんに才能を見出だされて拾われたんです」
「いや、あの時のティガウロの目は今でも覚えているよ。全ての人間を信じていないような目をしてたからな。五歳のくせに冷たい目だったよ」
「今もじゃん」
「うるさいエリス」
「それから俺たちが逃げるティガウロを無理矢理捕まえてここまで連れてきた」
「おい今とんでもないことをさらっと言わなかったか? お前ティガウロを無理矢理拐ってきたの?」
「馬鹿言うな。俺はただ、俺を殴った男の子を罪人という形でこの国に連れ帰り、執行猶予と監察の名目のもと俺の当時の護衛役で、彼女達の父親であるエリスタンの元に養子として入れたんだ」
(うーわ、えげつねー、思ってたよりよっぽど酷いことやってんじゃねぇか。こいつ十歳の頃からそんな感じだったのかよ)
とカトウは心の中で秘かに思った。
「あの時は正直王様達を恨んでましたね。よくわからないまま、剣術稽古させられたり、武術の稽古させられたり、魔法の練習させられたり、勉強させられたりと。それで逃げようとしたら、父さんから無言で追いかけられますからね。一切喋らずに追いかけられるのがあそこまで怖いとは当時の俺は思ってもみませんでした」
そう言っているティガウロは当時のことを思い出して肩を抱えて真っ青な顔で震えていた。
額に浮かんだ冷や汗をエリナが心配そうに拭う。そんな彼女に感謝の言葉を告げ、ティガウロはエリナの頭を撫でながら更に続けて言った。
「まぁ、そのお陰で彼女達と出会えたし、今の生活は昔に比べると全然違いますからね。今では二人に感謝していますよ」
恐怖が植え付けられる程追いかけられたんだろうな。感謝しているとか言っているけど、未だに顔が真っ青だし。
横ではなぜかユリウスもふんぞりかえっている。
「要するに、ティガウロは俺の初めて出来た弟子という訳だな」
「なるほど、ユリウスの弟子か。俺も一度手合わせしてみたいな」
「僕もです。マルクトさんとはいずれ戦ってみたいと思ってました」
「別にいつでもいいぞ?」
「いえ、今戦っても瞬殺されるのがおちです。もっと鍛練を積んでから挑戦してみたいと思っております」
「そうか。それならその日を楽しみに待つとしよう」
ティガウロに向けてそう言ったマルクトはユリウスの方に振り返る。
その視線を感じとったユリウスが全員に向けて告げる。
「とりあえず今日はこの辺で解散にしようと思うが何か意見の有る者はいるか? ………いないようだし、今回はここで解散とする。マルクト城門前まで頼めるか?」
その言葉に頷き、マルクトは空間転移魔法を発動させる。
空間転移魔法によって全員を移動させたマルクトにユリウスが感謝の言葉を告げ、この場は解散となった。
マルクトはエリスとエリナを送っていくかと提案したが、ティガウロがそれを断ったため、三人で帰路についた。
帰りついた後、玄関前で待機していたカトレアがベルに泣きながらとびついてくるのを見て、全員が無事であったことを心から喜ばしいことだとマルクトは感じた。
◆ ◆ ◆
しかし、異変とはいつも唐突に起きる。
例え自分たちが起こそうとしなくても勝手に起きることもある。事件を解決したからといって一時の間平和が訪れるなんて大間違いだ。
自分の部屋に置かれたソファーで寛ぐマルクトの元にクリスが恭しく一礼した後耳打ちしてきた。その内容にマルクトは顔を真っ青にする。
その内容は、カトウが意識不明の重態になった。というものだった。
これにて3章を終了いたします。
次回から少しの間SSを書くので本編はもうしばらくお待ちください。
尊敬する作家さんがネット小説は自由でいいって言ってくださったので、とりあえずこれ以上いじるのはやめときます。
ここからは英語のやつも戻してないと思います。Geminiとか
すみません。




