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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
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11話 終幕5

「そういえばさ、本当に今更なんだがカナデのやつ今日見てないよな? なんであいついないんだ一応王妃だろ?」


 カトウが青ざめて喋らずうつむいてしまったため、マルクトはユリウスにずっと気になっていたことを尋ねることにした。

 マルクトにそう聞かれたユリウスは、しまったと言いそうな顔になりながら、黙っていたが、

「いろいろあってすっかり忘れていたな」

 と愛想笑いをしながら言ってきた。


 カナデとは、ユリウスの王妃であり、カトウと同郷の女性である。

 年齢も俺たちと変わらない二十六歳で、いろいろあってユリウスに口説き落とされた。

 マルクトもカトウを通じて仲良くなった友人で、立場を活用してこの国に故郷の文化をいろいろ取り入れているのが彼女なのだ。


「いや酷すぎだろ。忘れてやるなよ」

「それはそうなんだが、今日は仕方なくないか?」

「まぁ、一理なくもないが。……それでどこにいるんだ?」

「カナデは今日も仕事に行ってるな」

「……相変わらず仕事好きなんだな」


 カナデは自分のレストランを持っており、そこのシェフをやっている。自国の料理を人に振る舞うことに生き甲斐を感じているらしい。

 しかし、手に入りにくい食材を使っているためそこそこ値が張る。

 値段は高いが味は絶品で、今までに食べたことのないような料理が味わえるということで有名になっている。


 カトウに聞いた話によると、とある事故に巻き込まれたかたちでこの世界にやってきたらしく、この世界に来て数日経った時にカナデが崖から転落したため離ればなれになってしまったらしい。

 彼女は運良く助かるが、ここは彼女が生まれ育った国とは違う言語を使っているらしく、言葉の通じない人の中に一人で放り込まれた時は、神に殺意を覚えたと、昔酒の席で笑いながら言っていた。

 たった一人で言葉の通じない異世界を生き延びられたのは、料理によるところが大きかったそうだ。

 魔法も使えなかった彼女にとって、頼れるものは料理だけだったのだろう。

 カトウとカナデが数年後に偶然再会した時の光景は未だに忘れられない。


「今日はそもそもカナデには内緒にしていたんだ」

 

 ユリウスの言葉には上の空になっていた俺に衝撃をもたらした。

 俺もカトウも別に彼女と仲が悪い訳ではない。むしろすごく仲がいい。最近忙しくて会えてなかったから、久しぶりに会えると思っていたのに、それはユリウスによって阻まれていたらしい。


「はぁ? なんでだよ?」


「そりゃあ、お前達の今日の答え次第では斬首とか捕まえる必要があるだろ? それなのにカナデを連れてくるのはちょっとな……」


 その言葉にティガウロが反応を示す。

 ティガウロは、俺の方をじ~っと見てくる。


「……また何かやらかしたんですか?」


「またとはなんだ、またとは! お前、俺がしょっちゅう何かやらかしてるとでも思っているのか?」


「いますよ。当然じゃないですか。今回のやらかしをもう忘れたんですか?」


「あれは……違うぞ! あれはやらかしじゃない。事故だ!! 事故ならしょうがないよな? なぁユリウス?」


「知らん。何せお前から何も聞いてないからな」


 そういえばカトウの件ですっかり忘れていたな。

 顔を伺うとユリウスは結構怒っていた。下手にこのタイミングで、お前と同じ顔したから斬ったなんて言いたくない。


「今度でいいだろ? どうせなら書類とかにまとめた方がユリウスも楽できるだろうし。今日はゆっくり休もうじゃないか」


 俺を訝しむように見たユリウスは観念したようにため息をついた。


「……まぁ、確かに。休むためにここまで連れてきたのに。ここでも仕事の話をする必要はないな。せっかくだししっかり休むとするか。とりあえずマルクトはできるだけ早くその報告書を持ってこいよ」

「わかったわかった、数日中に持っていくよ。ところで結局カナデはお前がここにいることや、事件のことは知っているのか? ……おい、なにユリウスまで真っ青に……まさか言ってないのか!?」

「…………なぁマルクト、俺……今日帰りたくないんだが」

「じゃあ、くたばって土に還れ」

「なんでだ!! そこは、俺を慰めたり、酒に付き合ってくれたりするもんじゃないのか? 別に構わないだろ? 今日くらい酒に付き合ってくれたって!!」

「お前に付き合ってカナデに恨まれるのはごめんなんだよ!」

「ぐぬぬ……ならティガウロ! お前はどうだ!!」

「すいません。僕今日は家族で食事なんで無理です」

「……ティガウロ、そんなに俺と飲むのは嫌なのか?」

「ユリウス様と飲むのは別に嫌ではないのですが、カナデ様の方が僕的に怖いのでちょっと今回は遠慮したいかなと思っております」

「ティガウロの言う通りだ。今回はおとなしく帰れ。きっとカナデも心配しているだろうしな」


 マルクトはそう言ってユリウスの肩に手をおく。

 ユリウスは、マルクトの顔を見て、わかったよと呟いた。

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