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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
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11話 終幕2


「この度は本当にすまなかった!!」


 カトウは床に額をこすりつけて土下座の体勢で謝っていた。


「知らぬこととはいえ、二人の大事な上物の服を駄目にしてしまった。本当にすまなかった」

 先程まで泣き崩れていたカトウだったが、数分後には泣き止んだ。そして、今回の件(気付け薬ぶっかけ事件)で被害を被った二人に謝罪をしているのであった。とはいえさっきのカトウの姿を見ていた二人はもう怒っていない様子だった。


「もう気にしないでください。私の方こそただ服が汚された程度でカトウ先生をこん痛めつけてしまい本当にすいませんでした。まさか、カトウ先生が死んでいたなんて思ってもみなかったもので……てっきりいつもの悪ふざけだと思っていたから私もつい怒っただけです」


 カトウに謝られているメルランの方も、カトウに申し訳なさそうにしていた。

 その隣では、エリスが困惑した表情であたふたしていた。


「わ、私もすいませんでした。命懸けで助けてもらったのにやっていい行動ではありませんでした。ていうか本当に大丈夫なんですか? 死んだって結構大事じゃないですか?」


「死んだっていってももう大丈夫だ。今はこうして普段通り……とまではいかないけど生きてるからな。むしろ攻撃を受けていて自分の居場所を守れたって結構嬉しかったんだよね。だから二人の方こそ気にしないでくれ」


 カトウたちがそんな会話をしていると、部屋に取り付けられていた扉が開かれた。


「……なんだ、まだやってたのか?」


 扉を開き中に入ってきたのは二人の人物だった。そのうちの一人は、この国の王をやっているユリウスだった。

 ユリウスはカトウの姿を見て、未だに終わってなかったことに呆れている様子だった。

 しかし、その言葉が向けられた相手はカトウたちにではない。カトウたちから少し離れた場所でソファーに座っているアリスに向けられたものだ。


 カトウ、マルクト、エリス、メルランの四人は少し離れた場所にいる。防音の結界をマルクトが発動させたため、中でどんな話をしているのかわからないし、ユリウスたちが来たことも中にいる彼らは気付いていない様子だった。


「カトウさんはいったい何をやっているんですか?」


 そう聞いたのはユリウスの斜め後ろに立っているティガウロだった。


「あれはドゲザと言って、カトウの国に伝わる最強の謝罪方法なんだそうだ。ここぞというタイミングで使えばどんな相手にだって誠意が伝わるらしい」


「ドゲザですか。そんな素晴らしい謝罪方法があったなんて知りませんでした」


 関心したような表情を見せるティガウロ、彼は小さな紙の束と棒状の何かを懐から取り出し、棒を使って紙の束に何かを書き込んでいた。

 そんなことをしているティガウロの側にアリスが近寄っていき、その束を覗きこもうとしていた。


「ティガウロさん! お久しぶりですね。今度は何をメモしているのですか?」


「姫様!? これは姫様が見る程の価値はありませんよ」


 ティガウロはそう言いながら急いでその紙の束をアリスに見られないように懐にしまった。

 そして、紙の束をしまいこんだティガウロはアリスにかしずく。


「そんなことよりも、今回は申し訳ありませんでした。このティガウロ、姫様の危機に側で守れなかったこと一生の不覚です。私はいったいどうやって償えばいいのでしょうか?」


「相変わらずティガウロさんは大袈裟ですね。私はこうして先生に守ってもらえたので無事でした。それにティガウロさんは、ユリウスお兄様から頼まれた仕事をなさっていたのでしょう? それなら私には何の文句もありませんよ」


 アリスがそう言っているにも関わらず、ティガウロは未だに自分を責めている様子だった。


「しかし……」


 ティガウロがそう言った時だった。


「お兄ちゃん!?」


 高く響く声が部屋の扉の方から聞こえてきた。

 その言葉に防音結界の外にいる全員が注目する。そこには部屋の扉を開けて入ってきたエリナが驚いた表情を見せていた。


「エリナじゃないか。何でこんなところにいるんだ?」


 エリナに向けて答えたのはティガウロだった。ティガウロは先程までの目上の人に対する畏まったしゃべり方ではなく、家族に向けるようなしゃべり方になっていた。


「えっ!? ガウ兄? いつからそこにいたのさ?」


 エリスも、その言葉で兄の存在を知ったらしく、兄の方に向かって小走りに駆けていった。

 どうやら話が終わったようで、ティガウロがアリスにかしずいた時にマルクトが防音結界を解いていた。


 エリスについていく一同、その中にはさっき土下座をしていたカトウもいる。

 ティガウロと双子姉妹が何かを話している間にユリウスがカトウの方に近付いていく。


「おいカトウ、もう土下座はいいのか?」

「ああ。それから、今日使い物にならなくなった制服代をお前が支払うことになってるから頼んだ」

「制服代? ……ああ、なるほどね。わかった! 今回は俺が払うよ。とりあえず後で請求しといてくれ」

「とりあえずエリスの制服のエンチャントは俺が頼みに行ってくるよ」

「いやマルクト。さすがにお前にこれ以上迷惑をかける訳には」

「別にカトウが行ってもいいけどさ~。あの人カトウのことあんまり好いていないからな~」

「確かにあの人は昔っからカトウを毛嫌いしてたよな。何故かカトウにだけ当たり強かったし。カトウが行ったら追い返されるんじゃないのか?」

「うっ……それもそうだな。悪いけどよろしく頼むよマルクト」

「任せとけ」


 そんなやり取りをしていた三人の元にエリナがティガウロの腕を引っ張りながらやって来た。


「マルクト先生、お話終わったようなので紹介しますね。この愛想の悪い人は私の兄でティガウロっていいます。お兄ちゃん、こちらの方が私の通っている魔導学園エスカトーレで高等部の教師をやっているマルクト先生です」


 エリナはマルクトに自分の兄を紹介すると、次に兄にも自分の担任の先生を紹介した。


「エリスとエリナがいつもお世話になっております。二人の兄で、ユリウス王直属の近衛騎士を務めるティガウロと申します」


「君がエリスとエリナの兄だとは知らなかったな。……それにしても二人とはあんまり似ていないんだね」


「よく言われます。それにあなたが僕の妹二人とそういう関係だったとは驚きました」


「一応今年から教職に就いたんだ。二人とも優れた才能を持つ魔法使いだし。しっかりとした育て方をすればいずれ近いうちに君を追い抜くんじゃないかな?」


「そうですか。それは実にいい知らせですね。これからもどうかうちの愚妹をよろしくお願いします」


(あれ? 妹に抜かれると聞いても態度に変化なし。いや、目に一瞬だけど陰りが見えたな)

 そのあっさりとした態度にマルクトは少し不審に思うが、何か事情があるのだろうと考えることにした。


「もちろん任せといてくれ。それからティガウロ。君とはこれからも良好な関係を築けるといいんだが」


 そう言って再びマルクトはティガウロに向けて手を差し出す。


「あなたがそう言ってくださるのでしたら。もちろん僕の家族に手を出さなければですがね」


 その手をティガウロが握り二人は本日二度目の握手をかわした。

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