10話 反撃9
マルクトの手に握られていたものは一本の剣。
これは、かつて灼熱竜を倒した際に当時のマゼンタ国王から与えられた剣である。
この剣の名は『聖剣グラム』、神から託されたと言い伝えられている聖剣であった。
◆ ◆ ◆
マルクトは聖剣グラムを鞘から抜き放ち正面に構える。
右手に握られる聖剣グラムは神々しい光を放っていた。
ユリウスの姿をしたシーガルは自分の持つシャムシールを変身させて作り出した聖剣レーヴァテインを構えなおす。
双方がにらみ合い、同時に床を蹴る。
素早い動きで距離を詰め、互いに斬りかかる。剣が交わり火花が散る。
パワーとスピードで相手を上回るマルクト、ルーンの力で相手の攻撃を見切り、テクニックで相手を翻弄するシーガル、二人は互いに一歩も退かずに斬りあっていく。
シーガルは煌炎剣華というユリウスの剣術をルーンの効果で巧みに使いこなす。しかし、シーガルの繰り出す攻撃をマルクトはことごとく避けたり、受け流したりしてみせる。
最初のように炎を消してみせることもあったが、どうしても避けきれないと感じた時以外、マルクトはそれを使用していなかった。
相手の魔法を打ち消すなんて普通は出来ない。しかし、マルクトの持つ《ルーン・操作》はそれを可能としてみせる。
相手の使用される魔法を上回る量の魔力を使用し《ルーン・操作》を使い精密な操作で相手の魔法を包み込む。
こうして相手の魔法を打ち消すことを可能にしていた。
しかし、精密なコントロールが必要になるため、軽々しく使えないマルクトの奥の手であった。
一方シーガルはと言うと、マルクトに勝つために、ユリウスに変身したというのに攻撃がまったく当たらないことにイライラしていた。
それでも、マルクトの方が優勢という訳ではない。
マルクトはシーガルの攻撃を上手く防げてはいるが、シーガルはマルクトの攻撃をユリウスの持つ《ルーン・真実》で完璧に見切っている。
つまり、お互いに決定打がないのだ。
「なぜ君は私の攻撃を避けられる! お前はユリウス王より弱いのではなかったのか!」
シーガルの剣による攻撃をマルクトが防いだことでつばぜり合いの状況になった。その状況でシーガルが聞いてきたのだ。
「……甘いんだよ。俺がどれだけその攻撃を受けてきたと思ってんだ。……その攻撃を受けて負けてきたことを俺の体が覚えてる。だからこそ、ユリウスの攻撃の防ぎ方は体に刻みこまれて知っているんだよ。それに、お前の攻撃は単調すぎる。お前の剣はユリウスと同じように見えてまったく違う。そんな二流剣術で俺が負ける訳ないだろ!!」
そうマルクトは、己のルーンを発動させる。
「convergence!!」
そう叫んだマルクトの四肢が急激に光りだす。
そして、聖剣グラムはマルクトのルーンに呼応するように輝き始める。
その輝きはまるでマルクトを自分の主だと認めたのだと、聖剣を握るマルクトには感じられた。
輝く聖剣はマルクトの意思を感じとり、つばぜり合いを制す力になってくれた。
いきなり、相手の力が強くなりよろめくシーガルにマルクトは聖剣グラムを横に薙ぐ。
避けられない。そう直感で感じとり、聖剣レーヴァテインで防ごうとするが、先程とは比べ物にならない威力を持つ一撃をもらい、壁に叩きつけられた。
その衝撃にシーガルは口から血を吐く。そして地に倒れ伏し、その驚異的な威力に驚く。
(先程までとは全然違う。しかも、避けることが出来ない程速かった。何で急激にそこまでパワーとスピードが上がった?)
シーガルは口に吐血した際に付着した血を腕で拭いながら立ち上がろうとするが、目の前の異変に気付いて驚愕する。
手に握っていた聖剣が根元から砕かれていたのだ。
「な……んで!?」
確かにこの聖剣はシーガルの《ルーン・変身》によって造られた偽物ではあるが、それでも本物とは何ら変わらない性能と強度を誇る。本来であれば聖剣を折る事など不可能な筈なのだ。
それなのに、シーガルが手に持っている聖剣レーヴァテインは折れていたのだ。
シーガルは聖剣レーヴァテインを折ったマルクトの方をおそるおそる見てみると、その人物は居合いの構えをとっていた。




