10話 反撃8
シーガルの能力とは《ルーン・変身》といって自分の姿を変えることのできるルーンである。
これは、相手の名前と姿を完璧に把握していなければ発動はしないが、以上の条件を満たせばどんな人にでも、動物にでも、魔獣にでも、魔王にだってなれる。
そして、このルーンの一番恐ろしいところは変身した相手の能力を使えるところにある。
それが例え、神秘の力ルーンだったとしても。
今回シーガルの変身した相手は、ユリウス・ヴェル・マゼンタだった。マルクトの友人であり、魔導王国マゼンタの国王をしている人物だ。
姿かたちはもちろんのこと、その声もユリウスにそっくり、いやユリウスそのものだった。
◆ ◆ ◆
その姿を見た瞬間、マルクトの直感がこの男の存在は危険だと告げてきた。
それは、ユリウスの捕まえてこいという頼みに反することにはなるが、それを破ってでも消した方がいいと感じたのだ。
「前言撤回だ。お前を捕まえるのは止めにする。お前はこの場で確実に消す」
その言葉をシーガルは一笑に伏す。
「君に何ができるというんだい? 聞いているよ。君は、ルーンに目覚めたユリウス君にまったく歯がたたなかったらしいじゃないか~。そのせいで学園一位の座から落とされたんだってね? マルクトじゃ俺には勝てないよ」
「黙れ!! 俺のことをマルクトと呼んでいいのは、ベルとカトウと本物のユリウスだけだ!! お前のようなクズが俺をマルクトと呼ぶんじゃねえ!!」
そう叫んだマルクトから醸し出される異様な雰囲気に晒されシーガルは口をつぐんだ。
一瞬だったが、呼吸が出来なくなるほどの恐怖を感じてしまったのだ。
しかし、自分の姿を思いだしなんとか余裕を取り戻す。
「……ふっ、いくら口で脅したからといっても、所詮はこちらの方が圧倒的に有利です。負け犬の遠吠え程うるさいものはありません、ね」
ユリウスに変身したシーガルは、そう言ってから「ね」のタイミングで手に持つシャムシールで斬りかかってきた。
マルクトは相手に突きつけていた大鎌でシーガルを斬ろうとしたが、シーガルはそう来るのがわかっていたかのように、意図も容易く避けてみせる。
(チッ、ユリウスのルーンまで使えるのか。先読みは確かに厄介だな)
マルクトは心の中で舌打ちすると大きく一歩下がる。
しかし、シーガルはそれを追うように、攻撃を仕掛けてきた。
「煌炎煉華!!」
そうシーガルが叫んだ直後、シーガルの持つシャムシールが炎を纏う。そして、煉獄の炎を纏ったシャムシールがマルクトを消し去るために襲いかかってくる。
マルクトはその光景に一瞬だけ驚いたが、煌炎煉華を冷静に対処する。
煉獄の炎を纏うシャムシールをマルクトは大鎌で迎えうった。
すると、何故か炎は跡形もなく消え去ってしまった。
目の前で自分の放った炎が消されたことに驚きを隠せないシーガルは一歩下がる。
マルクトも相手が下がるのを見て、大鎌を構えなおす。
(なるほど、ユリウスのルーンに加え、煌炎剣華まで扱えるのか。戦闘スタイルまで似ているということは、ユリウスを相手にしていると考えた方がいいな。あいつの努力を側で観てきた者としては、あいつが煌炎剣華を使うのは不愉快極まりないが、ここは一旦冷静になるべきだな)
マルクトがそう考えていると、シーガルは手に持つシャムシールを手の中で遊ばせ、
「いやはや、まさか煉獄の炎が消されるとはね。なるほど、あなたのルーンは相当厄介そうですね。実に羨ましい。あなたを殺した後、その能力を奪わせていただくとしますか」
とにやつきながらそう言った。
「しかし、あなたを殺すためにはこの剣ではいけませんね」
そう言うと、シーガルは《ルーン・変身》の能力で、自分のシャムシールをユリウスが使っている剣と同じものにした。
「ほほう!! これが伝説の聖剣レーヴァテインですか。素晴らしい!! この神々しい剣なら、先程のように簡単には無効化できないでしょう」
シーガルの手に持つ聖剣レーヴァテインとは、マゼンタ王家が代々受け継いでいく聖剣である。ユリウスの《ルーン・真実》に欠点があるとすれば、攻撃力が無さすぎることだ。聖剣レーヴァテインはその攻撃力の低さをカバー出来た。
炎属性の魔法の威力を上げ、攻撃力は聖剣の中でもトップクラスだが、他の聖剣よりも耐久力が低いという欠点も持っている。しかし、そんな欠点を含めても聖剣レーヴァテインとユリウスの相性は歴代でも特に良かった。
聖剣レーヴァテインを見たマルクトは大鎌を消した。
そして、マルクトは転移魔法を発動させる。
転移魔法を使った対象は、マルクトでも、目の前にいるシーガルでもない。
転移魔法は点から点へと移動する魔法、つまり座標さえわかっていれば、どんな物でも自分の元に移動させることができる。
転移魔法を使ったマルクトの手には宝石のちりばめられた鞘に入った一本の剣が握られていた。




