2話 魔王少女6
目を覚ますと、何故か俺はベッドで寝ていた。
昨日は確かベルと一緒にお茶をして、カトレアという女性からシズカの話を聞いて、そしたら角生えた悪魔がベルを殺そうとして、カトレアさんが串刺しになって、そんで、あのメレク……だったか? あいつを氷柱で滅多刺しにして、カトレアさんを回復して意識が消えたんだったか?
マルクトは周りを確認しようとして起き上がると、謎の違和感を感じた。
ふと横を見ると、不自然に布団が盛り上がっていることに気付いた。
おそるおそる布団をめくると、なんとそこには全裸のベルが寝ているではないか。
マルクトは頭が真っ白になり状況がうまくつかめなかった。
とりあえずベルを起こそうと思い、ベルに声をかけようとするが、突然背後から声をかけられた。
「ベルフェゴール様は昨日からあなたの看病でお疲れなのです。もう少し寝かせてあげてもらえませんか?」
椅子に腰かけていたカトレアにベルを起こさぬように頼まれた。
カトレアはベルフェゴールに布団をかける。
そんなことよりも気になることがあった。
「……いやなんで裸なんだよ……」
「看病には人肌がよいと聞いたらしく、実戦するとおっしゃっておられました。顔色を見るに随分効果があったようですね」
「……いや、俺のはただの疲労が蓄積して倒れただけで別に看病される程じゃないんだけど。……てか、あんたは無事なのか?」
マルクトの答えにカトレアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「この度はベルフェゴール様を助けていただいたうえ、私の治療までしていただき、誠にありがとうございました」
その言葉になんだか照れくさくなり、マルクトは自分の頬をかいた。
「……なんか俺が暴れたせいでもあるみたいだし、気にしなくていい」
そんな会話をしているとマルクトの隣にあった膨らみがむくりと動き、一糸纏わぬ金髪碧眼の少女が体を起こした。彼女は座った状態で目を擦ると、まだ覚醒しきっていない眼で辺りを見始めた。
すると、彼女はマルクトとカトレアの方に視線を固定し、徐々に目を輝かせていく。そして、彼女はいきなりマルクトに抱きついてきた。
「マルクトー!」
ベルは涙を流しながらマルクトの無事を喜んでくれた。
◆ ◆ ◆
とまあ、そんなことがあったため、彼女たちの抱えているいくつかの問題を解決するために、昨日話を聞いたテラスに出て話し合った。
ちなみに、ベルは服を着てくれた。
まず一つ目は住むところを移動しなくてはならない問題。
これは、この場所にいては魔王討伐を掲げた連中や大天使サリエルに襲われる可能性が高いからだ。
そのため、二人を俺の家に招待することにした。
カトレアには家の雑事を手伝ってもらい、ベルには俺の家で滞在することで魔王としてではなく、親戚として預かることにした。
最初はカトレアも渋っていたが、安全性はここよりも良いと言うと、ベルのお世話は彼女がすることとベルに対してのそれなりの待遇を条件に了承してくれた。
二つ目は食事である。
俺はこれが一番不安だった。
なぜなら、人間を食べたりする魔族も多い訳だし、人が食べられないようなものが彼女たちの主食かもしれないと思ったからだ。しかし、二人に聞くと、彼女達はあまり人といった生物を食べないベジタリアンらしい。ただ、肉や魚を好まないだけで食事も人間と変わらないものを食べられるそうだ。
それに彼女たちは、人を食べることはないそうだ。これは、先代魔王の魔王グリルが人間達と共存していくうえで人間を食べてはならないと定めたからである。
そのため、結構不安だった要素はあっさり解決した。
三つ目は呼称に関しての問題だ。
魔王ベルフェゴールの名が俺の知らない間に広がっている可能性もあるわけだし、呼び方には気をつけるべきだと思う。
とりあえずカトレアがベルのことをお嬢様と呼ぶことになって解決した。
ベルにも、これから名乗る際にはベルフェゴールと名乗らないようにと言い聞かせた。
そして最後に一番大事なことだ。
ベルは魔王なのだ。つまり、魔族たちの王。
普段町に出るときは自分が魔物だと分からないように、認識阻害の術をカトレアが発動しているらしいのだが、俺のようなレベルの高い魔法使いには容易く見破られてしまう。という訳で、ベルの魔王としての妖気を俺の魔力で完全に抑えこむことにした。
これは魔王として魔族を服従させることができなくなった代わりに、ベルを魔人だと見破ることが俺の死なない限りほぼ不可能になったということである。
もちろん俺よりランクの高い魔法使いにはばれるが、そんなやつは一人しかいないので大丈夫だろ。
そして、一応二人とも俺の言うことはある程度聞いてもらう約束をしてもらった。
俺だって王都に戻ればそれなりの地位がある人間だ。勝手に行動されて、魔王を匿っていると思われたくない。無理強いや絶対服従といった彼女達の意思に反した命令をするつもりはないが、急を要する場合は俺の命令を最優先してもらうことにした。
そして、話し合いは終わり、俺たちは魔王城を後にした。
残った魔族たちは、ギリギリ生きていたスクアーロに全部任せることにした。
もちろん、彼は俺の脅は……お願いを快く受け入れてくれたよ。
そして、帰り道の途中、先日寄った町にまた寄ることにした。
メグミという先日あった少女にお別れを告げたいとベルにせがまれたからだ。
俺も長旅用の荷物を宿屋に預けていた為、それを受け取らなくてはならなかったから、彼女の願いを受け入れた。
しかし、俺たちがメグミの家に向かうために町の中に足を踏み入れると、何故か町は荒らされていた。