10話 反撃5
ティガウロは手をかざし唱える。
「顕現せよ! 材質は鉄、創造する物は敵を切り裂く百本の剣!!」
その言葉の通りに鉄で造られた百本の剣がティガウロの周りに現れた。
そして、ティガウロが右手を上げる仕草にあわせて剣は浮かびあがった。その光景には流石にプランクの構成員達も脅えていた。
ティガウロはまるでオーケストラの指揮をとる指揮者のように空中を舞う剣を操る。剣はティガウロの指示に従い敵に向かって飛んでいき、次々とプランクの構成員たちを切り裂いていく。
◆ ◆ ◆
ティガウロのルーンは《ルーン・創造》という名の能力である。
このルーンは、魔力で物を造り出すことができるという能力だった。
この《ルーン・創造》は、材質まで選択でき、複数個造り出すことが可能で、創造によって造られた物は自分の思い通りに動かせる。
今回のように剣を空中に浮かばせることも可能なのだ。
そして、この能力で造られた物は基本的に二十四時間顕現し続けることができる。
ただし、生き物を造り出すことは出来ず、また、大き過ぎたり固すぎると消費する魔力が多くなってしまう。
ティガウロの魔法ランクは濃青で魔力量はそれなりにあるのだが、この《ルーン・創造》が目覚めた際、代償のせいで魔法がほとんど使えなくなってしまった。
◆ ◆ ◆
自分の操る剣が敵を切り裂いていくのを眺めていたティガウロだったが、徐々に自分の剣に対応してくる相手が出てきているのを操る剣を通して感じていた。
ティガウロは操っていた剣をオートモードにして、自分の武器を作ろうとした時だった。
「我々は実行部隊フェンリルである。そこの貴様!! 貴様はいったい何者だ!! 何故我々と同じローブを着ている? まさか裏切り者か!!」
そう言って茶髪の三十代くらいのチョビヒゲ男が出てきた。
その男は後ろに二十人程の逞しい男たちを率いていた。
「……答える訳ないじゃないか。とりあえずこの組織を潰しにきた人間。それだけ覚えておけばいいよ」
「……それもそうだな。プランクを潰しにきたということなら我々も黙ってはいられないぞ。お前たち!!」
実行部隊フェンリルの面々は茶髪の男の指示に従いティガウロを取り囲む。
しかし、ティガウロは余裕の態度を崩さない。
「僕に勝てると?」
「所詮は魔法使い。魔法使いは近接戦闘が極端に苦手なのは、我々も知っている。つまり、魔法を使わせる前に倒せばいいのさ!!」
その言葉が引き金となって、男たちがティガウロに向けて攻撃を仕掛けてくる。
ティガウロに対して四方八方から攻撃を仕掛けてくるフェンリルの男たち。彼らの連携はティガウロを苦戦させる結果へと導く。
敵の実力を低く見積もっていたティガウロをフェンリルの男たちは追い詰めていく。かろうじて重い一撃はもらってないティガウロだったが、《ルーン・創造》で自分の武器を作ろうとした時、
「遅い!!」
そう叫びながら近付いてくるリーダー格の男におもいっきり胸元を殴られた。そのため、詠唱が出来ずに武器を造れない。
ティガウロは男の攻撃をなんとか瞬時に腕で守ったが、殴られた際勢いよく壁に叩きつけられ、そのままずるずると床に倒れ伏す。
なんとか立ち上がるティガウロだったが、背中にズキズキと痛みを感じる。
これではそう簡単にルーンを使えない。
集中を必要とする《ルーン・創造》において、痛みとは発動を邪魔するノイズのようなものだ。
(やばいな。こうなったらあれでいくしかないか)
ティガウロはそう考えると、大きく深呼吸をした。
その後も、攻撃を仕掛けてくるフェンリルの男たちだったが、二十分ほどたった時状況に変化が生じた。
一人で不利だと思われていたティガウロだったが、次第に男たちの攻撃を避けたり、相手の体を受け流し別の敵にぶつけて転倒させたりするような行動が多く見られるようになってきた。寧ろ男たちの方が攻撃を与えられずに息をきらしている。
その様子に、茶髪の男は動揺を隠せなかった。
「貴様、魔法使いではないのか? 先程までは容易く攻撃までつなげられたのに。なぜ今では我々の攻撃を捌ききれる」
「……ふっ、いったいいつの時代の話なんだ? 魔法使いが近接は出来ない? 今時の魔法使いは近接も出来なきゃ一人前とは認められないんだよ!! ……それともうひとつ耳寄りの情報だ。後ろ見てみ」
ティガウロの言ったとおりに茶髪の男は後ろを振り返る。
振り向いた瞬間、目に映った光景に彼は驚きの声をあげた。
何故ならそこには、ティガウロと同じようなローブを着ていた者達が全員倒れていたからだ。もはや誰一人として立っていられた者はいなかった。
「なっ!? いつの間に? 剣か? いや、それでは、うちの剣士達が……何故?」
そんな時、視界の端に動く影を見つけた。
鉄の塊のようなものが動いている。
(なんだあれは?)
茶髪の男が目を凝らして見てみると、其処にはとんでもない化け物がいた。
幻覚か? そう思い目をこすって再び先程の化け物を見る。
「何故こんなところにゴーレムが居やがる!!!」
その言葉に、フェンリルの男達は全員リーダーの見ている方を見る。ティガウロから目を離して。
其処には、ゆっくりと動く鉄の塊、目を赤くひからせた二メートル程の大きさをした三体のゴーレムと呼ばれる化け物がいた。
ゴーレム達は倒れた人の中を闊歩している。
「僕のルーンは、顕現さえしていれば詠唱をする必要はない。要は剣を変形させて敵を潰すゴーレムを造るなんて一分もたたずに終わらせられる。後はお前らだけだ」
ティガウロは目の前の光景に驚く茶髪の男との距離を自分から目を離している隙に詰めていた。
いつの間にか、すぐ側まで近付いて来ていたティガウロに驚くリーダー格の男、その無防備な顎に強烈な回し蹴りが叩き込まれた。
その一撃で茶髪の男は意識をもっていかれた。
リーダー格の男が倒れてしまったことで士気系統が乱れ、男たちは仇だなんだとぬかしながら、ばらばらに襲いかかって来る。
しかし、そんな統率されていない攻撃がティガウロに通用する筈がなかった。
「つまらないな。リーダー格がいなくなった途端これなのか。僕が相手する必要もないな。よろしく頼んだよ」
ティガウロは男たちをあしらうと自分で造り出した鋼の巨大な壁に話しかけ手を当てる。
すると、壁から二メートル程の大きなゴーレムが二体出てきた。
そのゴーレムにティガウロが言った。
「ここにいる僕以外の全員への攻撃を命じる。ただし、殺す必要はないので気絶程度にとどめろ」
二体のゴーレムは主に頷くと、近くにいる人間を片っ端に攻撃していった。
ティガウロは壁に背を預け、その状況を静かに観ていた。
殴ったり蹴ったりして、ゴーレムは人間たちを圧倒する。
ゴーレムに怯えていた構成員の一人が銃を構えてゴーレムに向けて発砲するが、鋼で造られたゴーレムにはまったく効かなかった。
その結果、構成員たちはゴーレムに対してまともに対抗できず、バッタバッタとなぎ倒されていくこととなった。
まさにゴーレム無双である。
ゴーレムたちのお陰で、数分後にはその場に立っていられたのはティガウロだけだった。




