10話 反撃2
ユリウスから言われた地点に俺はやって来ていた。
そこはレンガ造りの家が建ち並び、近くには商店街もある街だった。そこに住む人々の格好は厚着のものが多く、確かに厚着をした方がいいと感じる寒さだった。春で結構温かくなってきているマゼンタとはどうやら気温が違う。おそらくマゼンタよりも北にある国なのだろう。
俺が着地した場所はどうやら、街の大きな通路だった。
歩く人たちがやけに俺をじろじろと見ていて、近くの人とひそひそ話していた。
なんかやけに軽蔑的な眼差しをこちらに向けてる気がする。
そんなに珍しくない見た目をしていると思うんだけどな。
そういう視線を向けてくる人の数がどんどん増えてきて、いつの間にか俺を囲む人垣ができていた。
その人垣の中から全身を灰色のローブに包んだ人物がこちらの方に歩み寄って来た。
その人物は俺の元までやってくると、いきなり俺の頭をおもいっきり殴ってきた。
俺も、まさかこんな人前でなんの前振りもなく殴ってくるとは思っていなかったので、もろにくらってしまった。
そして、視界が暗くなっていくなかでその人物の冷徹な真紅の瞳がわずかながら見えた。
ローブの人物に殴られたことで地に伏したマルクトは、そのローブの人物に襟首をつかまれ、ずるずるとその場から引きずられていった。
◆ ◆ ◆
ローブの人物は街通りを抜けるとマルクトを担ぎ上げ、裏路地を駆けていった。
そして、街並みが先程までの活気ある風景とはうってかわり、人の住んでいなさそうな廃屋が多くみられる街に着いた。ローブの人物は、そのうちの一軒の扉を蹴り壊し中に入った。
ローブの人物は、中に入ると未だに気を失っているマルクトを見てため息を吐いた。
そして、担いでいたマルクトをおもいっきり壁に叩きつけた。
「イッタ!!」
背中に急激な痛みを感じ、マルクトは意識を取り戻した。
先程までの風景とは違うことにマルクトは警戒を露にするが、目の前に立つローブの人物に向かって問う。
「……俺をここまで連れてきていったいなんのつもりだ?」
ローブの人物はマルクトが意識を取り戻したのを見て顔を隠しているフードをとり素顔をさらした。
ローブの人物は綺麗な銀色の髪をしており、少し茶色い肌が特徴的な真紅の鋭い瞳の若い男だった。
その男は冷徹な視線をマルクトに向けていた。
「……あんたアホなのか?」
その言葉にはさすがのマルクトでも驚いた。
マルクトもまさかいきなり初対面で面と向かってアホと言われるとは思ってもいなかった。
「……いや、なぜ初対面の相手からアホ呼ばわりされなきゃならないんだ。ていうかお前は誰だ」
その言葉に、銀髪の男は大きくため息をついた。
「はぁ~、俺の名前はティガウロ、ユリウス王直属の王国近衛騎士をしている。今回はユリウス王からお前の補佐を任されてるからそのつもりでよろしく」
こいつか、ユリウスが言ってた応援っていうのは!!
ユリウス……もう少しましな人間はいなかったのか?
マルクトがそんなことを考えていると、ティガウロと名乗った男が更に顔をしかめる。
「……あんたわかってんのか? さっき自分が何をしたのか?」
「は?」
さっき自分が何をやったのか?
さっきまで城にいて、一瞬でここにきただけだな。
何も変なことはないよな?
「ここは、非魔法使いが十割のホワイト国家、クリンゴマ王国だぞ。ここで魔法を使えばすぐに追放される。こんなの常識じゃないか!」
あ~~~~~、そういうことね。道理であの時あんなに見られてた訳だ。そんな国の街中で転移魔法なんて使ったら、そりゃアホと言われても仕方ないな。
「そりゃすまなかった。ここがホワイト国家だったとは知らなかったんだ」
「……まぁ、わかればいいです。一応言っておきますがここでの魔法は控えてください。今回の任務に支障が出るので」
「わかった。俺はマルクト、今回ユリウスからロキと呼ばれているプランクのボスを捕まえるよう頼まれた。よろしく」
そう言って、マルクトは手を差し出した。
すぐに自分の非を認めるマルクトに戸惑いつつも、ティガウロは仕事のことも考え、これ以上言うことをやめた。
一応ティガウロが敬愛するユリウス王が派遣した人間なのだから、相当な実力者が来るとは思っていたが、まさかあのマルクト氏が来るとは思ってもみなかった。最初は使えなさそうと一瞬思いはしたが、この国がどこか知らずに来たのならしょうがないとも言える。むしろ、ここからが本番である以上、ここで言い合いになれば仕事に支障が出る。
そう考えてティガウロは目上の人に対する言葉使いを心掛けた。
「……先程は失礼しました。一応貴方は私より立場が上ですからね。アホと言ったことは取り消します」
二人は握手を交わしてから、今回の件での情報交換を行った。
◆ ◆ ◆
「……まさか、城がそんなことになっていたとは……」
そう言ったティガウロは本当に悔しそうにしていた。おそらく自分がそこにいて、ユリウスとアリスの二人を守れなかったことが悔しいのだろう。
その様子からティガウロのことを少しは信用してもいいとマルクトは感じていた。
「いえ、ここは切り替えましょう。皆の無事はこの任務を終わらせて自分の目で確認します」
「意外とすんなり受け入れるんだな……」
「今余計なことまで考えてミスするといけませんから。それでは、プランクの本部へ案内します」
「それもそうだな、よろしく頼む」
そう言って二人は廃屋を出た。




