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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
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9話 他国からの侵入者12


 目の前にいる白髪のヴェルニーチェと呼ばれる男が油断できない相手だと左腕を切り落とされたユリウスは感じ取っていた。

 それでもユリウスは、自分が負けるなど微塵も思っていなかった。

 先程のヴェルニーチェが見せていた反応から、彼がユリウスのルーンについてまったく知らないということが窺える。

 それに対してカトウのお陰でこちらには向こうのルーンが切断という能力だということが分かっている。

 先程、空中に裂け目を作る前に見せた仕草がおそらくトリガーになっているのだろう。

(まあ、たとえわかりやすい見分け方がなかったとしても俺には関係無いんだがな。敵が見えてさえいれば俺のルーンに見えない真実(もの)など何もない。後は俺の身体能力が追いつけるかどうかだけだ)


 ◆ ◆ ◆


 ユリウスの構えは一部の隙も無い。

 その構えを見てヴェルニーチェはどうにも興奮が抑えられない。

 彼は人を殺すことに何の感情も抱いていない。

 それは、初めてルーンの力を使い、誤って最愛の母を殺してしまった時に、彼が捨ててしまったものだ。

 母を殺して一人になったヴェルニーチェは殺人への罪悪感と悲しみを自分の能力で切り離してしまったのだ。

 彼にとって殺人は快楽ではない。

 彼にとっての快楽は強者との戦いであった。


 ヴェルニーチェの《ルーン・切断》は、一言で言えば全てを切り刻む能力なのである。

 それが例え、鋼鉄だろうが、目に見えないものであろうが何でもぶったぎる。

 座標が解ればどこにあっても切れる。

 しかし、目に見えないものを切るには、それなりに魔力を消費する。

 今回通信魔法の存在を感じ取る度に、魔法を使った際に微量に出るノイズを頼りにそれらを切っていた。

 ヴェルニーチェの魔法を使ったノイズを感じとる感覚は鋭敏すぎた。本来ノイズが出るのは一瞬で、感じるにしたって相当集中しないと聞き取れないものなのだ。それを普通に聞ける人間など魔法使いにだって一握り程度しか存在しない。

 それが今回の作戦でヴェルニーチェが参加させられた理由だった。

 ヴェルニーチェはこの組織に存在する数少ない対魔法使いのエキスパートだったのだ。


 ◆ ◆ ◆


 ヴェルニーチェはまるで新しい玩具を見つけたようにユリウスに切りかかる。

 それをユリウスは余裕でかわす。

 ヴェルニーチェの鋭い一撃をまるでそこに攻撃が来るのが分かっているかのようにユリウスは避ける。

 何度も何度も避ける。

 いとも容易く避ける様はヴェルニーチェにとってまったく面白くない。

 多少足を削れば楽しくなるだろうと考え、《ルーン・切断》を発動し、ユリウスの足を狙う。

 しかし、彼の能力による攻撃をユリウスは、華麗に避けてみせる。

 なぜ避けられるのか理解できぬまま、ヴェルニーチェは更に攻撃を続けるが、その全てをユリウスはことごとく避ける。

「なんでだ! なんで当たんねぇんだよー!!」

 ヴェルニーチェは当たらない不満を大声で叫んだ。


 ユリウスの《ルーン・真実》は真実を暴く能力ではあるが、ユリウスはこれを戦闘にも用いていた。

 ユリウスのルーンは、相手が攻撃をする瞬間にその目的を脳に伝えてくる。

 相手のフェイントや、嘘も全く意味がない。

 なぜなら、相手の目的がこと細やかにユリウスには、ばれているのだから。

 それがユリウスの真実という神秘の力である。


 ユリウスはルーンを発動し、ヴェルニーチェの攻撃をことごとく避ける。

 その間に一切の攻撃をユリウスは仕掛けていない。

 そして数分が経過して、ヴェルニーチェのルーンによる攻撃が減ってきた。

 ユリウスがヴェルニーチェの状態を確認すると、魔力が尽きかけていたのだと察することができた。

 当然だ。ヴェルニーチェはこのルーンを多くの兵士を殺すのに用いてきた。そのうえ、カトウと戦い、ユリウスに何度も何度も発動し、通信魔法も切断してきた。これだけルーンを使っていれば、魔力が尽きるのも頷ける話であった。


 これだけの魔力量で動けるのがユリウスには不思議でならなかったが、そんな状態でもヴェルニーチェは敵意や殺意を一切なくしていなかったことに少しだけ称賛していた。

(これほどまでに勝ち目の無い戦いで戦意を失っていないのか、……敵なのが実に惜しいが、殺された者たちのために、彼を生かすことはできない)

 ユリウスは彼の戦意を表して、全身全霊でヴェルニーチェを葬ることにした。

 そしてユリウスの剣が炎を纏う。

 その炎は、ユリウスの魔法によって作られたもので、炎が出現すると同時にユリウスの覇気がはね上がる。

 ユリウスの放つ覇気にヴェルニーチェは気圧されて近づけなかった。

「お前の諦めない意思に敬意を表し、私も全霊をもって貴様を倒そう」

 ユリウスはそう言うと剣を構えなおし、そして叫んだ。

「煌炎竜華!!」

 ユリウスがそう叫ぶと、彼の魔力が迸り、炎がユリウスの背後で竜のような形をつくりだす。

 その美しく燃える竜の姿にヴェルニーチェは魅入ってしまい動けなかった。

 ユリウスはヴェルニーチェとの距離を詰め、手に持つ剣で彼を切り裂いた。

 そして斬られたヴェルニーチェを竜の形をした炎が襲った。

 燃え盛る竜にのまれ、ヴェルニーチェは絶叫するが、炎が消えた時そこには灰しか残っていなかった。


 これにより、ヴェルニーチェとユリウスとの戦いはユリウスの勝利で終わった。


 ◆ ◆ ◆


 戦いを終えたユリウスの元に、アリスが近付いてきた。

「お兄様大丈夫ですか?」

 アリスはユリウスの無事な姿に一瞬安堵するが、ユリウスが左腕を斬られたことを思いだし、左腕をペタペタと触りながらそう尋ねた。

 しかし、いざ左腕に触れてみるとそこにはまるで最初から斬られていなかったのではないかと思える程、一切の傷痕が見当たらなかった。

 ユリウスは自分の腕を不思議そうな顔をしながら触るアリスの無事な姿を見て、彼女の頭を撫でながら微笑んだ。

「すまないな、お前に怖い思いをさせてしまって。お前も怪我とかはないか?」

「はいお兄様。マルクト先生に守っていただいたので、怪我はありませんわ」

「それなら良かった。……マルクトもすまないな。正直アリスに近すぎると思ったが、今回はアリスを守ってくれたというのを考慮して、許してやるよ」

「そうかい。悪いけど、俺もベルが見当たらないからちょっと探しに行ってくるわ」

 そのマルクトの言葉を聞いて檻の方を見てみると、確かに、マルクトが連れてきた魔王少女の姿が見当たらなかった。

「……大丈夫なのか?」

「ああ……大丈夫だと思うけど、探しにいかないと結構うるさいから、そこがちょっと不安かな。というわけで、後は任せた」

 そう言ってマルクトはベルを探しに行った。

 アリスが行ってしまったマルクトに何か言いたげだったが、変なことは考えないようにしようと決めたユリウスは未だに決着のついていない戦いを見守ることにした。


 ユリウスがカトウの方を見てみると、カトウは白い煙に覆われていた。


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