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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第1章 魔王との出会い
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2話 魔王少女5


 話を聞いた俺は、シズカの死は大天使サリエルが来たことによって起きた出来事であることと、魔王はむしろ被害を被った側であることを理解した。

 一応嘘をついていないことは、嘘かどうかわかる魔法で確認済みである。

「シズカがベルを守って死んだことはわかった。だが、魔王を放置なんて出来ないぞ? それにここにいては、サリエルってやつがまた来るんじゃないのか?」

「おっしゃる通りです。ですからあなたの知恵をお借りしたいのです」

「……俺の?」

「はい。ベルフェゴール様は未だに魔法を上手く使えません。このままでは大天使が再び来た場合、間違いなく敗北するでしょう」

 俺は紅茶を飲みながらカトレアに続きを促す。

「そのうえ、貴方のような強い人間が魔王討伐に乗り出した場合、戦力が乏しいのです」

 そりゃそうだ。

 俺がその気になればこの二人を始末するのは容易い。

 それをしないのは昨日のことも一応理由としてあるのだが、一番はシズカが命を賭して守ったベルを倒す気にはなれなかっただけだ。 

 しかし、俺以外はそうはいかない。

 少なくなってきたとはいえ、魔王討伐を掲げる者はまだまだ存在する。そのうえ、俺と同等、それに及ばずともここを制圧できる人間はそこそこいる。

 ここで俺が彼女達を見逃したとしても、魔王討伐の知らせは近い内に広がることだろう。


 俺がそんな風にどうすればいいのか悩んでいると、魔王の部屋の扉がいきなり開かれた。

 そこに立っていたのは、槍を持った二メートルを越える筋肉質な体をしていた山羊のような角を生やした魔人だった。

「魔王様!! ご無事でございましょうか!!」

 大声で聞いてくるその魔人の方にカトレアが体を向けた。

「メレク様、どうかなさったのですか?」

「カトレア殿、魔王討伐を掲げた魔法使いがこの階層に来ませんでしたか?」

 そう言って周りを見渡すメレクという魔人と目があった。

「……魔王様、なぜ人間などと、呑気にお茶を飲んでおるのですか?」

 メレクという名の魔人は俺のもとまでやって来ると、俺を指差して続けた。

「我々の同胞はこやつに殺されたのですよ? ……まさかまだ、人間などと心が通わせられると信じておられるのですか?」

 その目からは明らかな怒りの色が窺えた。もし、ここで俺が少しでも口を挟めば攻撃してきそうな雰囲気を醸し出している。

「もちろん。だって私とマルクトは友達だ」

 その言葉は満面の笑みを見せる少女の口から放たれた。

 メレクはその言葉に震える。

「……その友達一人を作るために……我々の同胞は何人も殺されたのですよ? それなのに、仕返しもせず同胞を殺した相手とのんびりとお茶を飲んでいるなんて……」

 わなわなと震えていた拳が強く握られたところを俺は見逃さなかった。

「貴方など魔王の風上にもおけない!! ……そもそも貴様さえいなければ、魔王様が死ぬことはなかったのだ!!!!」

 怒りの感情を剥き出しにした魔人は、ベルに向かって持っていた槍で突き刺そうとしてきた。

 一連の動作を見てメレクの異常な雰囲気に警戒していた俺は、急いで結界魔法を発動した。

 しかし、メレクの槍は結界の前に立った人物を貫いた。


「カトレアー!!?」


 ベルは刺された人物の名前を叫んだ。

 カトレアが主の危機を感じ取って身を挺して庇ったのだ。

 メレクは結界とカトレアに防がれた無傷のベルを見て舌打ちすると、槍を振り回してカトレアを乱暴に床へと投げ捨てる。

 真紅の液体が、投げ捨てられたことによって彼女の腹部から床に飛び散った。

 そんな光景を見たベルは急いでカトレアの元に駆け寄った。

 ベルは絶望にうちひしがれた顔でメレクを見つめる。


「どう……して……?」


「貴様のせいだ、ベルフェゴール!! 貴様が人間なんかと仲良くしようと考えなければカトレア殿も死ぬことはなかっただろう……全部貴様のせいだ。魔王ベルフェゴール!!」

 その言葉で青ざめるベルの表情を見たマルクトは、一つ溜め息を吐いた。

「いや、違うだろ」

 その言葉がメレクとベルの耳に届き、二人の目はマルクトに向けられた。

 そこには椅子から立ち上がったマルクトの姿があった。

 マルクトはメレクに向かって指を差した。

「カトレアが死んだのはカトレアを殺したあんたが悪い。同胞が俺にやられただって? わざわざ忠告したにも関わらず攻撃してきたのはそっちだろ? 俺は身にかかる火の粉を払っただけだ。どう考えたってベルを守れていないお前らが悪い」

 メレクの苛立ちがマルクトの一言一言で増していく。 

「だいたいお前らがベルも魔王も守れるほど強ければ大天使に魔王が殺されることはなかった。いったいお前ら、魔王が襲われてる時なにしてたんだ?」

「人間風情が知った口を聞くなぁあああ!!!」

 マルクトの言葉に怒りを抱いたメレクは、再び槍を構えて今度はマルクトに槍で攻撃する。 

 しかし、その槍がマルクトに届くことはなかった。

 マルクトは立ったまま一切動くことはなかった。ローブの中から手を出すことも口を動かすことすらもしなかった。

 それにもかかわらず、マルクトの魔法は一瞬で発動した。

 いきなり出現した氷で出来た杭がメレクを突き刺し、彼の鮮血を撒き散らす。

 魔人であるはずのメレクにも、魔法発動の兆候すらわからなかった。

 メレクは腹部に刺さった氷の杭を苦悶の表情でひき抜く。血が溢れて止まらない。

 霞んだ視界の中で、青髪の人間がこちらに手を向けてくるのが見えた。

 その直後、メレクの右肩、左の太ももに同じような氷の杭が突き刺さる。

 激痛に「うがあああ!!」と呻くメレク。

 彼の呼吸は乱れ、刺されたところからは血が溢れてくる。血が流れすぎて回復が間に合わない。刺された左足がメレクの体を支えきれなくなり、メレクは膝をつく。

(死ぬ? ……殺される? ……この私が?)

 先程まで見下していた人間から今では見下されている。

 こんな屈辱を味わったのは久しぶりだった。

 メレクは右肩を刺された時に落としてしまった槍を左手で握りしめ、最後の力を振り絞り、マルクトに向かっておもいっきり投げる。

 しかし、その槍は届かなかった。

 マルクトの数センチ前で、槍は動きを止め、向きを反転してメレクの心臓のあたりを突き刺したのだ。

 メレクは心臓を突き刺され、口から血を吐き、床に仰向けの状態となり、絶命した。


 ◆ ◆ ◆


 メレクを倒したマルクトはベルの元に駆け寄った。

 そして、彼女の隣にしゃがみこんだ。

「いいか、ベル。お前はその考えを絶対に変えちゃ駄目だ。人間と共存していくという考え方、俺はいいと思う。だが、その考えを変えてお前が人を襲うなら、俺がお前の敵になっちまう。……俺はできれば友達と戦いたくないからな」

 マルクトはベルの頭を撫でながら、ベルに自分の意思を告げる。

 マルクトの言葉にベルは泣きながら何度もうなずく。

 そして、マルクトはカトレアの状態を確認した。

「カトレアの息はあるが結構重症だな。助けるにはおそらく超回復魔法しかないだろう。……だけど、あれは魔物の妖気をかきけす光属性の究極魔法だから、無事治っても、カトレアは人間になっちまう。それでもいいのか?」

「……ベル様のお役にたてるのなら、人間の身になっても構いません。私は……こんなところで死ぬ訳にはいかないのです……」 

 マルクトの言葉にカトレアは弱々しい声でそう答えた。

「マルクト頼む。お願いだから、カトレアを助けてくれ。なんでも言うこと聞くから!!」

 ベルは泣きながら懇願してくる。

 マルクトは返事の代わりにベルにうなずき、超回復魔法を発動させた。


 超回復魔法は相手の命がある限り、全回復する光属性の究極魔法だ。そのぶん、消費する魔力も膨大だ。

 本来魔物に光属性の魔法を使用した場合、魔物の妖気どころか存在ごと消し去る為、非常に相性が悪いのだが、超回復魔法に関しては、妖気は消し去るものの命は保てる可能性があった。

 しかし、当然術者の技量次第で死ぬ可能性もある。


 時間にして数分だったのかも知れない。

 しかし、マルクトにとってのこの数分は、自分の全神経を魔法に集中させていたため、まるで数時間のようにも感じられた。

 カトレアの体が金色に光り輝き、その光が消えた。

 マルクトの治療が終わったのだ。

 その結果、カトレアの体から感じられていた妖気は消え、彼女の心にぽっかりと空いた穴も消えていた。

 カトレアの呼吸も安定して来ており、大丈夫だとわかると、マルクトは急激に肩の力が抜けるような感覚に襲われた。

 

 こんなに働いたのいつ以来だろう。

 マルクトはそんなことを考えながら意識が遠のくのを感じていた。


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