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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
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9話 他国からの侵入者11


 ユリウスとカトウの元に『プランク』の特殊作戦部隊ヘルが襲いかかろうとした時だった。

 彼らの前にマルクトが立ちはだかった。

 たった一度の跳躍でその場所に現れたマルクトの手元には当然アリスが抱えられていた。

「アリス、少し目を瞑っていなさい」

 マルクトは自分の首に手をまわしていたアリスにそう言った。

 アリスはマルクトの言葉に頷き、目をぎゅっと瞑る。

 それを見たマルクトは、マルクトに襲いかかってくる連中を見て言い放つ。

「リライゼーション、弾丸形態のレベル六……ショット!」

 マルクトの周りには数百発の弾丸のような形の白いものが浮かんでいた。

 それらはマルクトの「ショット」の掛け声と共に、目の前の敵を襲う。


 マルクトのルーンは《ルーン・操作》という能力である。

 このルーンは自身の魔力を自由自在に操ることができるという単純な能力ではあるのだが、その能力の使用方法は多種多様である。

 自身の魔力を纏うことで身を守る鎧にすることも、具現化することで武器として扱うこともできる。

 他にも色々な用途がある優れた能力である。

 『リライゼーション』とはマルクトの《ルーン・操作》の能力の一つで自分の魔力を具現化して、様々な武器を作り出したりする能力である。

 『リライゼーション』の弾丸形態にはレベルがあり、そのレベルは魔力で作られた弾丸の数を表している。

 その数字に三乗した数の弾丸を作り出している。

 もちろん多ければ多いほど威力は落ちるが、人を無力化するならレベル八で充分な威力になっている。

 ちなみにマルクトの技の名称考案者はカトウである。


 しかし、この能力にも欠点のようなものがある。

 一つ目は殺傷力が非常に低すぎることであった。

 人を殺すなら、込める魔力にマルクトの魔力量の半分を消費する必要があった。

 つまり、殺しには全く向かないのである。

 二つ目は、その能力の強さ故に、能力の使用に消費する魔力量が普通の魔法よりも多かった。


 これがマルクトをたったの数年で偉大な魔法使いとまで呼ばせた能力の正体である。


 マルクトの凄まじい弾幕にプランクのメンバーは反撃すら許されなかった。

 彼らの手に握られていた銃はマルクトの弾幕に耐えられず使用が出来ない状態になってしまい、彼らの反撃手段はナイフのみになっていた。

 しかし、ナイフの届く距離にマルクトが近づかせる筈もなく、近づく前に弾幕に襲われた。

 そんな彼らは、マルクトの魔力で作られた弾丸をその身にうけ、一人、また一人と気を失って倒れていく。

 数分もすればその場に立っていられた者は零であった。

 そして、この場に残る『プランク』の構成員はゲラードとヴェルニーチェのみとなっていた。


 ◆ ◆ ◆


 目の前で起こる光景にゲラードは驚きを隠せない。

 彼の率いる『プランク』の特殊作戦部隊ヘルは、こういう表沙汰に出来ない作戦を主に担当する部隊で、荒事はお手のものだった。その部隊がまさかここまで一方的にやられるとはゲラードは微塵も思っていなかった。


 確かにユリウス王が強いのは聞いていたが、まさかこれ程の実力者を配下に加えているとは思ってもみなかった。

 特に目の前で部下を全滅させた男は確実にルーンを所持していることが予想できる。

 実力の高い魔法使い程度なら、自分とヴェルニーチェのルーンでどうにかできるとゲラードは思っていたのだが、相手が使用しているルーンの能力が不明な状態で勝てる見込みは全くと言っていいほどなかった。

 そのうえ、数の有利は目の前で人質だった少女を抱える男によってくつがえされた。

「ヴェルニーチェ! 今すぐあの男の息の根を止めてください。彼は危険すぎます!!」

 ヴェルニーチェはその言葉に従い、背中を彼らに向けるマルクトをルーンの能力で殺そうとした。その時、ヴェルニーチェに向かって銃が発砲された。

 その銃弾は、ヴェルニーチェのはめた刃つきのグローブによって切り刻まれたが、ヴェルニーチェはマルクトを殺すのを中断せざるをえなかった。

 そして、銃を発泡したカトウは、マルクトを隠すようにヴェルニーチェの前に立っていた。

「お前にマルクトは殺らせない」

 そう言ったカトウの横にユリウスが立った。

「俺があのゲラードとか言うリーダー格をやるから、カトウはあの危ない奴を頼めるか?」

「……いや、ここは俺がゲラードってのをやる。ユリウスにはヴェルニーチェの方を頼めないか?」

「何言ってんだカトウ。あいつは俺の大事な妹を怖い目にあわせた挙げ句、鉄格子に閉じ込めたんだぞ!! それともなにか? さっきの攻撃を止められなかったから、俺では力不足って言いたいのか?」


 そう言ったユリウスだが、自分とゲラードの相性の悪さは薄々感じ取っていた。

 ユリウスは相手の能力がなんとなくだが分かっていたのだ。

 先程ゲラードが見せた消えるナイフのトリックはおそらくルーンによる効果なのだろうとそこまでは分かっていた。

 問題は、彼の能力が瞬間移動系なのか透明にする効果なのかが分からなかったのだが、姿を消していたマルクトが、透明のナイフを受け止めていた。

 それにより、彼の能力がおそらく透明になる能力であることが予測できた。だが、透明になる能力はユリウスの能力とは非常に相性が悪い。なぜなら、彼の能力は相手が見えていないと発動しないのだから。

 ユリウスはそれを指摘されていると思っていたのだが、カトウの考えは少し違った。


「あっちの男の能力はよく知らないが、ヴェルニーチェっていう狂人のルーンは切断っていうらしい」

「……なんでそれ知ってるんだ?」

「……さっきあいつが言ってた」

「……なるほど、だからさっきあんな裂け目が空中に出来た訳か」

 ユリウスはカトウの話を聞き、先程の奇怪な現象の正体に納得した。


「あいつは近接特化型でユリウスの方が相性いいと思う。だから、お前にヴェルニーチェを頼めないかと思ったんだ」

「……なるほど、だが……」

 それでもユリウスは譲りたくなかった。   

 あいつはアリスにナイフを投げたのだから、自分で殺りたいという考えが勝っているのだ。

 だが、カトウの言うことも最もであった。

 ユリウスの葛藤する姿を見たカトウはそれを見かねてある情報を付け加えた。

「ちなみに、ヴェルニーチェはこの国の兵士を切り刻んでいた犯人だぞ」

 その言葉を聞くと、ユリウスは渋々と頷いた。

「…………わかった。だが絶対にとり逃がすなよ。あいつには今回の黒幕を吐いてもらわないといけないからな」

 そう言って、ヴェルニーチェの方に向き直り、

「そういうわけで、俺がお前の相手だ。お前が俺の民の仇というのなら、俺自ら相手になろう」

 ヴェルニーチェに対してそう言った。対するヴェルニーチェは狂気に満ちた笑みでユリウスを見ていた。

「あはっ、あははははははははは!! いいね、いいね。思ったより楽しめそうだ。いいぜ、相手してやるよ。せいぜいさっきみたいに早々に倒れるなんてつまらないことしてくれるなよ!」


 こうして、ユリウス対ヴェルニーチェ、カトウ対ゲラードの戦いが始まった。


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