表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
56/364

9話 他国からの侵入者8


「ちょこまかしてんじゃねえ!!」

 先程から目の前の少女に全く攻撃が当たらないことに腹をたてた男が怒鳴り散らす。

 しかし、少女は男の言葉に取り合わない。

 その間にも繰り出してくる男の攻撃に対処しながら、あちこち飛びまわる。


 先程、財務官の男が自分を殺そうと考えていることに勘づいたベルは、その男と戦闘を開始した。

 財務官の男が使用している武器は腰に携えていた剣で、魔法は一切使用していない。

 しかし、剣の実力が相当高く、少し離れてもすぐに距離を詰められ、ベルは武器を構えることすら許されず、なかなか攻撃に転じることができない。

 だからといって、圧倒的にベルが不利という訳ではない。

 ベルは普段から、マルクトとの修行で容赦ない攻撃にさらされ続けて、この程度の攻撃なら回避するのにさほど苦戦はしない。


 廊下に出て戦う二人だが、そろそろ戦闘を始めて十分が経過しようとしていた。

 この二人の中で余裕がないのは男の方であった。

 作戦の実行までの時間が迫ってきているのもあるが、時間をかければかける程、戦闘音に気付いた兵士たちが来る可能性が高い。

 兵士が到着すればこちらが不利になるのは目に見えていた。

(早く目の前の少女を始末して作戦を実行しなくては!)

 そのため、彼の内心は先程からこんな感じであった。


 逆にベルの方には、マルクトからの人をできるだけ殺すなという指示を律儀に守っていたため、魔法の威力を加減しようとしていた。

 しかし、逆にそれが枷になり、威力を調整している間に距離を詰められ、攻撃するタイミングを逃してしまうのだ。

 単純な攻撃だけでいいなら、ベルはとっくに魔法を撃ってこの戦闘は終わっているだろう。

 なにせ、ステッキという魔法補助の道具が手元にあるのだから。

 だが、威力の調整は自分でやらなくてはならない。

 慣れない調整を終わらせる前に男から攻撃を仕掛けられるため、避ける必要が出てしまい、途中で魔法を中断せざるを得ない。

 よって戦況は膠着状態になっていた。


 ◆ ◆ ◆

 

 なかなか攻撃をさせてくれないことに憤りを感じていたベルは、この膠着状態をどうにかできないかと打開策を探っていた。

 要は攻撃に集中さえさせてくれれば、先程から仕掛けていたものを起動させ、この人物を無力化することができるとベルは思っている。

 そのためには、大きな隙を作りだす必要があった。


 必死に自分の中で相手に隙を作らせる方法を模索するベルは、ある方法を思いついた。

 先日、マルクトから教えてもらった相手と距離をとりたい時に使う方法、ベルはそれを実践するために、杖を握りしめ魔法を放つために唱える。

「クロスファイヤー!!」

 魔法は発動し、威力調整を行わなかった二本の火柱が交差する。

 しかし、それは男には当たらなかった。

 男の一メートル程手前で発動した火柱は、ベルの掛け声に警戒して下がった男に当たることはなかった。

(やはりガキだな。わざわざ攻撃するぞと教えてくれるなんて。来ると分かっていれば避けるなんて容易いことよ)

 そう思った時だった。

 男に黒い刃が突き刺さった。

 四方八方から、出てきた黒い刃は財務官の四肢に深々と突き刺さり、その中の一本が喉まで届いていた。

 それなのに痛みはまったくなく、意識もしっかりしていた。

 だが、何故か動けず、喋ろうとしても声が出なかった。


 目の前で燃え続けていた火柱がなくなり、少女がこちらに近寄ってくるのが見えた。

 少女は動けなくなった男から剣を奪って投げ捨て、男の目の前で足を抱えて座った。

「おじさん、動けないでしょ。それはね、人の肉体じゃなくて神経を切る魔法なんだって。四肢に当たれば動けなくなるし、喉に当てれば、喋れなくなる。脳に当てれば意識を失っちゃうんだって、師匠が言ってたよ。けがはしないけど恐ろしい魔法で使い勝手は悪いし、一度斬られれば二度と動けなくなっちゃうらしいからあんまり使うなって言われてたんだけど。おじさんは悪い人だからしょうがないよね」


 ベルは何もただ男の攻撃を避けていた訳ではなかった。

 彼女はちょくちょく隙を見ては、この神経切断の魔法をトラップとして設置していたのだ。

 闇属性の魔法が得意なベルにとって威力も考えなくていいこの魔法は結構得意な部類だった。

 そのため、この魔法は攻撃を調整させてもらえなかったベルが相手を拘束するためだけのトラップとして用いた魔法だった。相手を動けなくさせるにはちょうどいいと思って使ってみたのだが、意外と威力があってベル自身も驚いていた。


 ちなみに、先程の火柱が交差する魔法をベルが大声で魔法名を言ったのは、前にあえて大声で魔法詠唱をすることで、相手に警戒させることができるとマルクトに教えてもらっていたからだった。

 それをベルは実際に試してみたのだ。

 実際はただ魔法の名前を言っただけなのだが、ベル愛用のステッキに魔法式があったので問題なく発動できた。

 ただ、相手が無知でなければ、魔法は発動しないと踏んで、そのまま突っ込んできて火柱直撃で逆に危なかったのだが、そんなことを少しも知らないベルはうまくいった事実だけを喜んでいた。

「……どうしようかな。とりあえず師匠たちが来るまで待っとこ。……道聞き損ねたし」

 ベルは動けなくなった男から少し離れて壁の近くに座り、戦闘の疲れからかそのまま眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ