9話 他国からの侵入者6
部屋の大きな扉が開かれた。
そこから入ってきたのは金髪の髪を肩まで伸ばし紫紺の瞳を鋭くしている青年。
彼は身に纏う赤いローブを「邪魔」と言って脱ぎ捨てる。
赤いローブを脱ぎ捨てた彼の装いは何故か青い軍服だった。
彼はたった一人で敵のいる部屋に入ってきたのだ。しかし、それを蛮勇だと嘲笑う者などいない。
その青年にこの部屋にいた全ての人物が注目する。
青年はプランクで幹部をしているゲラードを睨み付けて堂々と言い放つ。
男の持つ独特な雰囲気を見て、この場で一番の実力者なのだろうと青年は思ったのだった。
「俺の国を土足で踏みにじっている連中のボスはお前か?」
彼の手に握られた剣には血がこびりついており、ここまでの戦闘の跡が窺える。
(さすがはこの国の頂点に立つ英雄、ユリウス王だな。私の部下では話にもならんかったか)
ゲラードはユリウスにばれないように小さく笑うと、丁寧な仕草で一礼した。
「これはこれは、かの有名なユリウス王ではありませんか。お初にお目にかかります。わたくし、プランク特殊作戦部隊『ヘル』の隊長を任されているゲラードと申します」
ゲラードと名乗る男の不敵な笑みを不気味に思いながら、ユリウスは部屋の状況を確認する。
ユリウスの近くには銃を両手で構えた屈強な男たちが、ユリウスをにらんでいた。
アリスと今日招待した者たちは、鉄格子のついた檻に入れられていた。
アリスは一人だけ別の檻に入れられており、ゲラードと名乗る男の近くに置かれていた。
そして、招待した者たちの周りにも銃を構えた男たちがいて、ユリウスが下手な行動を起こせば即座に彼女たちを撃ち殺す構えだった。
「この状況を理解できたでしょうか? 我々はあなたの妹を含め、今回招待された客人を人質にとっております。できれば抵抗しないでいただけるとこちらとしてはおおいに助かるのですが……」
「……彼女たちが先程からなんの反応も示さないようだが、彼女たちに何かしたのか?」
ユリウスが言った通り、メルラン、メグミ、エリス、エリナの四人は檻の中で倒れたまま、微動だにしていない。
「いえ、特には何もしておりませんよ。ただ、ピーチクパーチク五月蝿かったので、少し眠っていただいております。何か問題があったでしょうか?」
「いや、こちらとしても都合がいい。今から起きる惨状は女性には刺激が強すぎるからな」
その予想通りの返答にゲラードは唇をゆるませる。
「ほほう、人質は無視するのですか?」
「人質ねぇ。……それは確かに無視できないが、彼女たちを助けだす前に俺は何故こんなことをしたのか貴様に聞きたいんだが。当然、貴様らに慈悲を与えるつもりはない。しかし、貴様らの意見が、もしも俺を納得させられるようなものなら今後のために改善をする余地もあるしな」
その言葉に不快な感情を滲ませてゲラードは舌打ちをする。
「もっと感情的に動くのかと思っていたのですが、……案外冷静なんですね。お前らの意見なんか聴くわけないだろこのクズ共、くらい言うかと思っておりました」
その皮肉をユリウスは鼻で笑った。
「自分に敵対したからと言って意見まで否定することはないだろう? もちろん、俺がつまらないと感じれば話は別だがな。せっかくこんなところまで来てくれたんだ。俺にも非があるなら改善するべきであろう? 俺の目指すべき王の姿は、民の意見に耳を傾け、より良い国を創ることに尽力する王だからな」
その思いもよらない言葉にゲラードは肩をすくめる仕草をした。
「……いいでしょう。我々『プランク』の目的はただひとつ、この世界に生きる魔法使いを全員消すことです。邪悪な血はこの世にいらないのですよ。我々の王はその意思をこの世界に示すためにこの国を足掛かりにしようと考えておられる。この国の人口の七割は魔法使いでしたね。彼らには、全員他国との戦争で死ぬまで働いていただきます。そうすれば、他国侵略とこの国を邪悪な血から解放することができる。まさに一石二鳥というやつですよ。そのためにあなたには死んでもらいます。貴方の死が、この作戦の足掛かりになるのですから」
両腕を広げてそう告げる彼の言葉が、彼の意思そのものであることを、ユリウスはそのルーンによって理解した。
ゲラードの言葉は考慮する必要もなく、この国にとっても、ユリウスにとっても害悪でしかなかった。
そんなくだらないことのために、慕ってくれていた兵士は殺され、目の前で大切な妹を人質にとられている。
それはユリウスには我慢ならなかった。
……しかし、まだだ。まだ動いてはいけない。
例え、こいつらが銃で自分を撃ってきたとしてもまだ動く訳にはいかない。
そう自分に言い聞かせて、ユリウスは時間を稼ぐためにゲラードに話をふる。
「……なるほど。お前らの考えはよくわかった。それで? この程度の戦力で俺に勝てるとでも思っているのか? 俺に勝つには、まだ戦力が足りないんじゃないか?」
「随分と自信がありげですね。これほどの人間に囲まれ、人質をとられて動けない貴方に何ができるのですか? 例え、貴方が強くても人質がいれば関係ないのですよ」
ゲラードがそう言い放った瞬間、発砲音が室内に鳴り響いた。
その発砲音が響いた直後、ユリウスを取り囲んでいた屈強な男の一人がうめき声をあげ、その場に倒れた。




