表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
53/364

9話 他国からの侵入者5


 御手洗いに行っていたベルは、現在城内をさまよっていた。

(いったいここはどこなんだろう?)

 廊下を行ったり来たりしていたベルは、さっきからそう思っていた。

 こういう時はその場にいる人に道を聞いた方がいいとカトレアから聞いていたので、城の人を探しているのだが、人影一つ見つからない。


 ベルが城内をさまよい始めてそろそろ二十分たつ。

 ベルが廊下の角を曲がった時、廊下の奥で角を曲がる人影が見えた。

 やっとのことで人影を見つけたベルは道を聞くためにその人影を追いかける。

 しばらく追いかけていると、その人物は人目がないか確認してから一つの部屋に入っていった。

 その時見えた男の顔にベルは見覚えがあった。

(あの人って確か、ざいむかんって名前の人だったよね?)

 ユリウスとの謁見の前に、マルクト達に自己紹介をしていた人物の一人が目の前の人物だったことをベルは思い出した。


 ベルは財務官の男が入った部屋の前に立ち、扉についていた名前を読む。

「ん~? ほう、もつ……こ?」

 首を傾げながら必死に読んでいたベルはその部屋が宝物庫だということがわかった。

 その字が読めたベルは、クレフィとの勉強の成果を実感できて得意顔になる。

 とりあえず戻ったらお兄ちゃんに褒めてもらおうと思い、ベルは扉を少し開けて中の様子を覗いてみた。


 中では先程までベルが追いかけていた財務官の男が、黄金に輝く室内を荒らしており、何かを探している様子だった。

 彼の形相は、道を聞こうとしていたベルが声をかけるのを躊躇う程必死なものであった。

「くそっ!! なんでここにもないんだよ!! ここでもないなら一体どこにあるってんだ!! ……このクソがっ!!」

「ひっ!?」

 財務官の男は、探している物が見つからないイライラから手元にあった輝く宝石がつけられた高そうな杯をベルが覗いていた扉目掛けて叩きつけた。

 扉の隙間から覗いていたベルはいきなり投げつけられたため、つい驚いて声をあげてしまった。

「誰だ!!」

 男の怒号が廊下の方まで響きわたる。

 その声を男が発して少したち、一人の少女が扉を開いて中に入ってきた。

 その少女の姿を見て、男は少し落ち着いてきた。

(ただのガキか。……いや待てよ、確かこのガキは国王が招待していた男が連れていたガキだったな。まあ、こんなガキに聞かれたところでさほど問題はないが、邪魔されるのは面倒だ。少女を手にかけるのはあまり気が乗らないが、不安材料は消しておくに限る)

 これからの方針をすぐに決めた男は、ベルに声をかける。

「お嬢ちゃん、ここは君のような子どもが来ていい場所じゃないんだよ。早く皆の元にお帰り」

「ごめんなさい、ちょっと道に迷っちゃったの」

「そうか、だったらおじさんが案内してあげよう。……皆の元に」

 男は後ろ手にナイフを忍ばせながら、その言葉を呟いた。

 彼女が自分を信用して背中を見せた瞬間、背後から刺し殺す。

 そう考えて男が少女に近づこうとした時だった。

 少女が酷く落ち込んだような表情になった。

「……おじさんはベルを殺す気なの?」

 少女の口から放たれた言葉は男にとって完全に予想外なものだった。

 その言葉は少女を殺そうとしていた男に絶大な効果をもたらした。

 何故ばれた? 作戦失敗?

 その考えを否定するように男は首を振った。

「何を言っているんだい? 私はそんなことは考えていないよ。おじさんはただ迷っていた君を皆の元まで案内しようとしているだけさ。それに何を根拠にそんなことを言うんだい?」

「……おじさんの目」

「目?」

「おじさんの目、あの時のメレクと一緒。ベルを殺そうとしていた天使も同じ目してた。とてもとても怖い目。だから、おじさんもベルを殺す気なんでしょ?」

 その言葉に男は動揺する。

 男にとって完全に予想外の答えだった。実際の経験をもとにした少女の勘。これはどんな言い訳をしてもそう易々と覆るものではない。

(不意をつく予定だったが、計画変更だな)

「ははは、参ったな。目か~。まぁ、君みたいなガキを一人殺すのに不意をつく必要なんてないよな。まぁ、君は後悔するんじゃないかな。知らないまま死んだ方が楽だっただろうに」

 男は手の中で、ナイフを遊ばせながらそう言った。

「……おじさんはやめる気ないの?」

 そのベルの言葉を男は一笑に伏す。

「何を? 俺が君を殺すことかい? それとも、この国を栄光の道に導くことをかい? どっちにしろやめられる訳ねぇだろ!! 俺の考えを受け入れない王様なんかくたばればいいんだ。せっかく他国が魔王の件につきっきりになっているんだ。今のうちに他国を侵略するべきなのに、あのクソ野郎はやらないの一点張りだ。そんなへたれに大国の王は務まらねえ!! だから、俺はこの国を乗っとるんだ。王女と俺が結婚すれば次期国王になれる。国王は死に、王女は敵にとらわれる。王女が絶望に満ちた時、そこで颯爽と俺が参上。バッタバッタと敵をなぎ倒し、王女を救いだす。王女を救いだした俺は王女に惚れられるだろうな。それで俺は王女と結婚して王となり、この国を支配する。そして、『プランク』の協力のもと、この世界を支配してみせる。そのためには、ここでばれる訳にはいかねえんだわ。悪いがさっさと死んでくれや!!」

 途中から退屈そうな目をし、欠伸までしていたベルは、眠そうな目を擦りながら、

「なに言ってるか分かんなかったけど。とりあえず、私はおじさんを敵と認識するよ」

 そう言って、レッグポーチから愛用のステッキを取り出した。

「少し痛いと思うから、おじさん覚悟してね」

 そしてベルと財務官の男との戦いが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ