9話 他国からの侵入者4
マルクト、ユリウスの二人と別れたカトウは城内にいる敵を掃討しに向かう。
廊下を走るカトウには一つ気がかりがあった。
敵はどうやって城内に侵入したのだろうか?
いくら敵にルーン持ちがいるとは言え、ここは四大国家の王が住まう居城だ。
なにかしら騒ぎが起きていてもおかしくないだろう。むしろ、何故彼女達が捕まるまで、誰にも気付かれなかったのか?
廊下を走っているカトウはある考えにいきつき、走る足を止めた。
「……まさか、裏切り者がいるのか? 城内に敵を招き入れた奴が……。ちっ、マルクトたちにこのことを伝えられれば良かったんだが……こういう時に携帯電話とかあると便利なんだよな~。あ~、でもどっちにしろ通信切断されてちゃ意味ないか~」
そう呟いた時だった。
久しぶりにスマホゲームがしたくなっていたカトウの耳に悲鳴が聞こえてきた。カトウは意識を切り替え、悲鳴が聞こえた場所に走って向かう。
奥の廊下を曲がったカトウの目に映った光景は、紅い液体を流しながら倒れている兵士達、そしてその中央には、
「あはっ、あははははははははは!!」
と高笑いをしている血まみれの男が一人立っていた。
◆ ◆ ◆
白い髪は紅い斑点で染まっており、もはや赤い髪に白髪があるのか、白い髪が赤く染まっているのか分からなくなるほど赤い。
この惨状の中で高笑いを行っている男の異常さにカトウは鳥肌が立つのを感じていた。
血まみれの男は、カトウの存在に気付いたのか振り返り微笑む。血に染まりながらも人を魅了する男の優しい笑顔はまるで人を殺すような顔には見えない。
だが、その顔は一瞬で狂気を纏う。
体ごと振り向いた男はカトウに襲いかかる。
カトウに迫る男の両手の甲にはめたグローブにはそれぞれ3本の刃がついており、六本の刃はカトウを刻もうとするが、カトウはその攻撃を紙一重で避ける。
その動きは学生時代から、ユリウスの剣に何度も負けたカトウの体に染み付いた動きであり、生半可な攻撃ではかすることすらできない洗練された動きであった。
その動きを見て、一歩下がって構えなおす男は口を開く。
「……てめぇ、なかなかやれそうじゃねぇか。……そういえば名前聞いてなかったな。なんてんだ?」
男の挙動に最大限警戒しながらホルスターから銃を取り出しながらカトウは名乗る。
「魔導学園エスカトーレ一年C組担任を務める加藤哲也だ。冥土の土産によく覚えておきな」
「そうか。俺の名前はヴェルニーチェ、プランクの暗殺部隊『ヨルムンガンド』を任されている……まぁこんなのはどうでもいいよな。さあ、殺し合いを始めようか!!」
ヴェルニーチェと名乗った男はカトウに狂気に染まった笑顔を再び向けると襲いかかってきた。
ヴェルニーチェの攻撃は一撃ごとに鋭くなっていくが、カトウは紙一重で全てを避けていく。
刃先に毒が塗られている可能性を考慮して、全てを避ける。
しかし、カトウの方もヴェルニーチェの連続攻撃に攻撃する隙がなかなか見つけられずに防戦一方になってしまう。
稀に見せる次の攻撃に入る隙をつき、銃弾を二発撃ったが、刃で弾かれる。
カトウの使用する銃にこめられた弾はゴム弾で殺傷力は低い。
もともと、こういう状況になるとは予想していなかったカトウには実弾を用意することが出来ていなかった。
それでも当たればゴム弾に塗られた毒によって相手を動けなくできるのだが、ヴェルニーチェにはまったく当たらない。
ヴェルニーチェは撃たれたにもかかわらず、全く動きを止めずに攻撃を仕掛けてくる。
「いいね! いいね! いいなお前!! 俺の攻撃がここまで避けられたのは初めてだぜ!! だが、俺にも仕事があるからな。非常に残念だがこれで終わらせてもらうぜ!!」
ヴェルニーチェの攻撃は唐突に止まり、後ろに大きく下がる。
カトウも後ろに下がり、銃を構える。
カトウには、相手の攻撃を待つ理由はない。
相手に攻撃をさせないよう銃の引き金をひく。
しかし、カトウが引き金をひく直前にヴェルニーチェの指が空をきる。
その瞬間、カトウの足に力が入らなくなる。
唐突な異常にカトウは、自分の体の状態を確認した。
見てみると、カトウの腹部には横に裂かれた大きな傷が出来ていた。
それは一目で致命傷だとわかるほどの傷だった。
「なん……で!?」
カトウは膝をつきながら、自分の傷を見て呟くと、その場に倒れてしまった。
次第に意識が遠退いていく。
カトウは虚ろになった目でヴェルニーチェが近づいてくるのを視ていた。
「本当はあんたともっと遊んでいたかったんだが、俺にもやらなきゃならねぇことがあるからな。ん? 何が起きたか理解出来てねぇ顔だな」
死にかけているカトウを見下ろしながら、ヴェルニーチェは続けた。
「……俺にはお前と違って神に与えられた力がある。俺のルーン《切断》は、全てを切り裂く力だ。この能力に抵抗なんて出来やしねぇ。当たれば、何でも切れる。それが人だろうが何だろうがな。まあ、もう聞こえてないか」
ヴェルニーチェはそう言葉を残すと血を流して動かなくなったカトウを放置して去っていった。




