8話 国王からの招待状5
昼の十二時をまわった現在、ユリウスに案内され、マルクトとカトウは彼の自室に来ていた。
ユリウスは二人に少し待ってくれと断りを入れてから、自室の本棚の本を一冊引っ張った。
すると、本棚は横にスライドし、本棚で隠れていた通路が出現した。
マルクトがカトウの方を見ると、カトウはものすごく興奮していた。
「そんなに興奮することか?」
「馬鹿か、お前! 隠し通路と言えば男のロマンだろうが!! これを見て興奮せずにいられるかよ! すごいな、ユリウス! お前これ、どこに繋がってんだよ!」
カトウはマルクトに食って掛かった後、ユリウスの方に振り返り、ユリウスの趣向を褒めていた。
その姿はまるで、幼い子どものように瞳を輝かせていた。
カトウの賛辞に気をよくしたユリウスは彼の言葉にこう答えた。
「ふっ、中に入れば分かるさ」
意味深にそう告げると、彼は隠し通路の中に入っていった。
ユリウスの後を追って中に入ると、中には多くのワインが壁にたてつけられた棚にところ狭しと並べられていた。
そして、ワインの並べられた棚に挟まれるように通路があり、奥に部屋がもうひとつあった。
ワインの銘柄を見てみるとなかなか高い酒が集められていて、俺もこれにはさすがに感嘆した。
俺たちはユリウス専用のワインセラーを抜け、その先にあった部屋に入った。
そこは、ユリウス自慢のリラクゼーション・ルームらしく、部屋の内装は丸テーブルが一つあり、黒いリラックスチェアが四つあった。
壁には本棚がいくつもあり、見慣れない本もいくつかあった。
どうやら他国の本も多いらしい。
「ここは王としての仕事で疲れた時に俺がよく使う部屋なんだ。ここにいると気が休まるから、夜はだいたいここにいるな」
ユリウスはそんなことを言いながら、先程のワインセラーから取ってきたワインを部屋にあったグラスに入れて俺たちに振る舞ってくれた。
「この前、グスタフ皇国に行った時に皇王からいただいた皇王自慢のワインだ。よく味わって飲めよ」
余計な一言が気になるが、俺はワインを飲んだ。
果実味の豊かな味わいが特徴的なワインで、なかなか美味しかった。
ワインに気をとられていたマルクトにユリウスが本題に入った。
「マルクト、お前は俺に何か隠していることはないのか? 今回の校舎半壊の件、魔物が壊したというには、怪しい点がいくつかある。そもそも魔導学園エスカトーレの校舎は生徒の安全を守るために、かなり頑丈な造りになっていたはずだ。その校舎を只の魔物ごときに半壊させることが果たして可能なのだろうか? ……今なら、まだ正直に言えば反逆の罪には問わないぞ」
マルクトは唐突にユリウスのお前が犯人なんだろ? わかってるんだぞ的な意味合いの言葉に危うく飲んでいたワインを噴き出しそうになったが、マルクトは一気に飲み干すことで回避した。
しかし、無理して飲んだせいで器官にダメージが入り咳き込む。
(やっぱりこいつにはばれてたのか)
マルクトにとって、こうなることは警備兵がユリウスに報告すると言った時点で予測出来ていたことだった。
(まぁ、こいつ相手に言い訳の類いが一切通用しないことはわかっていたが……はぁ、本当のことを言うしかないのか)
マルクトは観念して、ため息を一つ吐いた。
「……そうだよ。お前の言う通り、校舎を半壊させたのは俺だよ」
「……やはりか」
ユリウスも顔をしかめて、ため息をこぼす。しかし、マルクトの言葉はそれで終わりではなかった。
「だが、それはあの時、本気の威力の攻撃を放たなければ倒せないと判断したからこその一撃で、結果的に校舎の半壊という被害まで発展したんだからな。壊したくて壊した訳じゃない。そりゃ確かに、あれ程の威力を放つ必要はあったのか、今でも迷うこともあるけど、俺はあの時の自分の判断を信じる。あの魔物を完全に消滅させるには生半可な攻撃じゃ駄目だと感じたあの時の俺の判断をな。……あと、これは忠告なんだが、あの化け物を只の魔物風情と思わない方がいい。あの時の魔物は人間を操って、最終的には体を乗っ取って暴れまわっていた。俺でも大ダメージを負うほどの魔物だ。油断すれば、お前だと死ぬぞ」
その言葉はユリウスの余裕を崩すには充分な威力を持っていた。
「……俺が負けると本気で言っているのか?」
ユリウスは立ち上がり、青筋を立てていた。
ユリウスの動揺は異常といってもよかったが、高等部時代からユリウスの実力を知っているカトウにとっては、マルクトの言葉の方が信じられなかった。
だが、マルクトはその姿を見ても、言葉を訂正するつもりはなかった。
「戦いながら進化する戦闘技術、人の欲を刺激するあの人身掌握の能力、あの魔物の一撃を耐えられたのは俺のルーンが防御にも特化していたからだ。それでも防御膜まで貫通されて結構ダメージをもらった。ユリウスのルーンじゃ攻撃を受けた瞬間即死だろ?」
マルクトの確認にユリウスは否定の言葉を返せなかった。
学生時代、共に切磋琢磨し、強くなった友人の見解であり、その友人が油断しないほうがいいと言ったということはそういうことなのだろう。
ユリウスはマルクトの言葉を聞き、小さく笑った。
「そうだな。俺のルーンなら当たったら即死だろう。当たったらな」
「ああ、お前なら油断しなければ、おそらく避けきれるだろう」
「よくわかった。お前が今回対峙した魔物が再び現れたら油断せずに戦おう。お前が傷をつけられる程の相手ということなら、お前が校舎を半壊させるほどの攻撃を放つ必要を感じたのも無理はないだろう。今回は不問に処すことにしよう」
マルクトはユリウスの言葉を聞いて、自分には損害賠償がこないことに安堵するが、その一方で、もうあの化け物が二度と現れないことを切に願うのであった。
別にマルクトは秘密や隠し事を人にべらべら話す趣味はありません。
全ては、ユリウスの能力のせいです。
一応言っておきます




