8話 国王からの招待状2
学園の仕事を終えて帰ってきたマルクトの元に、クリストファーが一通の手紙を渡してきた。
マルクトはその手紙を持って自室に戻ると、椅子に深く座りこみ、手紙を見てため息をついた。
封筒の宛先には『マルクトへ』と書かれており、様や殿とは書かれていなかった。
マルクトは頭を抱えていた。
自分のことを呼び捨てにする人物なんて三人くらいしか思いつかない。
そんな中で、カトウとベルは俺に手紙を出す必要性は皆無だから、必然的に俺にこの手紙を送った者は一人しか浮かばなかった。
しかも、たちが悪いことに、この送り主は手紙ですら俺に様とつけなかった。
つまり、だいぶ怒ってらっしゃるのだろう。
この送り主の目的なんて、二つしか思い浮かばない。
今回の件での呼び出しか、ベル達の件で呼び出しか。
どちらにしても、嫌な予感しかしない。
やっぱり開けなくてはならないのだろうか?
見なかったことにして放置するなんてことは……出来ないよな。
あいつには、前回多少だが、協力してもらった訳だし。
マルクトは封筒の封を開け、中から手紙を取り出す。
中に書いてあった内容は最悪なものといっても良かった。
マルクトはベルとメグミに部屋に来るように通信魔法で短く伝えて、改めて内容を読み返した。
『お前に手紙を送るのは久しぶりだな。最近、教師になって大人しくなると思っていたら、学園半壊させたんだって? まぁ、王国の機密情報を守ったというお前の功績を認めて、うちで食事会を開こうと思っているから。絶対来いよ。お前の新しい妹達の件も深く深~く聞きたいから連れて来てくれ。時間は来週の土曜日な。……来なかったらどうなるかわかってるよね? 君より強い王様より』
あの野郎、好き勝手言ってくれるよな。
ていうかあいつなんでベル達のことを気づいたんだ? まさか、調べたのか?
あいつに調べられるのは正直まずすぎる。
だから目をつけられないように、動いていたというのに。
あいつらを目立たせないように動く作戦が完全に失敗してしまった。
どうしよう……あいつ、国のことになるとまじでヤバいのに。
マルクトが頭を抱えているところで、扉がノックされて、ベルとメグミが中に入ってきた。
「旦那様失礼します。何かご用でしょうか?」
「ああ、二人とも急に呼び出してすまないな。お前達に招待状が来ていた」
「招待状?」
招待状という聞き覚えのない言葉に首を傾げるベルにマルクトは優しく説明した。
「招待状というのは、食事に誘われているということだ。今週の土曜日はこいつに誘われて食事会だから、予定を空けておけよ」
「わかりました」
「わかった~」
メグミとベルはそう言うと自室に戻っていった。
マルクトは行きたくないとは思いながらも、さすがに相手が悪すぎたため、渋々行くことを決意したのだった。
「この招待状ってもしかしてカトウの元にも届いたんだろうか? もし届いてたら明日は『ジェミニ』に付き合ってもらうとするか」
独りごちるマルクトを、クリストファーが呼びに来て、マルクトは夕食に向かった。
◆ ◆ ◆
次の日の朝、職員室でカトウに確認するとどうやら、カトウの元にも届いていたらしい。
『カトウ様へ。あなた様の先日の目覚ましい活躍により、我が国の機密情報は守られました。感謝の意を表して、我が国王様直々に食事会を開くことになりました。是非ともいらしてください』
マルクトはその手紙を見て、手紙を持つ手が汗ばむ。
(俺のと全然違う!! あいつ、あれが完全に俺単体の仕業だと決め込んでやがる。……はぁ……行きたくね~。行きたくね~。本気で行きたくね~)
「どうしたマルクト、まるで駄々をこねる幼子のような顔をして。そんなに行きたくないのか?」
「いや、何でそこまでわかるんだよ。そうじゃなくて、いやそうなんだけど、重要なのはそこじゃないんだよ」
「?」
首を傾げるカトウにマルクトは昨日招待状が自分のところにも届いたことを伝えた。
「昨日の招待状には、俺が校舎を半壊させたことがばれているかのように書かれていたんだ。それと、俺の秘密開示を求めた文まで書かれていたんだよ。こんなの書かれてれば俺が行きたくないのもわかるだろ?」
青ざめているマルクトの様子に、なぜ青ざめているのか理由を知っているカトウは、御愁傷様と言葉を残し、巻き込まれてはたまらないとばかりに職員室を退室していった。
そんなカトウを怨めしそうに目で追うマルクトに、メルランが声をかけてきた。
「先日軍兵に言ったように、敵の操る魔物が破壊したと国王様にも同じように言えば良いのではありませんか? そんなに気にすることないではありませんか。確かに王様に嘘をつけば国家反逆の罪に問われてもおかしくはありませんが、私たちが黙っていれば問題ないのではありませんか?」
「そういうレベルじゃないんだよ。あいつが本気なら、嘘なんて関係なく真実を暴くんだよ。……それがあいつの能力だからな」
その言葉を残し、マルクトはふらふらと職員室を出ていった。マルクトの残した言葉の意味を理解して、メルランは事の重大性にやっと気付いた。
「マルクト先生……御愁傷様です」
誰にでも苦手な人っているよね。




