表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
43/364

7話 おでかけ3


(……間が辛い)

 服を乾かしているクレフィはそう思っていた。

 彼女は別に人と話すのが苦手という訳ではない。単に恥ずかしいだけなのだ。先程、下着姿を見られている彼女が平常心でいられる訳がなかった。今まで男子に下着姿などを見せたことのない彼女は内心ではすごくテンパっていたのだ。さすがに後輩の手前、慌てふためく姿を見せる訳にはいかないから、先程は普通に振る舞っていたのだが、時間が経てば経つほど、恥ずかしくなってくる。

 外が大雨でなければ、入れる気にもならないくらい恥ずかしかったのだ。

 それでも、彼の隣に座ったのは早く衣服を乾かしたかったのと、濡れて震えている彼を暖炉の前からどかすのに抵抗があったからだ。

(年上としてここは自分が話を振らなくては!)

 クレフィがそう決意した時だった。

 ユウキがおもむろに服を脱ぎ始めた。

「うわ~下着まで濡れてるよ。これ乾くかな~」

 溜め息をこぼしながら上半身が裸の状態でクレフィの横に座り、服を暖炉で乾かしにかかる。


 この状況を打破したかったのはユウキも一緒だったのだ。

 しかし、何も思いつかなかった彼がとった行動がとりあえず服を乾かすために服を脱ぐことだった。

 その行動により、ここに上半身裸の男子と下着姿で毛布にくるまる女子生徒が暖炉の前で座るという絵面が完成した。


 ユウキの脱衣行動に話しかけようとしていたクレフィは混乱した。しかし、学園の先輩としてそんな姿を彼には絶対に見せられない。

 彼女は、恥ずかしいのを我慢して声をかけた。

「……ユウキ君はさ、学園生活は楽しい?」

 いきなりそんなことを聞かれたユウキはしどろもどろし、目を伏せながら答えた。

「え!? ……まぁ、その、……ぼちぼちです」

「あら……そうなの?」

「あ! でも最近は、いろいろあって少し楽しくなってきました!」

 彼の言葉にクレフィが微笑む。それにより、ユウキの顔が更に赤くなる。

「良かったじゃない。もしも悩み事とかあったら遠慮なく私に相談して良いからね」

 その言葉を聞いたユウキは「悩み……事……」と呟いて急にうなだれた。

 そのユウキの行動を見ていたクレフィは、明らかにユウキが何かに悩んでいるということを察した。

「……何かあったの?」

 そのクレフィの言葉から、ユウキは話すか話すまいか少し迷った。だが、意を決したように話し始めた。

「最近、校舎が半壊した事件があったじゃないですか。あの事件を引き起こしたのは……僕の中等部の頃の担任だったらしいんです!!」

「そうなの?」

 クレフィは今回の事件にダレンという教師が関わっていたことだけマルクトから聞いていた。

 しかし、そのダレンという教師がユウキの中等部の頃の担任であったことは初耳だった。

「……はい、実はそうなんです。……しかも、僕が自分のことをダレン先生に相談したせいで、ダレン先生の妹さんが亡くなられたって聞いて……」


 ユウキの悩み、それは自分がダレンに相談したことにより、彼は妹をサテラス家の当主に人質にとられたことだった。

 ユウキはその事に責任を感じており、今回の事件を引き起こしたのは、結果的に自分なんじゃないかと考えていたのだ。

 そして、今回の件で今の担任であり、この前サテラス家当主の息子を蹴っていたマルクトも、この件に巻き込んでしまったことがユウキには不安であった。

 もしかしたら、今回の件でマルクト先生もサテラス家の当主に、なにかしら弱味とかを握られて脅されているのではないかということを、エリナに今回の件を聞いて以来ずっと考えていたのだ。

 それを聞いているクレフィはただ相槌を打つのみであった。

 そして、全てを聞き終えたクレフィはその形の良い唇を開く。

「それは決してあなたのせいではないですよ」

「……え?」

「ダレン教諭が道を誤られたのは、彼自身の責任であり、あなたに非はありません。それに、ダレン教諭の妹さんが亡くなられた原因のパシメルン病を生み出したのは、パシメルン家が中心となった当時の貴族達でしょう? それが原因なのですから、ユウキ君に何の責任があるというのですか? あなたはただ、自身の辛い環境を変えたかっただけなのでしょう? なら、あなたは何も悪くありません」

 クレフィは、そう言った後に尚も続けてこう言った。

「それから、マルクト先生のことは何も心配しなくてもいいわ」

 ユウキはその言葉に首を傾げた。

「……どういうことですか?」

「あなたの言ったサテラス家の階級は子爵でしょう? それなら、旦那様の方がよっぽど高いもの。サテラス家の当主が旦那様を脅せる筈がないわよ」

 ユウキはその言葉に驚かされた。

(子爵よりよっぽど高い?)

 この国での貴族階級は上から、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順になっている。

(子爵よりよっぽど高いってことは伯爵よりも上ってことだよね? 先生が貴族なのは家名がある時点でわかっていたけど、そんなに上だったなんて……マルクト先生っていったい何者なの?)


 ユウキがマルクトの階級のことをクレフィに聞こうとした時だった。

 急に部屋の扉が開かれた。

「いや~、こんなところにいたのか。これじゃ場所がわからん訳だ。……おい、お前達二人は逃げ切り成功だ。雨も強くなってきたし帰る、ぞ……?」


 マルクトは最後まで言いきって、この場の状況に首を傾げた。上半身裸のユウキと、毛布にくるまるクレフィ、彼女の手に持っている衣服から、彼女がおそらく下着姿なのは予測できた。

 だがなぜか二人の距離が異様に近すぎるのだ。


 それらを見て全てを察したような顔になったマルクトは扉をそっと閉じて外に出ようとする。

 その行動を見た二人は、慌てて止めに入る。

「あぁ……その……なんだ。クリスには黙っといてやるよ」

「何もやってませんよ!!」

 変なことを言いだすマルクトに対して珍しく強い口調で言ってくる顔を紅潮させているクレフィ、そんな彼女に向かってマルクトは、激怒する少女をなだめるような仕草をした。

「まぁまぁ、落ち着けって、もしもの時は俺がクリスを説得してやるからさ。とりあえず服を着てくれよ」


 とりあえずマルクトにそう言われ、二人はマルクトの手によって一瞬で乾いた服を着る。

 それから少しの間、クレフィによる説明が行われてマルクトの勘違いであることがわかり、マルクトが二人に謝罪したことでこの場はおさまった。

 マルクト、ユウキ、クレフィの三人は、他の四人の元にマルクトの空間転移魔法によって一瞬で移動した。

 四人と合流した後、再び空間転移魔法で全員をマルクトの屋敷まで転移させたことにより、本日のピクニックは終了した。


 ◆ ◆ ◆


 エリスとエリナを『ジェミニ』に送り届け、マルクトはユウキを連れて、ユウキの家の前まできた。

 ユウキの家の前で、ユウキと別れようとしたマルクトをユウキが呼び止めた。

「先生、今日はありがとうございました。今日はクレフィ先輩のお陰でとても有意義な日になりました」

「……そうか、良かったな。また機会があったらまたいくか。それじゃあなユウキ、また来週学校で」

「はい先生、また学校で!!」

 そう言って手を振るユウキの表情は昨晩とは違ってスッキリしたものになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ