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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
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7話 おでかけ2


 マルクトが鬼になり開始された鬼ごっこ。

 マルクトの指定した範囲はこの山全体、魔法使用不可という条件に楽勝だと思った逃げる役の六人は散開した。

 しかし、その考えは甘かったとすぐに実感させられた。

 マルクトの機動能力が凄まじいものだったからだ。

 開始数分でなぜか見つけられたエリスは結構距離があったにもかかわらず、たったの数十秒で追い付かれた。


 逃げ場のないこの状況では運動神経に自信のあったエリスでも逃げ切れないとわかっていた。

 マルクトに捕まった者は宿題二倍のペナルティという条件を回避するべく、彼女は必死に逃げていた。

「先生速すぎるよ~」

 マルクトに肩を叩かれてその場にへたりこむエリスに、マルクトは笑いかける。

「まぁ、お前らの先生として絶対に負けられないからな」

 そう声をかけて、マルクトは他のメンバーを探しにいった。


 ◆ ◆ ◆


 マルクトは木から木へと飛び移り、逃げている少女たちを探す。

 今日のメンバーの中で一番運動神経のいいエリスを、彼女が油断しているうちに捕らえられたことは大きいとは感じていた。


 しばらくして、他のメンバーを探すマルクトの耳に枝の折れる音が聞こえた。

 音が聞こえたマルクトは木から飛び降りる。

 そして、マルクトは音が聞こえた方に走りだした。


 音の聞こえた場所についたマルクトは、その辺りをしばらく探していると、緑色と茶色ばかりが広がる光景の中に、黒い何かが茂みからはみ出しているのを見つけた。

 マルクトはその黒い何かがなんなのか気になって近づいたのだが、それの正体に気付いて、思わず溜め息が出そうになった。

「……メグミ、お前背中がはみ出ているぞ……」


 声をかけられたメグミは驚いてとびあがる。

 茂みの中からはみ出ていたもの。それは彼女の着ていた服の背中の部分だった。


「そんな~うまく隠れられたと思っていたんですが、なんで見つかるんですか~」

 見つかったことがショックなのかメグミはうなだれていたが、そんな状態のメグミにマルクトは頭を抱えながら彼女の反省点をあげる。

「隠れるなら、まずは出来るだけ音を立てないように心掛けろ。服がはみ出していなくても音を立てれば、ばれるにきまってるだろ」

「うぅ……すみません」


 マルクトの言葉に落ち込んだメグミは、マルクトに肩を叩かれ先程の公園にとぼとぼと歩いていった。

 メグミも捕まえたマルクトは再び捜索に向かおうとするが……

「ん?」

 その時、マルクトの頭に冷たい雫が当たった。

 マルクトはもしかしてと思い空を見上げると、空は曇っており、いつ雨が降ってきてもおかしくない状況になっていた。

「こりゃ降ってくるかもな~。早く皆を見つけて帰った方がいいかもな」

 そう独り言を呟くと、マルクトは木に飛び乗って、他の四人を捜しに向うかった。


 マルクトの予想は正しく、数分後に雨が本格的に降り始めた。


 ◆ ◆ ◆


 ユウキは溜め息をついていた。

 先生から誘われて来たピクニックで鬼ごっこをしていたら、雨が降り始めたのだ。

 朝は晴れていたにもかかわらず、雨は急に降り始め、今ではどしゃ降りになっていた。

 隠れていた場所から、とりあえず雨のしのげる場所を探しに来ていたユウキは木で出来た小屋を見つけた。

 小屋を見つけたユウキは雨宿りをさせてもらおうと、小屋に入るために扉を開けた。


 直後、ユウキは扉をノックすべきだったと思った。

 ユウキが見たもの、それは濡れた上着をちょうど脱いでいた下着姿のクレフィであった。

 扉を開いて硬直しているユウキと衣服を脱いでいたクレフィの目があって、ユウキの顔はみるみるうちに紅潮していく。

「す……すいませんでしたぁああああ!!」

 そう叫んだユウキは、バタンという音をたてながら勢い良く扉を閉め、雨が降り続ける外に出た。

(なんてことを僕はしてしまったんだー!!)

 ユウキが雨にうたれながら、さっきのことが頭から離れないことに罪悪感を感じて唸っていると、小屋の扉が開かれた。

「……あの、入らないの?」

 頬を少し赤らめたクレフィが顔だけを出し、ユウキに問う。

「いえっ!! 僕はここで大丈夫です」

 ユウキはいきなり声をかけられて飛び上がりそうになるくらい驚いていたが、下着姿だと思われるクレフィの方を見ないように彼女に背中をむけながら応答する。

「もう大丈夫よ。今は小屋に置かれていた毛布を羽織っているから……ごめんなさいね。先程はお見苦しいものを見せてしまって……」

「そっ……そんなこと無いですよ!! とてもお綺麗でした!!」

 ユウキはつい本音を言ってしまって顔が更に紅潮していきゆでダコのようになっていた。

 その言葉にクレフィは、ふふっと声を出して笑った。

「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ。とりあえずそこだと濡れるし、早く小屋の中に入って。これは先輩命令だから断るのはだめよ。風邪をひかれては困るもの」

 クレフィに促されてユウキは小屋の中に入る。

 小屋の中はあまり広くなく、部屋も現在いるこの部屋とトイレがあるだけのようだった。


 クレフィはユウキを座らせると、薪をくべた暖炉に向かって指を鳴らした。

 すると、暖炉に火がついた。

 ユウキは雨で冷えた体を暖めるために暖炉に近づく。

「お隣失礼するわね」

 そう言って横にクレフィが座ってきた。


 彼女は学園の中でも人気が高い。

 誰にでも分け隔てなく接する性格の良さ。実技と座学の成績は常にトップを維持するほどの才女。そのうえそれをひけらかすことなく更に上を見続ける向上心。

 学園の中にファンクラブが出来ているとユウキも人伝に聞いたことはあるが、それに納得してしまう程の美少女。


 そんな人物が隣に座ってきたのだから、ユウキの心は平常心ではいられない。

 そのうえ彼女は今、毛布を羽織っているが、その下は間違いなく下着しか着けていないのだろう。

(だって目の前で着てきた衣服乾かしてるし)

 彼女の下着姿を見てしまったユウキにとって、例え毛布を羽織っていようがいまいが関係なく、彼女を見れば下着姿を連想してしまうのだ。

 ユウキはその煩悩を振り払うことに集中していたため、室内は静寂に包まれる。

 そして、静かな空間の中で聞こえてくるのは、暖炉が薪を燃やす音だけだった。


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